第6話
「
戦争と生態系の破壊で絶滅危惧種として分類される「
似たような例えとしては魔界の「
古代の人間と敵対していた獣人と違って人間と長年の関わりを持った人獣は人間にとってそれなりに親しい種族ですが、ある日を堺に彼らは人間との関わりを絶って人間の社会から姿を消しました。
それについては色んな説がありますが、最も有力な仮説としては人間社会の残酷性に呆れて姿を消したということがあります。
人獣は自然と人間の共存を優先した優しい種族ですから、きっとそうだったのかも知れません。
見た目は殆ど人間に似ていますが全員が動物のお耳と尻尾を持っていて、真面目で誠実な性格の人が多いと言われている。
また世界政府に勤める人が多くて今の時代に最も影響力のある種族と言っても過言ではありません。
そしてその人獣の皆を統率するのが「十二家門」と呼ばれる集団で、その中でも最も番大きな影響力を持っているのが総帥の「馬の一族」です。
背が高くて皆が頭の上に可愛いお耳とサラサラな尻尾を持っていて、とても優雅で力強そう。
しなやか身なりとよく鍛えられた筋肉質の肉体、そしてくじけない真っ直ぐな性格が特徴。
世界政府樹立の立役者と一人として最も大きな影響力を振る舞っている「馬の一族」は今も世界の平和のために一生懸命頑張っています。
そしてその「馬の一族」の次期当主であるのが、こちらの私の大切な幼馴染である「
栗色のきれいな長い髪の毛と透き通った青い目。
ぴょこっとしたお耳には子供の時の私が誕生日にプレゼントした古い髪飾りが大切に飾られていて、今もすごく大事にしてくれています。
満開した花のような華やかさと優雅で上品な身のこなし、そして自然と体中から流れてくる気高さ。
淑やかでおっとりした雰囲気はまさに「大和撫子」と呼ぶにふさわしい。
名門「緑山」家の令嬢として、そして常に上に立つものとしての姿勢を忘れないように堂々と振る舞っているゆりちゃんは子供の時からずっと私と一緒のたった一人の大切な幼馴染なのです。
元軍人の両親の間で生まれた勇ましくて堂々とした強くて可愛い女の子。
弱虫で臆病な私のことをずっと傍で守ってくれた私の大切な幼馴染ながら憧れだったゆりちゃんですが、
「今日の一日はどうでしたか?」
「そ…そうね。ちょっと体験入部的なやつをやってみた…かな?」
「そうでしたか。私は今日一日中みもりちゃんのことを思ってオ◯ニーしました♥」
「え。嘘でしょ。」
たまに何を考えているのか全く分からないところもあります。
中学校の時は生徒会長、高校に入学して即生徒会に入った運動も、勉強もなんでもできる自慢の幼馴染。
ゆりちゃんの傍にいるとなんだか自分がすごく色褪せたように見えたりはしますが、それでも私はゆりちゃんのことを誇らしく思っています。
兄妹がいない私にとってお姉ちゃん的な存在であるゆりちゃんは子供の頃からずっと傍で私のことを見守ってくれたのです。
そしていつも私のことを第一として思って、応援してくれる存在だったのです。
「先、学校でも聞いたんのすが、まさか本当にみもりちゃんがあの同好会に興味を持つとは思いませんでした。」
「まあ、成り行きっていうか、その場の勢いっていうか…」
っと自分でも自分のことが理解できないと言う私のことを珍しいって顔で見つめるゆりちゃん。
でもゆりちゃんはどこか少しほっとしたような顔をしていたのです。
「でも私、実は少しほっとしました。
ようやくみもりちゃんが自分の大好きに向かって勇気を出してくれたようで。」
「そんな大層なことではないと思うんだけどな…見学だけだったし。
まあ、楽しかったけど…」
「うふふっ。そうですか。」
癖の「うふふっ顔」でそっと笑ってしまうゆりちゃん。
ムムムッ…何か子供扱いされているのかな、私…
ゆりちゃんって昔から私のことを子供だと思っているみたいなんですよ…
私だってもうこんなに大人なのに…なんか納得いかない…
「ゆりちゃんはどうだった。生徒会のこと。」
「私のことですか。」
っとそっちはどうだったという私からの質問に、
「ええ。結構いけそうな感じでした。」
ありのままの感想を述べるゆりちゃん。
「皆、すごく優しそうだったし、親しく接してくれて結構楽しませてもらいました。」
「そう?良かったね。」
「まあ、ちょっと気難しそうな人もいましたが。」
皆、名門「緑山」家の令嬢であるゆりちゃんのことを煙たがらず接してくれて私としてもすごく助かりますが、どうやら皆が全部同じだったわけではなさそうです。
でもゆりちゃんならうまくやっていけると私は信じています。
だってゆりちゃんはお父さんのように将来世界政府の官僚になってこの世界をもっと良いところにするのが夢なんですから!
