第92話

「そうでしたね。」

「はい。」


その日の夜、私はラウンジに出て日程を終えてホテルに戻った先輩と電話をしました。


毎年世界政府付属校は「神樹様」のところに見学に行ってそのご恩と恵みに感謝し、勉強することになっています。

春には3年生、夏には2年生が、最後に秋には1年生が見学に行くことになっています。

勉強と言ってもただ「神樹様」のご近所にある神社や観光地に遊び回ることですしそう堅苦しい行事ではないらしいです。

何より先輩は入学してから初めて会長さんと一緒に見学に行くことができてとても嬉しいそうです。


「セシリアちゃん、ずっと忙しくて一度も一緒に行けませんでしたから。クラスは違いますがなんとかずっと一緒にいられました。」

「そうでしたね。良かったんです。」


本当に嬉しそうな声。

電話の向こうで先輩がどういう顔をしているのかなんだか想像できるような気がします。


先輩には今日あったこと全てを報告しました。

赤城さんとかな先輩が仲直りできたこと、青葉さんとクリスちゃんが手伝ってくれたこと、そしてゆりちゃんと喧嘩したことも含めて全部話しました。

先輩はお二人さんが仲直りできたことにはすごく喜んで私にお礼を言いましたがそのせいでゆりちゃんと私が揉めてしまったと聞いた時は


「大丈夫ですか…?みもりちゃん…」


っと私のことを心配してくれました。


「だ…大丈夫ですよ…!喧嘩なんていつものことですしすぐ元通りになりますから…!」


そんな先輩を安心させるために私はあえて平気そうな自分を装うことしかありませんでした。


「ああ見えてもゆりちゃんって結構単純だからちょっと機嫌を取ればすぐ直してくれるはずです…!

むしろまたくっつきすぎるようなならないか心配になるくらいです…!」

「ならいいんですけど…」


でもまだ気にかかるところが多そうな先輩の不安な答えが心を苦しませてしまいます。


正直に言ってもどうしたらいいのかちょっと…いや、かなり混乱しているんです。

今まで私のことが大好きって言ってくれたファンはいくらでもいたしゆりちゃんもあまり一々反応してなかったんですから。

まあ、たまにすごい目で見られたりはしましたが少なくても今回みたいに面と向かって敵意を表したりすることはなかったんです。


「私とみもりちゃんは誰にも断ち切れない固い絆が結ばれてますから。今更有象無象の雑魚達になんかにどうにかできるものではありません。」


って私とのことだけには自信たっぷりだったゆりちゃんがなんでクリスちゃんのことをまるで敵のように敵対するのか私にはどうしても分かりません。


いや…実は大体の予想は付きますよ…

だって式が終わった後、クリスちゃんいきなりあんなこと言っちゃうんですもの…


「み…みもりちゃん…ちょっといいですか…?」

「どうしたの?クリスちゃん。」


赤城さんのところにもいかず急に私にお願いしたいことがあると言うクリスちゃん。

でもあの時のクリスちゃんはなぜかすごくもじもじした落ち着かない様子だったのでふと私はそこから何かただならない予感を感じ取ったのです。


「こんな頼みをしている場合ではないというのはよく知っています…でもこういうの、今のみもりちゃんにしか頼めなくて…」


っとすごく言いづらい顔をしているクリスちゃん。

私は私で今回のことでクリスちゃんにはちゃんとお礼するつもりだったし自分にできることなら気兼ねなくなんなりと言って欲しいと言いました。


「やっぱり「フェアリーズ」の限定グッズとか?そういうものならいくらでもプレゼントするよ。売れ残りなんで申し訳ないけど良かったらもらって欲しいかな。

だってクリスちゃんは「フェアリーズ」のファンだしもう私の友達だもん。」

「友達…」


でもその一言がクリスちゃんにとって多分一番嬉しいものだと私は喜んでいるクリスちゃんの顔を見てそう思うようになりました。


「だから何でも言ってね?」

「あ…ありがとうございます…じゃあ、友達のみもりちゃんに一つお願いが…」


っとやっと自分の欲しいものを決めたクリスちゃん。


「よ…良かったらみもりちゃんの…頂いてもよろしいですか…?」


でもクリスちゃんから私に願ったのはそういう可愛いものではありませんでした。


「えええええ!?」


思いっきり驚く私と自分でも恥ずかしくて死にそうな顔のクリスちゃん。

その瞬間、私は今の自分がとてつもなく失礼なことだと気づいて


「あ…!ごめんね…!クリスちゃん…!別にそういう意味じゃなくて…!」


早速今の行動を謝りました。


「い…いいえ…!みもりちゃんのせいじゃないです…!誰だってこんな頼みされちゃったら驚くんでしょう…!」


でもむしろ自分の方が変なことを言って申し訳ないって逆に謝るクリスちゃん。

私は今の自分の軽率な行動でどんどん縮まってきたクリスちゃんのことをなんとかフォローしてあげたったんです。


「ぜ…全然変じゃないよ…!?うちのゆりちゃんだっていつも私のパンツやタイツをお守りみたいに身に着けているし女の子なら大なり小なりそういう趣味持っているじゃん…!?」

