第2話

「部員もないし目立つ実績もありませんから。正式部員は私一人だけで他の部員と言ってもたまに助っ人で手伝ってくれるチア部の後輩ちゃん一人が全部。まあ、部員が足りなくて部活がなくなってしまうことなんてよくある話ですよね。

アイドルに関する部だってここ以外にもいくらでもありますからこれ以上無駄な同好会は必要ないって生徒会の方から言われました。」


そうか…それでこんな暗い顔をして…


先輩の目に宿っている悲しく切ない光。彼女の悲しさがどれほどのものか今の私なんかでは多分計り知れないでしょ…こんなに素敵な部活がただ部員が足りないからって廃部されてしまうだなんて…


「それはとても残念ですね…」


確かにすごく残念な話でした。私も小さい頃からずっとアイドルが好きだったから今の先輩の気持ちが十分感分かります。

こんなに好きなのにどうしようもない状況で諦めるしかないその惨めな気持ち。そしてその時、感じてしまう自分の無力さ。それら全部が私を襲った時、自分がどれだけちっぽけな存在なのかを思い知らされてしまうのを私は痛いほどよく知っています。

だって私にもそういう惨めな時がありましたから…


「今度のライブが最後になるかも知れませんからもっと頑張ってみたいです。私達のおかげで誰かがアイドルに少しだけでも興味を持ってくれたらっと思いまして。だから私、虹森さんがアイドルが好きって言ってくれたのがとても嬉しかったです。」

「桃坂先輩…」


そんなことで本当に嬉しかったんでしょうか…私の考えなんてこんなきれいな人にはなんの力にもなれないはないはずなのに…


「こうして出会ったのもなんらかの縁かも知れませんね。そうだ!もし虹森さんさえよろしければ放課後にちょっと寄っていきませんか。お茶でも飲みながらゆっくりお話したいと思って。あ、もちろん入部の勧誘とかではありませんから気軽く来てください。入部してくれたらとても嬉しいんですが無理矢理に誘う気なんて本当にありませんから。ただ虹森さんとお話がしたいだけです。」


私とお話…ですか。

本当に私なんかがこういうきれいな人と話し合うことができるのでしょうか…こんなつまらなくてありきたりの私なんかすぐ呆れてしまうかも知れないのに…


でも…


「…分かりました。」


こんな私でも同じアイドル好きとして私にそう言ってくれたこのきれいな先輩のことを元気づけてあげたい。ただそう思うだけでした。


確かに私は人に好かれるタイプの人間ではない。きっとこの先輩すらまもなくそれを気づいてすぐ私への興味を失ってしまうだろう。

でもそれでいいと私は思います。なんだか私はこのきれいな先輩に笑って欲しいっと思っているようです。


同情はするがこの同好会に入る気なんて全くありません。いや、入りたくても入ってはいけません。

なぜなら今の私にもうアイドルになろうとす勇気も、決意もありませんから…きっと先輩の夢に泥を塗ってしまうのに違いない…そういう中途半端な気持ちなんてアイドルに対しては失礼極まりないのないものです。

っていうか自分のこともちゃんとできないくせに人の心配なんて、大したものですね、私も…


でもこんな私の気持ちにも関わらずあのきれいな先輩は


「ほ…本当ですか!?ぜ…ぜひ来てください!あ!虹森はお菓子とか好きですか!?私、お菓子作りとか結構得意なのでぜひごちそうさせてください!?あと、よろしければライブの練習も見に行ってくださいませんか!?二人だけしかいませんが一生懸命頑張りますから!絶対いいもの見せてあげますよ!」


っとすごく喜んでくれました。


な…なんか私とは住んでいる世界の温度差が激しい人なんですね…ちょっと変わった人なんですがなんとなくいい人というのも分かります。

合ったばかりの1年生に過ぎない私のことをただ自分と同じくアイドルを好きって理由だけでこんなに喜んでくれるんなんて…


「じゃあ、絶対来てくださいね、虹森さん!お菓子もいっぱい用意しておきますから!」

「は…はい…」


すごい熱意…そんなに嬉しいのかな…私なんかより友達とかたくさん持っているように見えるのに…


そうして私は今まで一人でこの部室を守っていたこの3年生の先輩の小さな喜びになるため放課後この部室にまた来ることを約束して部室から離れました。廊下まで見送りに出た桃坂先輩は私の姿が見えなくなるまで手を振りながら


