第4話
先輩の話によるとかな先輩が同好会のことを手伝うことになったのはかな先輩がまだ1年生の頃だったそうです。
その頃、チア部は全国大会に向けて一生懸命頑張っていましたがまだ自分達のオリジナル曲がなかったようです。
当時副部長だったかな先輩は曲作りを助けてくれる人を探しましたがなかなか適任者が見つからなくて困っていました。
「私に曲を…ですか?いいですよ。」
その時、偶然紹介してもらった桃坂先輩のおかげで無事に自分達の曲を作ることができてチア部は全国大会2位といういい成績を収め、これがきっかけになってかな先輩は同好会の活動を手伝うことになったそうです。
「どう?いい話でしょ?」
「は…はい。でもすごいですね、桃坂先輩って。
まさか作曲もできちゃうだなんて…」
「そうだね。でもミラミラって私達みたいな普通科じゃなく音楽特待生なんだしそれくらい普通かも。
なんといっても首席だし。」
っとドヤッと桃坂先輩のことを紹介するかな先輩の表情から彼女に対する誇らしさを窺えるところです。
でも本当にすごいですね…華やかで上品な人だとは思ったのですがまさか音楽特待生、しかも首席なんて…
この学校は芸術文化系の名門として有名で、特に音楽科や芸術科の入学は東大に劣らないほどの競争率を誇りますから。
それにスタイルもいいし、性格もいいし、おっぱいだってあんなに大きくて…
ますます私なんかはアイドルに向いてないような気がして悲しくなりますね…
「でも私が知っているミラミラはそれが全部。ミラミラ、自分の話はなかなかしないからさ。
それに学校にいる時は殆ど一人で部室や音楽室にこもっているだけでクラスの人たちにあまり相手してもらってないみたいだし。」
「え?何で一人で…」
っと少し悲しそうな顔で桃坂先輩の境遇を気の毒に思うかな先輩。
それについてはかな先輩もあまり詳しい事情までは知らないようでしたが
「ごめんね、詳しい事情は私も知らない。学年も違うしね…
でも何だか皆、ミラミラのことを避けているみたい…
もちろん仲間はずれとかではないと思うんだけどちょっと近づきにくい人だっと思われているみたいで…」
ただ一つ、桃坂先輩が周りから煙たがれているということだけはなんとか把握していたです。
あんなにきれいな人がどうして皆に避けられて、煙たがれて一人ぼっちにされるのか。
無論今日始めて会った私には知る由もないことでしたが
「近づきにくい人…」
かな先輩の言ったその「近づきにくい」って感覚だけはなんとか分かるような気がしました。
一目で分かるほどの格の違いを見せつけてくる人。
凡人には決して届かない華やかさと美しさ。
もし私も桃坂先輩の方から話を掛けてくれなかったらこの先、先輩と言葉を交わすことなんて絶対なかったと断言できます。
それでも私はいつも一人でいる先輩のことをとても悲しくて心苦しく感じてしまったのです。
「…だったらどうしてあの同好会だったんでしょう…
そんなにすごい人ならもっとちゃんとした部に入れると思うんですが…
何でそんな人の少ない同好会に…あっ!」
っと寂しさのあまり思わず心の声が漏れてしまった自分。
いくら助っ人とはいえ今の発言は決してかな先輩の前でやるべきものではなかったと私は慌てて今の発言についてお詫びしましたが
「あははー意外に素直だね、モリモリって。」
先輩は怒ることもなく、ただ爽やかな笑顔で私の素直さを称えるだけだったのです。
「まあ、確かにうちは他の部や同好会に比べても明らかに部員が少ないよ。