「そ…そうですか…?良かった…」


っと胸をなでおろすクリスちゃんですがなんか嘘をついているみたいな気分でそれを見ている私はかなり複雑な気分です…


で…でも意外だなって思ってはいます。

ああいうのゆりちゃんやあのゆうなさんしか頼まないと思ってたんですがまさか「魔界王家」の姫様のクリスちゃんまでそういう趣味だったとは…

まあ、人に迷惑を掛けない範囲ならその趣味がどうあれ尊重されるべきだと私はそう思う主義なんですけど…

意外にメジャーな趣味だったりするのかな…


でもそこにはクリスちゃんなりの理由があったことを彼女の次の言葉で私は気づくことができました。


「実は私…能力を使ったらその…が強くなったりして…だから解消しなきゃ余計に苦しくなるっていうか…」


思いっきり恥ずかしがっているクリスちゃん。

でもそれがクリスちゃんが自分なりに勇気を振り絞って私に明かしてくれたクリスちゃんの大事な秘密であることを知っていた私は決してそれに関してやましいとは思いませんでした。

やましいところかこんな私を信じて自分の秘密まで教えてくれたことに感謝までしているくらいです。

でもそれがゆりちゃんもまた同じって気づいた時は憂鬱で仕方がなかったんです。


「そ…そうだったね…!重要だもんね…!解消…!あ…!パンツだったよね…!?ちょっと待ってて…!」


っとその場で下着を脱ぐ自分の行動力に自分自身も感心してしまいます…


「先汗かいてちょっと汚いんだけどいいのかな…」

「それがいいです…!」


ええ…!?なんかすごく食いついてきたんですけど…!?クリスちゃん…!


そして脱ぎ切った私から自分の手でクリスちゃんの手に握らせる薄緑色の縞柄の下着を見て複雑な気分を困惑さを増していきました…


「ふ…ふつつかなパンツですがどうぞお受け取りください…」

「ほ…本当に私が頂いてもいいんですか…?こんな貴重なもの…」


貴重って…なんかすごく恥ずいんですけど、その表現…


「い…いいから受け取って…!っていうか他の人達に見られたら色々まずいし早く…!」


誰かに見られたら多分変な噂になっちゃう…!

そう思ってクリスちゃんに早く納めて欲しくグイグイと押し付ける自分…

うわぁ…!一体何なんだよ、この状況…!


「あ…ありがとうございます…大切に使います…」


どこに…?


「みもりちゃんって案外汗っかきさんなんですね…濃厚な匂いがもうこんなに染み付いて…♥」


な…なんかすごく楽しそうな顔…

っていうか本人の前で感想聞かせるのは止めて欲しいな…


でもあの時のクリスちゃんを見て私、気づいたんです。

もしかしてクリスちゃんって私が思ったより私に対して特別な感情を抱いているのではないかと。

だって


「これがみもりちゃんの匂い…私が知らなかったみもりちゃんですね…」


クリスちゃん、あんなに幸せそうな顔をしてたんですもの…


今まで出会ってきたどのファンからでは見られなかった顔。

私にその笑顔を見せてくれるのはこの世にたった一人しかありませんでした。


私よりずっと体が多くて勉強も、運動も何でもできる女の子。

栗色の髪の毛とピョコッとしたお耳とサラサラなしっぽがとっても愛らしくて子供の時からずっと私の傍にいてくれた大切な幼馴染。

あの子はいつも私のことを大好きって言ってくれて私を見て笑ってくれました。


クリスちゃんの笑みは私に向かって笑ってくれるゆりちゃんにそっくりだと心の底から私はそう気づきました。


だからこんなに苦しんでしょう。

ゆりちゃんが抱いているクリスちゃんへの嫉妬も、私との出会いによるクリスちゃんの喜びも同時に分かっていますから。


「だとしてもあんなひどい言い方はダメって思います…クリスちゃん、私達の「フェアリーズ」のことをすごく大切にしてくれたのに大切なファンに向かってあんな言い方ないですよ…

それってクリスちゃんはもちろん「フェアリーズ」にかかわる全ての思い出まで否定しているってことですから…

おまけに私のことを人では何にもできないとか子供とか好き勝手に言っちゃって…」


いくら頭に血が上ったとはいえ大切なファンにそんなことは言っちゃダメです…

私達に「フェアリーズ」という大切な思い出ができたのはクリスちゃんのような応援してくれるファンがあったこそなのに…


「まあ…私だって保護者気取りとかひどいこと言っちゃったからそれは悪いって思ってはいるんですけど…」

「そんなことまで言ったんですね…マミーだったらすごく悲しんだと思います…」


っと先の自分の発言を省みる私にもし自分がそんなことを言われたらその場で泣いちゃったと言う先輩…

やっぱりそこまでは同感してくれないんですね、先輩って…まあ、自分でもそこは自分も十分反省しています…


私の方こそいくら興奮したってあんなことを言ってはいけませんでした。

ゆりちゃんはあの家に攫われた私を救うため、自ら危険に身を投じて私のことを助けてくれたのに私ってそんなゆりちゃんに母親づらとか保護者気取りとか言っちゃって…

傷つくんですよね…?あんなの絶対傷つくんですよね…?


自分ではすっかり一人前の大人になったつもりでしたけど今日のことで自分はまだまだってことが思い知らされちゃいました。

自分はゆりちゃんのことなら誰よりも理解していてたとえどんな困難が立ちはだかっても乗り越えられると思ってましたが私はあんな言葉で大切なゆりちゃんを痛めつけたりするなんて…

私ってどんだけ大バカなんでしょうか…


「ま…まあまあ…みもりちゃんだってこんなに反省しているんですから…」


っとあまりにも落ち込んでいる私をなんとか励ましたかった先輩。

先輩はちゃんと謝って話し合えば大丈夫だと言いましたが


「それにうみちゃんもきっとみもりちゃんなら大丈夫だって信じているようですし。」


私はその言葉だけはパーッと理解できませんでした。

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