第98話

「あい…そろそろ…」


時は戻り、ついに高ぶりが限界に至ったようなすみれ。

普段顔の表情に代わりがないため、こういう時だけは素直な顔を見せてくれる彼女のことが愛しくて仕方がないあいは


「ええ…射精してもいいわ…」


そのガッシリした首元を抱えて


「出して…?私のに全部…」


すみれのありったけの全てを自分の中に放つことを望んだ。


「出して…すみれちゃん…あなたの全てを私に頂戴…」


抱き合ったお互いの体。

がっついて触れ合った肌を通じて伝わるお互いの体温。

全体的に低い体温に裏腹に何故か全神経が集中しているあそこから感じるあいの体温は熱くて仕方がない。

すみれはただあいの中身を自分の愛情で詰め込みたいと心から思っていた。


やがてその想いが抱き抱えているあいの中に打ち上げられた時、


「来た…♥すみれちゃんの愛がドクンドクンと私の中に入ってくるわ…♥」


あいはただ純粋に一人の女としての喜びを心ゆくまで感じるようになった。


「すごい量…♥まだ入っているよ…♥もう赤ちゃんのお部屋までパンパン…♥」


止む気配もなくどんどん自分の中に入ってくるすみれのことに感心の気持ちを隠しきれないあい。

ちなみに鬼の女性の射精量は男性の半分ほどだが一回の射精でペットボトルなら余裕で満タンにできるとにかく凄まじい量である。


溢れ出した喘ぎ声だけが人気のない森を埋め尽くしてお互いの唾液と体液に塗れた二人はしばらくその肉体を重ね合って愛情の絶頂を覗く。

あいは自分の中で息を切らしながら手を繋いでいるすみれの真っ黒の髪をそっと撫でるだけであった。


「制服…汚れちゃったね…」

「あ…ごめん…」


思い切りぶちまけた自分の半透明でぬるっとした体液があいの股から溢れてくるのに気づいて申し訳ないという顔で即謝るすみれ。

服のことを大切にするすみれにとっては特に悪いことをやらかしてしまったと責任感を感じているようだが


「ううん。予備もちゃんと持ってきたしすぐ着替えられるから気にしないで。」


このことも含めてあいは万全を期していた。


付き合ってからおよそ1ヶ月が経った頃に始まった肉体的関係。

だがあいは今まで一度も


「…ねぇ、あい…私はやっぱりとかつけた方がいいと思うな…」


避妊具を着用したことがない。


「え?なんで?」

「なんでって…」


知らないのか、それとも知らないふりをしているのか。

そのしれっとした顔にまたあいに避妊具の使用を勧めることができなかったすみれ。


「女の子同士だし絶対妊娠しないってあの「酒呑童子」様が言ってたんでしょう?鬼にとっては極普通な交流の方法ではないかしら。」

「そりゃそうだけど…」


すみれを含めた全「鬼」が崇めている神話的な存在である「酒呑童子」。

鬼は他の魔族と違って「酒呑童子」という自分達だけの生き神を持った種族であってその「酒呑童子」の言葉こそ唯一の真実であった。

その「酒呑童子」の保証だからこそ鬼のすみれにとって何よりも信用できる一言であったが


「私はあいの体に何か悪い影響が及ぶのを怖いだけで…」


彼女はとことん恋人のあいのことをひたすら思っていた。


「大丈夫。このご時異種結婚なんていくらでもあるし。」

「そうじゃなくて…」


後ろから制服の着替えを済ましたあいにこっそり隠してきた気がかりのことを打ち明けるすみれ。

あいにしてはそのことを聞かざるを得なかったが


「私が心配しているのはあいに変なが目覚めることだから…」


どうやらすみれは自分が思っていたよりもずっと心配性だったようだ。


「せ…性癖って…私、何か変なことでもやらかしたのかしら…?」


今までの自分の行動を省みるあい。

しかし心当たりが全くなかったあいはこの後のすみれからの話に自分自身にも知らなかった自分の個性を確認することができた。


「好きすぎっていうかさ…とか…ちょっと言いにくいけど…」

「あいちゃん!?」


その辺で声が出そうだったゆうなとみらいだったがかろうじて口をふさいで話の続きに耳を澄ます。

だがそこからのすみれの話は女経験が豊かなゆうなならいざしらずそういうことと全く縁がないみらいにとっては衝撃の連続であった。


「ゴム使ったら後片付けも楽だし念のためにも使った方がいいと思う…快楽だけを求めちゃいけないよ、あい…」


ただ純粋にあいのことを気にかけて説得しようとするすみれ。

だがそんなすみれの心からの説得にもかかわらずあいの答えは


「嫌よ。絶対。」


こうであった。


あまりにもきっぱりとした答えに言い返す言葉すら見つからないように呆然としてしまうすみれ。

だが今の言葉は随分あいの機嫌を損ねたように見えた。


「別に快楽だけが目当てってわけではないわ。私はすみれちゃんだから自分のことを許しただけ。

すみれちゃんだからこそ私はあなたの全てを受け入れたい。あなたのことがもっと知りたいの。」


明らかに不機嫌そうな顔。

自分の心配が思わずあいのプライドと心に傷をつけてしまったことに気がついたすみれはただ黙ってあいの言い分を聞くだけであった。