ミラミラの先輩達代まではちゃんとした部活だったらしいけど先輩達が卒業したからはずっとミラミラ一人だったから。
ミラミラ代に及んでは部費もあまり出してもらえなくて殆どミラミラ一人で賄っているわけ。
私も一緒にバイトしたりするけど正直にアイドルって色々お金がかかるからそれだけじゃやっぱり足りないよね。」
お…思ったより重い話…
どうやら同好会は私が思っていた以上に厳しい状況に置かれていたようです…
それでも先輩が諦めずにその同好会でアイドルを続けてきた理由。
「「大好きなアイドルを皆と一緒にやりたい」。
確かにそう言ってたな。」
その理由をかな先輩の口から聞いた時、私は一瞬だけ自分への情けなさと悔いに包まれて何も言えなかったのです。
「人がいないのは仕方がないことだっと思う。
この学校にアイドルに関する部なんていくらでもあるし、どれも全部人気だから。そっちに行っちゃうのは仕方がないよ。
私でも入ってあげたいんだけど私はわけがあってアイドルはできないから…
やっぱりそんな理由で廃部になるのは嫌かな…」
「…そうですか…残念です…」
自分でも入れば桃坂先輩の笑顔は守れるのに、それができなくて悔やんでいるかな先輩。
それを見て私はかな先輩もまた同好会のことを、先輩のことを心から愛して支えてくれる人だとそう感じるようになりました。
かな先輩にはかな先輩の理由があって全力で先輩のことをサポートできないのはとても残念ですが
「だからモリモリ。
会ったばかりで悪いんだけどよかったらミラミラとお友達になってくれない?」
かな先輩が桃坂先輩のことをどれだけ大切にしていろのか、それを知った時、先輩のことをこんなに支えてくれる人がいるんだなと安心してしまったのです。
「モリモリだってアイドルが好きだし、いい子だからミラミラにいい友達になってくれそうだから。
それになんかミラミラにちょっと似てるような気がして。」
「似てるって…」
振り向いて八重歯の爽やかな笑みを見せつけながら私と自分が知っている桃坂先輩と似ていると言うかな先輩。
その言葉の意味がさっぱり分からなかった私は自分は特にあの人みたいに華やかでも、きれいでもないと反論しましたが
「そうじゃなくて。」
どうやら先輩が言いたかったのは外見の方ではないということをその次の言葉で私は察するようになったのです。
「こう、目がね?すごく温かいんだ。ポカポカして真っすぐで。」
一途の眼差し。
そして溢れる包容力。
言葉でうまく言えませんが私はそのようなものが桃坂先輩の目にいっぱい詰まっていると感じましたが、まさかそれが自分にもあるとはこれっぽっちも思えませんでした。
だからこそ私はなんと言えばいいのか、ただ迷って、戸惑っているだけだったのです。
臆病で引っ込み思案の性格。
見た目も地味、特に目立つところもない普通な自分があんなきれいな人と友達になるなんて。
私に桃坂先輩に似てるところなんて欠片もない、少なくとも自分はそう思っている。
「普通では駄目です。みもり。」
今も目を閉じればその声が聞こえてくる。
その声が聞こえる限り、私はあの人みたいなきれいな人の傍にはいられない。
その呪いが掛けられている限り…
「はい、着いたよ?」
結局、私は桃坂先輩の友達になってくれないというかな先輩の言葉には答えられないまま、いつの間にか部室前についていました。
「入るね?」
「あ…!ちょっ…!」
まだ心の準備が…!と止める暇もなく
「ミラミラ!来たよ!」
すごい勢いでドアを開けて私を背負ったまま部室の中に入るかな先輩!