「待ってますね、虹森さん!」


っと何度も言ってくれました。


先輩、本当に嬉しそう…先輩が笑っているところが見られてちょっと安心しちゃいましたね…

でも本当に私で良かったのかな…


***


「ここ…どこ?」


おかしい…確かにちゃんと地図を見ながら行ったはずなのに部室ところか何か分からないところに来て閉まったような…えっと…案内図を見るとここは…


「F館…か。」


この学校は3つの世界が協定を結んで組織した「世界政府」に直接的な援助を受けているのでその規模もかなり大きです。学校の大きさや施設、設備、福祉などの様々な方面で他の学校とは比べることもできないくらい圧倒的な差を見せつける世界政府の付属高校はいつの時代、どんな種族にも大人気でした。もちろん広すぎて学期初には地図やGPSが必須ですけどね。


学校は総6つの館でそれぞれの授業に合わせて運用されています。今私がいるここF館は主に魔界の文化や歴史などを学んだり行事とかで使われる魔界の多目的交流館ですがほとんど2年生や3年生だけが使っていますから私みたいな1年生はあまりここには来ないのです。


まあ、普段も他の種族と一緒に授業を受けているからそんなところに抵抗感がいるのはないですが何だか異国な雰囲気とかを感じちゃいますね。あまり来ない不慣れの場所だからでしょうか。

でもどうしましょう…私、完全に迷子になってしまったんですよ!


「ちゃんと地図見てきたのに…」


別に迷子になりやすいタイプってわけではありませんがいくらなんでもこの学校、広すぎますから…入学したばかりですから右か左かも見分けがつかなくて…参っちゃいましたね…


「とりあえずどこにでも行ってみようか…」


適当に歩いてみればどこか分かりそうなところが出るかも知れないし、ここにずっと立っているよりよほどましですから。


しかし周りを見ていると本当に不思議な気分になりますね。皆さん、2年生や3年生だからかな、皆大人っぽいですね。背も高いし頭も良さそうに見えるし。胸だって…


「…」


…まあ、基本的に魔界の方々は私みたいな普通な人間に比べて色々大きいだって言われましたし私もまだまだ成長期ですから…


「えっと…ここがこうだからここを曲がって…」


携帯の地図を見ながら歩いていた私。その時、私はなぜかふと小さい頃お母さんからよく話した大事な話を思い出しました。


「歩きながらよそ見しちゃうのは危ないんだから?」


なんでしょうか…急にそんな話が思い出したのは…っていうか回想のお母さんっておっぱいとか結構大きい方だったんですね。良かった…遺伝的にはまだ希望はあるかも…


「うわああ!?」


お母さん、いつもありがとう。その話はこんな時のための話でしたね。


ちょうど角を曲がっていた瞬間、よそ見をしていた私は反対側から来ていたある女性の方と派手にぶっつかってしまいましたのです!!痛い!!


「ふぎゃああああ!」


私は変な悲鳴まで派手にやっちゃて文字通りその場で転んでしまいました!


「いっててて…」

「す…すみませえええん!!」


その瞬間、痛みも顧みずに大きな声で謝る私!

怒るかも!いや、絶対怒るよ!どうしよう!?どうしよう!?だ…大丈夫ですか!?すみません!ちょっとよそ見しちゃって…!


「ご…ごめんね?私が急いで走って行ったせいで。」


あ、そっちの方は廊下で走っていたんですね。皆さん、廊下で走るのは絶対ダメですからね?


「い…いいえ!私こそよそ見をしていて申し訳ありません…!」


もちろん携帯を見ながら歩くの絶対ダメです!!


「大丈夫?怪我してない?」


っと私に手を貸してくれる長身の少女。でも私は


「いたっ…!」


いきなり襲ってきたずっしりとした足首からのビリっとする痛みに彼女の姿すらちゃんと確認できませんでした。

今転んでしまったせいで足を捻ったみたいですね…困りました…桃坂先輩、待っているのに…


「捻っちゃった!?本当にごめんね!」


驚いて私の様子を伺う少女。高くて元気な声。すぐ分かるほど優しさがいっぱい詰まっている声の少女は


「だ…大丈夫です…これくらい…いったああ!」

「む…無理しないでね!私が今保健室に連れて行ってあげるから!」


っと無理矢理に立ち上がろうとする私を抑えました。でも連れて行くって一体何を…って…


「ええええ!?」

「ちょっと待っててね!」


いきなり女の子としては信じられないほどの力で私をひょいと持ち上げちゃう謎の少女!

ま…まさかこれは…!


「お…お姫様抱っこ!?!?」

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