「私の両親は家の反対も押し切って結婚なさったの。私はそんな運命的な出会いをずっと信じ求めていたのよ。」


愛し合ってお互いのことを信じ合う両親の愛こそ自分が目指さなければならない愛の然るべきの形。

自分の名前である「愛」にどれほどの愛が込められているのかあいはそのことを自分の身を持って知っていた。


「私はすみれちゃんに心配掛けるほど軟弱じゃないわ。あなたの子供ならいくらでも産んであげるしそんな覚悟が私にはできているの。」

「あい…」


不器用だが誰よりも自分を大切にしてくれるすみれ。

あいはそんなすみれに本気で惚れていた。


だがあいが言い分はそれだけではなかった。


「大体性癖といえばすみれちゃんだってすごいのよ?」

「わ…私…?」


どうやら今度は自分の番であることを予感したようなすみれに今までの経験を並び始めるあい。

あいは特に主導権の殆どを自分が握っていることに不満を抱えていた。


「たまにはすみれちゃんの方がリードしてみるのはどうかしら。いくら私が神界のことを率いているからと言って別にすみれちゃんまでその空気に引っ張られなくてもいいんじゃないと思う。

むしろ私は初めてみたいに私のことを荒っぽく扱ってもらいたいのよ。」


昨年、二人が初めて共寝をしたのは「灰島」所有の最高級ホテル。

当時のことをあいは今もはっきり覚えていた。


「もうびっくりしたのよ。まさか同じ女の子なのにあれが付いていとは。しかもあんなエグいサイズで。」


自分のような初心者には多少ハードルが高い大きさ。

本音を言うとあの時は腹が壊れそうな気分だったとあいはそう覚えていた。


「なのにすみれちゃんって初めての私相手に全く手加減ないしで襲いかかっちゃって。

ベッドの上に押し倒しては上に乗ってちゃめちゃ突っついてくるしいきなり抱き上げてそのまま挿れちゃったりもう完全にだったのよ?

私、48とか初めてだったから。」


その時、あいは自分の中では内在されていた新しい自分を見つけることができた。


「私、いつも上に立つ立場だったし自分のことをあんな風に扱った人はいなかったから正直に言って衝撃だったわ。

でもなんか胸がスカッとしてとにかくいい気分だったの。」


まるで抑制されていた欲望が一気に解き放たれたような開放感。

負け知らずの人生の連続であれ程の敗北感は断じて経験したことがない新境地であった。

今まで周りに命じられ、期待されてきた分、ずっと自分の中だけに抑え込んでいた不満や怒りが一気に噴出されるすこぶる清々しい気分。

脳内が溶けてしまうほど分泌されるドーパミンやアドレナリンにそれまでの鬱憤が晴れる気がしたあいは週末まるごとすみれと体を交わった。


だがそれはあくまで恋人のすみれに限って容認される敗北でそれ以外は微塵の興味もないあいであった。

「黄金の塔」のトップとしてのプライドはそう簡単に変わるものではないということをあいは誰よりもよく理解していた。


「でも私、負けるの嫌いだからすみれちゃん以外にはわざと負かされる気はこれっぽっちもないわ。

だからこれからはたまにでもいいから今日や最初みたいにすみれちゃんの方から誘って頂戴。

彼女のことなんだからもうちょっと構って欲しいよ、私。」

「あ…うん…ごめん…」


再び面目ないという顔。

だがあいは自分の初めてがすみれであることにずっと感謝していた。


「すみれちゃんが私のためにどれほど頑張っているのかすごく知っている。

私は女子力の高いすみれちゃんに比べたらずっと劣っているだけの半人前の彼女に過ぎないけど自分なりにあなたのことを喜ばせてあげたい。

こんな私でも好きにしてくれるあなたのことがもっと知りたかったの。

初めてからありのままのすみれちゃんを受け入れようとしたのは多分それがきっかけだったかしら。」


自分の胸にそっと触れてきたあいの手。

白くて細いてあいの手はきれいで体温が低いため、少しひんやりしていたがそこで流れてくる温かい気持ちはとても心地良いものであった。


「だからその話はここでおしまいにしない?私、すみれちゃんと一緒じゃないとこういうのしたくないもの、私は。」

「うん…そうか。ありがとう。」


なんとか納得したように一段と気が楽になった表情のすみれ。

だがこれがいつもの丸め込むあいの技であることをまだ彼女は気づいてない。


「じゃあ、これからも今まで通りにやってくれるんでしょう?。」

「ああ。任せてくれ。」


あいはそんなすみれのことがアホ可愛くてたまらなかった。


「すみれちゃん…完全に騙されてるじゃん…」


そしてそれを藪の中で覗き見しているゆうなにはすみれがただあいに誑かされているようにしか見えなかった。


「鬼って人が良すぎて騙されがちなんだから…特に「赤鬼」の「灰島」は…

でしょ?みらいちゃ…」


っと隣のみらいに意見を問うゆうな。


「ダ…ダメですよ…!二人共…!」


だがその時に目撃したのは突然発動した母性本能によって道を外しかけている二人を正しい道へ戻そうとしているみらいの姿であった。

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