その時、私は先輩に会ったらなんと言ったらいいのか、そのことで頭がいっぱいで何も考えられませんでした。
今更桃坂先輩のことが怖くなったわけではありません。
先輩は本当にいい人で私のことを待っているって言ってくれた優しい人ですから。
でも私は急に怖くなったのです。
「やっぱり私なんか迷惑になるだけだから…」
普通な自分があんなきれいな人と一緒にいてもいいのかと。
桃坂先輩と友達になって欲しいというかな先輩の言葉がプレッシャーになったことは否めません。
実際、私はそれに大きな負担を抱えているわけですから。
あんなきれいな人、自分と一緒にされたはダメ。
きっと今より疎まれる。
だから私なんかよりかな先輩みたいな元気で可愛い人と一緒の方がずっといい。
そうやって私はいつの間にか身勝手な言い訳を作り出して、結論まで出してその場から逃げ出そうとしていました。
今日、自分がここに来たのは、ただあのきれいな先輩をほんの少しだけ楽しませるためだけ。
私のことに喜んでくれた小さなお礼に過ぎない。
ここで調子に乗りすぎて友達になるのはダメ。
きっと迷惑がかかるから。そうなったらきっと私のことが嫌になっちゃう。
その時、そう思いながら先輩に会うことを躊躇していた私の背中を押してくれたのは
「だったら直接聞いてみようよ。本当にミラミラにはモリモリとお友達になりたいって気持ちがないのか。」
私のことをここまで運んできたあの元気な八重歯のチアリーダーの先輩だったのです。
「かなちゃん?」
部室の中から聞こえるきれいな声。
人気がして様子を見るために顔を出した
「虹森さん!」
私のことを待ちわびていた今日始めて会った桃坂先輩だったのです。
申し訳ないほどよく準備できているお茶会。
どれだけ私のことを待ちわびていたのか、その期待感を窺えるほど気合を入れてお菓子とお茶を用意してくれた桃坂先輩は
「いらっしゃい!ようこそおいでくださいました!」
満面の笑みで私のことを迎えてくれたのです。
相変わらず可愛くて華やかな人。
こういう生まれつきのスター性を私はずっと憧れました。
ただ笑うだけでキラキラして見てくれる人たちを元気づけるスター性を持っているこういう人こそヒロイン…もしくは、
「アイドルなんだろうね…」
やっぱり私には向いてない世界だったんよ…
「虹森さん…?」
かな先輩の後ろに背負われてここまで運ばれた自分。
でも私はそこから何もできませんでした。
桃坂先輩がどれだけ自分のことを待ち望んでいた、それは十分分かります。
手作りのスイーツやお茶の準備もバッチリで、何より私のことを見つけた時、あんなに喜んでいましたから。
たとえ彼女がクラスの人達に近づきにくい人と疎まれようとも、私は彼女のことをすごくいい人だと確信しています。
それでもいざとなったら私はいつの間にか彼女と自分を比べて、ようやく見えてきた差の違いに苦しむようになってしまいました。
桃坂先輩のことを元気づけるために来たはずなのに、やっぱり普通の私はこんなきれいな人のところにいてはいけない、そんな気がしてかな先輩の背中にくっついて一歩も動けませんでした。
「どうかしました?虹森さん。」
なにかあるのかなと私のことを心配する先輩には申し訳ありませんが私にはやっぱりできない。
だって私は先輩と違って普通で特別じゃないから。
「普通では誰もついて来ないです。」
まだ聞こえる声。
私の脳内でしか聞こえないその声から、呪いから抜けない限り、私は一歩も進めない。
いつまでもここに縛られて、離れていく皆の背中を見るだけ。
こんな私が先輩と友達になるなんて、そんなの夢の話に決まっている。
誰も押し付けたことのない幻。
それが単なる自分だけの妄想であることを分かっていても私はいつの間にか先輩と自分のことを天秤にかけて苦しんでしまう。
まだ「あの家」での悪夢から覚めていないから、私は今も「普通」の自分を拒んでいるから…
だから私は…
その時でした。
「あのね、ミラミラ。」
「はい…?」
