第94話

「みらいちゃん?」


消灯後、うみやみもりのことでどうしても眠れなかったみらいは少し外でも歩こうと思った。


「どうしたの?こんな時間に。」


そこで出会ったのは「百花繚乱風紀委員会」「団長風紀委員長」の「結日ゆうひ優奈ゆうな」であった。


夕日に染まった麦畑の髪の毛。

風景に描いたようなその美しさとおっとりした顔つきは団長としてのたくましさと最高学年としての優しさと気品を同時に帯びていたが


「あ!分かった!オ○ニーしたいんだ!」


残念ながら彼女に頭の中は煩悩にまみれていた。


女性遍歴で悪名高い父譲りとして受け継いだ気質。

生殖能力が低いゆえあまり子孫を産まない「竜」の一族にしては珍しい性質だったが彼女の場合はなぜか主に同性の人に強く惹かれた。

まさに子孫を残すという大義名分も失ったただひたすらの性欲に基づいた本能。

彼女もまた父のように既に自由に出会えるパートナーを何人も持っていてその中には第3の教師や現役の政治家、世界政府関連者などの社会で認められている職業の女性も多数含まれている。

だが肝心な恋愛の方には大した興味を見せていない彼女のことはなかなか不思議な存在であった。


「もう…ゆうなちゃんでもあるまいし…」

「まあまあ、恥ずかしがらなくてもいいじゃんー私とみらいちゃんの仲だからーオカズ要る?私も手伝ってあげるよー」

「や…止めてください…!」


っと自分の目の前でスカートをめくろうとするゆうなに思い切り嫌がるみらい。

だがゆうなは最近のみらいは結構いい感じで気分が良かった。


去年うみのことであまり笑わなくなってしまったみらい。

そんな彼女のことを友人達は皆心配していた。

特に周りからみらいの正室と認識されているセシリアの場合は一段とひどかった。

あえて平然と振る舞っていたが周りの皆はそんなみらいのことが心配で仕方がなかった。


だがここ最近みらいは少しずつ笑顔を取り戻すようになった。

新入部員のみもりがやってきてなんとか元気を出せるようになったみらいのことに友人のゆうなはただそのことが嬉しくて仕方がなかった。

また去年のうみと一緒の時のように笑えるようになったみらいのことが自分に元気と勇気を与える。

結局自分も人を守るための「守護竜」であることを改めて思い知ったが時々気にかかることがある。


「でもどうかうみちゃんのこと、忘れないでね。みらいちゃん。」


今の幸せにうみとの思い出を忘れないで欲しい。

例え環境や時間が変わっても変わらないものがあってそれを決して忘れてはいけないということを彼女は自分が経験した辛い時間の中で痛いほど学んだ。

彼女はどうかみらいがうみとの時間を辛くてもきれいな思い出としていつまでも大切にして欲しかった。

それがどれほど辛くて困難な道であろうと最後まで守り抜くこそかつて心から愛した相手への最後の礼儀だと彼女はそう信じていた。


「まあまあ!そんなに遠慮しなくてもいいって!」

「だ…だから止めてってば!」


無論ただみらいの反応が可愛すぎてからかってあげる気持ちも確かにそこにはあった。


***


「そうかー二人共仲直りできたんだ。」

「はい。皆のおかげでなんとか。」


それからみらいはみもりからもらった嬉しい知らせを友人のゆうなにも話した。


「良かったね。前から心配だったから、あの二人のこと。」


無事に仲直りできたかなとななのことを純粋に喜ぶゆうな。

だが同時に


「あーでもそうなったらこれからかなちゃんにちょっかいは出せないかもなー」


今後かなに何か頼む時に気をつけなければならないことも彼女は本能的に気づいてしまった。


「かなちゃん、よくムレムレでパンツとか脇とかよく見せてくれたから良かったのになー「あはは!これが楽しいの?」って。

でも副会長ってざっと見てもめっちゃ怖いいからこれからは多分無理かなー」

「ゆうなちゃんならあまり関係ないと思うんですけど…」

「そうかなー」


ななの性格をよく知っているからこそ実感する難関。

だがみらいは彼女ならなんとなくできると何故か薄々感じていた。


「それにしてもまさかあのうみちゃんがね。しかも巫女様まで巻き込んじゃって。」


うみのことは特に意外とは感じてない。だがまさかあの巫女ルビーが彼女に協力するとは思わなかった。


「巫女様、前々から言ってたんだ。副会長のことを力付くでも本国へ帰すって。

まあ、気持ちは分かるよ。吸血鬼にここでの生活はあまり向いてないからきっと体にも悪いんだろう。」


だがかなと別れることで及ぼされる悪影響の方もまたよく知っていた自分にはどっちを優先すべきか、天秤にかけてどのような選択をするべきか、その先のことまでよく見えていた。


「私だって同じ選択肢を取ったと思う。やっぱりそういうの嫌じゃん?」


っとポケットの中で古いペンダントを出して中身を見せるゆうな。

そこには赤い髪の毛を持ったある「人竜ドラゴニアン」の少女が幼い頃の自分を一緒に笑っていた。

彼女はただ廃れて崩れていくだけの人生だった自分を救ってくれたたった一つの「結日ゆうひ優気ゆうき」という名前の宝物であった。


「一緒にいたいのなら一緒にいた方が絶対いいよ。じゃないと後でめっちゃくちゃ後悔しちゃうからね。これ、経験談だから。」


苦い笑み。

普段活発で元気な彼女が唯一落ち込む時が腹違いの妹の話をする時であることをよく知っていたみらいは


「ありがとう。ゆうなちゃん。」


友人の優しい心遣いに感謝の気持ちを表した。


「私もそう思います。」

「でしょ?」


そして二人はお互いのことを見つめ合ってそっと微笑んだ。


「ゆうなちゃんってうみちゃんのこと、まだ「うみちゃん」って呼んでくれるんですね。嬉しいです。」

「まあ、人前では控えているんだけどね。それにあいちゃんからもうみちゃんにはあまり話しかけないようにされているし。」

「そうでしたね…」


団長として他の生徒達に示しがつかないという理由でうみとの接続を「百花繚乱」の実権である第3席「速水はやみあい」から禁止されているゆうな。

「百花繚乱」内では団長のゆうなの方が上だったが


「さすがにあいちゃんはだから。」


残念ながらゆうな自身には何の権限も与えられなかった。


「私、もうすぐ見回り終わるからまだ眠れないならちょっと付き合ってくれない?みらいちゃんと話すの久しぶりだし。」

「あ、分かりました。」

「ありがとう。」


そろそろ交代の時間でもうしばらくみらいと話がしたかったゆうな。

彼女はみらいには知らない「百花繚乱」内部の話を少しだけ聞かせることにした。


「百花繚乱」の主な仕事は風紀の乱れを取り締まり、生徒の安全保護。

所属した生徒は全員特殊部隊と言ってもいいほど日々厳しい訓練を受け、あらゆる状況に備えて自分を鍛え上げる。

また軍や警視庁で行う訓練にも参加して実戦経験を積み、いかなる状況にも対応できるようにより現場に近い感覚を身につける。

卒業後は世界政府の正規軍、及び私設部隊や警護で自分の能力を活かして活躍する。

よって「百花繚乱」はただそこに所属していたという事実だけでも名誉にたることである。


「でもまさかあの誇り高き「百花繚乱」が派閥なんかを組んで争っているだなんてね…」


既に自分にはどうすることもできなくなった「百花繚乱」。

「百花繚乱」の輝かしい歴史にヒビが入ってきたことにゆうなは団長として大きな恥じらいを抱えていた。

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