第113話
翌日、
「虹森さん、おはよう。体の方はもう大丈夫?」
「あ、高宮さん。おはよう。」
特に変わったこともなくいつも通りに登校できた私を最初に迎えてくれたのはクラスの臨時委員長を務めている「
オレンジ色のショートカットと明るい笑顔がとても可愛いちっこいけど頼もしい委員長。
「百花繚乱」の1年生の中ではぶっちぎりで強い「カラカル」のあだ名を持った高宮さんはクラスの一番のお悩み解決屋さんです。
常にクラス皆のことに気を遣っていて気配り上手で誰ともすぐ仲良くできるからきっと好きな人もたくさんいると思います。
誰かに何かあったらすぐ聞いてくるお節介だけど一緒に悩んでくれる優しい人。
そんな高宮さんが登校したばかりに私の体調のことを真っ先に聞いてくれて正直すごく嬉しかったんです。
「うん、もう大丈夫。っていうか別に調子が悪かったのすらあまりピンとこないくらいなんだけどな。」
「そう?良かったね。でも無理は禁物だから今日の体育授業は休んだ方がいいよ。」
自分から予め先生に話しておいてあげるって言ってくれる高宮さん。
「そうか…今日は体育の授業があるんだ…」
特に悪いところはありませんが確かに高宮さんの言う通りかも知れませんね。
曲がりなりにも病み上がりですからここはお言葉に甘えて見学ってことでよろしいでしょうかね。
「そういえば緑山さんはどうしたの?」
「ゆりちゃん?」
早速ゆりちゃんの行方について聞いてくる高宮さんですが私は今日もまたゆりちゃんと一緒に登校できませんでした。
朝目が覚めた時、ゆりちゃんは生徒会の仕事でとっくに登校の支度を終えてましたし朝食も済ませてましたから。
それに引き換え寝起きばかりの私は全然学校に行く準備をしてなくてあの時だってパジャマのままでしたから忙しいゆりちゃんを待たせるわけにはいきませんでした。
「おはよう、みもりちゃん。体の具合はいかがですか?最近随分ストレスが溜まって体調を崩してしまったようですね。
今日の学校はどうしますか?やはり今日もお休みにします?」
っと早速私に今日の学校のことを聞くゆりちゃんでしたが
「ううん…昨日は不本意ながらお休みにしちゃったから今日は行く…」
私はなるべく学校に行きたいという意思を示しました。
「そうですか。私は生徒会の仕事がありますのでお先に失礼します。」
「あ…うん…」
やっぱりまだ怒ってる…
怒った時に限って異常に態度が堅苦しくて事務的になってしまうゆりちゃんのことに私は普段との凄まじい温度差を感じるようになってしまったのです。
いつもだったら…
「今日はこのゆりちゃんがずっとみもりちゃんの傍についてあげます!授業中にも、休みの時間にも、お手洗いの時だって付き合ってあげますから!」
っとかどこへ行っても付いていくからそれがまた困るんですがやっぱりこっちのゆりちゃんはちょっと怖い…
私のことを完全に他人行儀で扱っているっていうか…
クッキーを渡した時はあんなに喜んでくれたのにやっぱり謝りの一言も言ってあげなかったのがまずかったんでしょうか…
昨夜、クリスちゃんからゆりちゃんが私のことをずっと見守っていたって言われた時は嬉しかったんですがまだ機嫌を直してないっていうのが今のことで分かって落ち込んじゃうっていうか…
「や…やっぱりここはちゃんと謝って…」
っと昨夜の決心を思い出した私は
「あ…あのね、ゆりちゃん…」
「はい?」
ちょうど部屋から出かけようとするゆりちゃんを呼び止めて自分の気持ちを解き明かそうとしました。
「わ…私、やっぱりゆりちゃんとちゃんと話し合いたい…でもその前にこの間、あんな酷いことを言っちゃって本当にごめんなさい…」
「みもりちゃん…」
ゆりちゃんのことが好き。だからこんな風によそよそしい空気で大切な時間を過ごされたくない。