自慢の幼馴染なんですよ、本当に。
でも本当のことを言うとその夢を目指すには本当はこの学校より進学校の「第1女子校」に進学した方が良かったんです。
あそこは半私立のこことは違って世界征服の直属付属高校で、色々有利ですから。
多目的校とはいえ「芸術文化系」の色彩が濃いここ、「第3女子校」ではなくそっちに向かった方が良かったと、今更私はそう思います。
ゆりちゃんがこの学校に来たのは全て私のため。
私のために第1からの推薦も遠慮してこの学校に一緒に来てくれたゆりちゃん。
私はそのことにずっと申し訳ないって気持ちを抱えているのです。
単に幼馴染の私のためとはいえ本当にそれで良かったのかなっと密かに悔やんでしまう私は卑怯な人間なのでしょうか…
私がここを選んだのは単に私のワガママ。
それにゆりちゃんを巻き込んでしまって今更そのことに申し訳無さを感じている。
私はまた胸の底から湧き上がってくる自己嫌悪にぐっと目を閉じてしまったのです。
「まあ、本当の夢は他にありますけどね。」
っとまるで私の気持ちに気づいたようにそっと本当の気持ちを明かしてきた優しいゆりちゃん。
「うふふっ…♥みもりちゃん…♥ゆりは永遠にあなたと一緒にいたいです…♥」
「な…なんか目が怖いよ…?ヤバそうなハートも浮かんでいるし…」
でも私はあえてそのことは聞かないことにしました。
今日は色々あってすっかり疲れてしまった私のことを布団の中で宥めてくれるゆりちゃん。
子供の頃から私達はこうやって同じベッドでお互いの体を抱き合っていることが多かったのです。
特に去年、あそこからやっと抜け出してからは…
ってすみません…!これは別に関係ない話ですから忘れてください…!
ん?でも生徒会って確かに…
「あ、そういえば先、あの同好会の部長さんが来ました。
まあ、来たというより副会長に呼ばれたというのが正しいかも知れませんが…」
っと先、学校での記憶を振り返るゆりちゃん。
それは私が初めて先輩と出会って別れた時からの話で、ゆりちゃんはその場に立ち会っていたそうです。
その辺ですでに嫌な予感を感じた私は、
「はい。前から廃部の話はしていましたが、おそらくこれが最後通告ではないかと。
今日、初めて同好会のことを知ったみもりちゃんにはとても残念な話ですが…」
ついに自分の嫌な予感が当てはまってしまったことに気づいてしまったのです。
「ごめんなさい、みもりちゃん。いきなりこんな話をして。」
「ううん…!別にゆりちゃんのせいじゃないから…!」
せっかく私がやる気になったのに水を差したしまったと謝るゆりちゃんをなんとか慰めてやりましたが、本当のことを言うと私は本当はすごく残念がっていたのです。
だって私は本当にあの同好会が好きになりましたから。
だからこのまま、なくなるのはやっぱりすごく寂しくて悲しかったのです。
「やっぱり私がもう副会長に話を…」
「ううん。ゆりちゃんだってまだ新入生だし、目をつけられたら困るから。」
「でも…」
なんとか私を元気づけるために自分にできることはないかと悩むゆりちゃんのことはとても嬉しいですが、ゆりちゃんだって私と同じ今年入学したばかりの新入生なんですから。
ダメって言われたのになにか話をかけてみようとしても単なるワガママにしか思われないだろうし、何よりゆりちゃんに迷惑がかかるから。
それに私はやっぱりそういうやり方ではダメなような気がします。
目を閉じれば今でも思い出せるほど鮮明な先輩たちのこと。
キラキラでとても楽しそうに歌って踊る先輩たちの姿はプロのアイドルより眩しかったです。
先輩たちの歌を聞いていたら胸のそこから何かがぐっと湧き上がってこんなにも胸がいっぱいになる。
そしてどこかすごく懐かしい気分がしていつの間にか夢中になって、自分も一緒に歌いたくなる。
私は先輩たちの歌は人の心を動かす力があると、心からそう感じました。
だからもっと先輩たちの歌が、ライブが見たい。
その思いに一点の嘘もありません。
でも先輩たちの力になるに自分はあまりにもちっぽけで無力な存在。
何でもできるゆりちゃんと違って特技も何もないどこにもいる普通な子ですから。
こんな私が先輩たちの力になりたいって気持ちすら本当は迷惑かも知れませんし…
「もうーみもりちゃんったら。また悪い癖が出てますよ?」
っと少し考え込んでいた私の頭を懐にそっと持っていくゆりちゃん。