急に湧いてきた自分への嫌悪に言葉に詰まって黙って何もしなかった私の代わりに先輩に声をかけたのは私をここまで運んだここの助っ人であるかな先輩でした。
そして彼女は心置きなくぶっちゃけて先輩にこう聞いたのです。
「こちらの虹森さんとお友達になりたくない?」
私と友達になる気はないと。
「ええ…!?ちょっと、先輩…!」
止める暇もありませんでした。
まるでウジウジしている私に発破をかけるように前置きもせず、そのまま突っ込んでいくかな先輩の無謀だけど爽やかな性格に、私は一瞬困惑し、今のことを桃坂先輩にどう説明すればいいのか、そればかり考えるようになりましたが
「友達…」
意外と真剣に考えてくれる先輩の反応を見てほんの少しだけ期待を抱き、冷静さを取り戻すようになりました。
そして、一瞬の迷いもせず
「な…なりたいです!」
即答で私との関係を決める桃坂先輩。
さすがにこの辺で「えええ!?」って驚いてしまいましたが
「私…!虹森さんのこと、まだよく知りませんが虹森さんさえよかったらこれからもっともっと仲良くなりたいです…!」
先輩が私のために勇気を出しているから、ここはしっかり見届けて、答えてやらないと思ってようやくかな先輩の後ろから降りて気をしっかり保って先輩の前に立つことにしました。
「きれい…」
改めて見たらその桁外れの綺麗さにもう一度感嘆してしまう。
背も高くて目鼻立ちもくっきりして鮮やかでさっぱりした感じがする。
ぷるんとしてお肌と桜色の唇はすごく健康的で桃色のボリューミーな髪の毛とよくマッチしている。
常人を遥かに超えた超でかい胸はともかくこの先輩は確かに今まで自分が会ってきたどんな人よりもきれいです。
ただ見た目だけではなくて、音楽特待生、しかも首席で入学した彼女は確かに私には到底届かない雲の上の存在です。
でもまるでそんなことは関係ないというように彼女は私の手をギュッと握って
「私は虹森さんとお友達になりたいです!」
私と友達になりたいという気持ちをぶつけてきたのです。
その気持ちにちゃんと応えてあげたい。
でもそういう当たり前のようなことすら迷惑になるかも知れない。
色んな考えがごちゃまぜになってどう答えたらいいのか、ただ戸惑ってまごついている私に彼女はこう聞きました。
「虹森さんはどうですか?」
自分はどうなりたいのかと。
「複雑に考える必要はありません。ただ虹森さんの気持ちを聞かせてください。」
あなたがどんな人なのか、どんな思いをして自分に接しているのか、そういうことは一旦忘れて、ありのままで自分と向き合って欲しい。
それを聞いた時、私はふと頭からずっと漂っていたその呪いの声が聞こえないような気がしたのです。
「私は…」
そして一度勇気を出して自分の気持ちをじっくりと見つめた私は、
「わ…私も先輩とお友達になりたいです…!」
やっと自分の心に素直になれました。
自分の気持ちにそのまま素直に従えたのは、一体いつ以来なのでしょう。
すごく…すごく恥ずかしかったのですが
「言えた…」
私はほんの少しだけ、胸に張り付いてたなにか嫌な感情が吹っ切れたような、そういう清々しい気分になれたのです。
「はい♥よろしくお願いしますね?虹森さん。」
そしてこんな私の勇気の告白をそのまま受け止めてくれた先輩は私の友達になってくれました。
自分が心配に対して抱えていた劣等感がバカバカしくなるくらいあっさりと私のことを受け入れてくれた先輩。
後でかな先輩から、
「良かったね、モリモリ。
でもあれ、完全に告白するように見えたから。」
とからかわれたりしましたがまあ、実際、告白と言ったら告白かも知れませんから。
だって勇気を絞り出して自分の心の内側の言葉を解き明かしたんですから告白したも同然です。
もちろん恋愛の感情なんて一ミリも感じませんでしたが。
まあ、色々ありましたがこうやって私は無事に先輩と知り合いになって、友達になって、ここ「アイドル同好会」での第一歩を踏み出せたのです。
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