私にとってはせっかくちゃんとした学校生活が再開できたのだからもっとゆりちゃんと大切な思い出を作りたい。
そういった自分のありったっけの気持ちをゆりちゃんにぶつけた瞬間、
「もう…分かりましたよ。」
ゆりちゃんは再び私に向けて心を開いてくれたのです。
「でも二度とあんなことは言わないでくださいね?ゆりはあれ、本当に傷つきましたから。」
「うんうん…!約束するよ…!ごめんね…!」
っとあの時の気持ちをやっと素直に言ってくれるゆりちゃんに私は二度と自分からあのようなことは言わないと約束して
「私からも本当にごめんなさい。いくら頭に血が上ったとはいえみもりちゃんにあんな酷いことを言ってしまって。」
「ううん…!私は全然気にしないから…!あ…!良かったらギュッとしない…!?仲直りの印ってやつ…!」
子供の頃から喧嘩をするたびに最後にやった仲直りのムギューを提案するようになりました。
「分かりました。来てください。みもりちゃん。」
「うん!」
っと思いきり腕を開いたゆりちゃんに抱かれて自分の方からも思いっきりゆりちゃんを抱き抱える私。
私達は子供の頃からずっとこんな風に喧嘩と仲直りを繰り返して来たのです。
「それと別にみもりちゃんのことが嫌いで先に一人で学校に行くのではありませんから安心してください。
私、昨日も生徒会のことをサボってしまいましたし今日からまた色々と忙しくなりますから少し早めに行って仕事に手を付けておこうと思っただけです。みもりちゃんももう元気そうですし。」
「そ…そうだったんだ…!もちろん元気だよ…!」
嫌われていたのではなかったんだ…良かった…
「大げさですね。私がみもりちゃんのことが嫌いになるはずがないじゃないですか。
ゆりはいつだって「みもりちゃんイノチ」ですよ?♥」
「それはそれで怖いけど…でもありがとう…」
あまり張り切ってないといいんだけどなって思われる複雑な一時でした。
「それでは私は先に行きますから準備が終わったらゆっくり来てくださいね。」
「うん、分かった。じゃあ、学校でね。お仕事、頑張って。」
っと無事にゆりちゃんとの仲直りを果たしてゆりちゃんを見送りできた私はやっと重い荷物を一つ降ろせたように心がスーッと軽くなっていく気がしました。
結局ゆりちゃんが言ったここ数日のストレスってやつもゆりちゃんとのことが殆どでしたしこれで一件落着ってところかなっと私はほっとしました。
クリスちゃんのことは最後まで言えなかったんですがこれからちゃんと話し合っていけばそれもなんとかなりそうな気がしてやっと元の日常に戻れたって気分でした。
それだけで今までの嫌な記憶が飛んでしまうほど私はゆりちゃんと無事に仲直りできたことを心から喜んでいたんです。
でもそれは私だけの都合のいい勘違いに過ぎませんでした。
甚だしすぎてもう笑いが出てしまうほどとにかく酷い勘違い。
ゆりちゃんはこれっぽっちも怒ってなかったんです。怒ってなかったからあんな仲直りなんて最初から必要なかったのです。
あの時のゆりちゃんにはもはやクリスちゃんのことも、私と喧嘩をしたことも全部どうでもいいことだったんです。
「ここはどんな願いでも叶ってくれる悪魔の壺。私はここで勝ち上がってみもりちゃんとの「楽園」を築きます。」
ゆりちゃんはここより遥か遠くところで私と自分だけの「楽園」を築くことだけを考えていたのです。
誰の邪魔も入らない、外部からのどのような干渉も受けない完全に閉ざされた世界。
存在するのはただ二人の少女。
ゆりちゃんはその世界で私との二人だけの「楽園」を築くためにまたあの「地獄」に自分の足で戻ってしまいました。
私がそのことに気づいたのは数日後。
その間、ゆりちゃんは私の知らないところで学校とあの「地獄」を何度も行き戻りしていました。
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