私の全身を包み込むゆりちゃんの体温に心が和んでくる私はそっと目を閉じて私に話をかけるゆりちゃんの声に耳を澄ませました。
「大丈夫です。悪いことはもう何もありません。
あなたの傍にはこれからもずっとあなたのゆりがついていますから。」
もう怖がらなくても、自分のことを責めて、呪わなくてもいい。
その安心のおまじないを私にかけてくれたゆりちゃんは、子供の時のように私のほっぺにそっと口づけをしてくれたのです。
ゆりちゃんの柔らかい唇がほっぺに触れた時、心地よい安心感が私の心を包んで宥めてくれる。
それは少し恥ずかしかったりもしましたが、決して嫌な感じではなく、むしろすごくいい気分だったのです。
「もう…子供じゃないから…」
「うふふっ♥元気が出るみもりちゃん専用のおまじないです♥
ちなみにゆりはみもりちゃん専用のオナー…」
「い…いいから…!そういうの…!」
でも、その最後の一言だけは最後まで言わせてはいけない気がしました。
ゆりちゃんのボケはありましたが、なんだか少し元気が出てきました。
その時、ゆりちゃんからこんな私のために提案してくれたのは、
「だったらみもりちゃんが同好会が正式部として承認できるようにお手伝いするのはいかがですか?」
かな先輩のような助っ人として先輩たちのアイドル活動をサポートすることだったのです。
「廃部を食い止めることに当たって一番手っ取り早いのは正式な部として認められること。
あの同好会、今は二人しかいないらしいですがみもりちゃんが加わったらもっと色んなことができたりするかも知れません。
もちろん正式部員は一人だけですが。」
正式部員になれば正式部に一歩近づけるかも知れないけど、それがダメなら他の方法で同好会をサポートして正式部として認めさせるのもそんなに悪くない。
ゆりちゃんが言いたいのはそういうことだったのです。
でも、
「良いのかな…私なんかがお手伝いして…」
私はやっぱり自信がなかったのです。
「私…先輩たちみたいにキラキラで可愛くないし…嫌がるかも知れない…」
彩りの色で輝く先輩たちと違って、何もない自分の人生は灰色。
濁って前が全く見えない私の人生はやがて自己嫌悪の沼に沈んでしまう。
それが特別ではない、普通で平凡な人生の成れの果てだと、あの人は私にそう言い続けました。
積み重ねてきた価値観。
それを一瞬でぶち壊されるほどの絶望的な経験。
ありのままの自分自身を受け入れられなくなった自分にはもう何もない。
自分を肯定することができなくなった、愛することができなく私は空っぽのからくり人形だったのです。
だから自分自信を信じてアイドルをやっている先輩たちにこんな私がお手伝いするのはとてもいけない気がします。
今の私はただの迷惑にしかなりませんから。
今は先輩の小さな喜びにとどまっていればいい。
それでいいと、私は何度も自分に言い聞かせてしまいました。
「やっぱり嘘、下手くそですね。」
その時、まるで私の心を見透かしたようなゆりちゃんは確かにこう言いました。
「大人になってもあなたの純粋な気持ちは相変わらず目に見えるほどです。」
っと私の体を一段と強く抱き抱えてくるゆりちゃん。
伝わってくる熱い体温が増していく度に、私へのゆりちゃんの気持ちはより鮮明になっていくような気がしました。
「大丈夫。あの先輩さんならきっとみもりちゃんの優しさに気づいてみもりちゃんとお友達になってくれたはずです。
これはあなたのことを十年以上も大好きなあなたのゆりが保証します。」
私のことを一番近くで十年も見守ってくれたゆりちゃんだからこそ分かること。
それが何なのか、肝心な本人には全然分かりませんでしたが、それでも分かるのがあります。
「ゆりはあなたのことが好きです。ずっと傍にいます。」
ゆりちゃんはいつだって私のことを信じて、私もまたゆりちゃんのことを心から信じている。
自分のことなら信じられなくても、ゆりちゃんのことなら信じられる。
「私のことを信じて勇気を出して。あなたの心にちゃんと答えてあげてください。」
そして昼間、先輩が私にそう言ってくれたように、ゆりちゃんもまた私に心の声にもっと耳を澄ませて欲しいと、その気持ちにちゃんと答えて欲しいと、私の背中を推してくれた時、
「うん。」
私はようやく自分の気持ちと向き合うようになりました。
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