みんなで仲良しアイドル!異種族アイドル同好会!

フクキタル

第1章「アイドル」

第1話

私はアイドルが好きでした。

皆の前で踊ったり歌ったりする彼女達は何よりも可愛くて、眩しくてずっと大好きでした。

可愛い衣装、きれいな歌声。

応援してくれるファンのためにステージの上で一生懸命歌う彼女達はまさに地上に舞い降りた皆の星。

キラキラなその姿を見ていると私の心は空に弾けるようにわくわくしました。


だけど私にはとても遠い存在。

どこにもある地味な見た目と特に魅力もない声。

運動神経も普通、人と喋るのも普通…スタイルも、踊るのも特に目立つところもなく普通そのもの。

そんな普通だらけの私にアイドルという存在はあまりにも身に過ぎた夢でした。

決して私なんかが足を踏み入れてはいけない世界だったのです。

尊くてキラキラするその存在を私みたいなつまらない子は決して夢見てはいけなかった。

私にはアイドルとしての自覚も、才能もなかったのです。ならいっそ潔く諦めてしまおう。

それこそが私にふさわしいアイドルへの正しい姿勢だと私は自分に何度も言い聞かせたのです。


だから私はただ見るだけにすることにしました。

いつまでも憧れのままに残そうと思いました。

才能もない自分はいつも遠いところでそのキラキラに憧れているだけ…

舞台のスポットライトはもう二度と自分に当たらない。

自分に許されているのはただ見るだけ。応援することすら迷惑だと思った私はただ見るだけにしたのです。


もう二度と自分がステージに上がることなんて一切ないだろう。

幻想と夢は夢のままにしておいた方がずっと気楽でいい。

普通だらけの私はそう諦めてしまったのです。


***


ここは「世界政府付属第3女子高校」。

かつてこの星の覇権を置いて戦った「人界にんかい」、「神界しんかい」、「魔界まかい」の三つの世界が神様「神樹様」の名の下で平和協定の証として結成した「世界政府」が特殊な目的で建てた学校の一つで住む世界や出身、種族に関係なく一緒に通うことができるとても素晴らしい学校です。

お互いの世界と違いを尊重し、受け入れて一緒に成長する。

色んな種族が一緒に生活することでその中から共存の方法を学ぶこの学校の意味は世界政府、いいえ、三つの世界を含めたこの星に住んでいる全人類にとってとても大きいのです。

私はこの学校に、そして自分がこの学校に通っていることに大きな誇りを感じています。


そして大人気のエンターテインメントは何と言っても「アイドル」!

ステージの上で歌ったり踊ったりする彼女達は私を含めた全ての女の子にとって憧れそのものでした!

夜空のお星様にも負けないほどの輝き!

その眩しさを少女達はいつも求め続いています!


ここ「第3女子校」は芸術文化系の名門で相当の数の部活がそれぞれのアイドル活動をやっていてその気になれば誰でもアイドルになれる。

実際生徒会や大型部には有名なアイドルが何人か在籍していて今も熱心に活動していてそれに憧れて難しい受験を突破してここに入学する新入生も多いらしいです。


でも私は違う。

その輝きに確かな憧れはあるが決してその輝きを追いかけようとはしない。

ただ「憧れ」という言い訳を付けて遠ざけているだけ。

でもそれに安心してしまう情けない自分が今ここにいます。


もちろんこんな私でも子供の頃は皆みたいに歌って踊るのが大好きだったんです。

大好きな幼馴染と一緒に皆の前で踊ったり、歌ったりした夢のような時間…

でもある時を境に私は自分があまりにもちっぽけで取り柄のない存在であることに気が付いてしまったのです。


どこにもある地味な15歳。

見た目も、歌声も超微妙で人の興味を引き付ける魅力の欠片もない。

それなり運動もやったのに体は鈍くてどんくさい。

その上、人の前ではすぐ緊張してしまう引っ込み思案の性格。

どう見てもお世辞にもアイドルに向いているとは言えない側の人間が私という存在だったのです。


結局私はアイドルという身に余る夢に見切りをつけ、諦めて平凡な生活に留まることにしました。

何も持てない普通な私はただ遠い所からそのキラキラに憧れているだけ。

目立つ必要も、皆からの声援を浴びる必要もない。

誰かのために頑張る必要もなくて心を込めて歌う必要もない。

私はただ見上げて憧れて儚い夢の名残惜しさに少しだけ寂しさを感じていればいい。

いつまでも、ずっとそうしていれば…


…そのはずだったのに…


「準備はいいですか!?皆さん!?」


円陣を作って皆を奮い立たせる先輩の声。


「もちろん!」

「いつでもいけますわ。」


元気いっぱいで張り切っている先輩達。


「大丈夫です、みもりちゃん。」

「私達がついていますから。」


そして私の手をギュッと握って私に勇気を吹き込んでくれる大切な友達。


その日、私は再びステージに立ちました。


「それでは行きましょう!「第3女子校アイドル同好会」!」


私の名前は「虹森にじもり美森みもり」。

私は「アイドル」です。


***


「うわぁ…グッズがいっぱい…」


これは入学してから日も浅いある時のこと。

ある日、移動教室中間違えて音楽室ではない「アイドル同好会」という怪しい部室に私が迷い込んだ時の話です。

入学したばかりでいつも一緒である幼馴染とはぐれてしまって道に迷ったというなんともないことでしたがそれが私の人生を引っ繰り返す大きな事件になることに私はまだ気づいていなかったのです。


間違えて偶然迷い込んだ部屋で初めて見た光景。

部屋の壁を埋め尽くしたのは人気アイドルのブロマイド。

棚にはライブやアイドル関連のDVDが詰め込まれていて関連雑誌ももうこんなにいっぱいある。

単純に好きというレベルを遥かに超える凄まじい光景に私は部屋の主さんのアイドルに対する情熱を感じられるような気がしました。

その迫力に私は授業のこともすっかり忘れてただそこに立って見惚れていたのです。


「すごい…」


「Fantasia」、「Trinity」などの近年の超人気グループから始め、今は伝説になった昔のレジェンドアイドルや結構知られてないマニアックなジャンルのアイドルまできちんと揃っている…

まるでアイドル博物館にでも来たような気分で私はつい感動までしてしまったのです。


「学校内にアイドル同好会っていうのがあるって話はゆりちゃんから聞いたけどもしかしてここが例の同好会かな…」


っと思ったその瞬間、


「あら?誰かいるんですか?」

「うわぁ!」


あまりにも珍しい光景に夢中になっていた私の背中から掛けられた女性の声!

驚きのあまりに私はつい悲鳴まで上げてその場で転んでしまったのです!


振り向く暇もなくそのまま派手に転んでしまった私を見つけて駆けつけてきた彼女は


「大丈夫ですか!?ご…ごめんなさい…!別に驚かせるつもりではなかったんですが…!」


っと驚きと申し訳無さが交わった声で私の身を案じてくれましたが


「す…すみません…!勝手に入っちゃって…!今、出て行きますから…!」


勝手に入ったことで怒られる前にさっさとここから出て行った方がいいと思った私はただそうやって謝り続けながらその場から離れようとしました。


「い…行かないでください…!別に怒ってるわけではありませんから…!」


っと逃げ出そうとする私の手をそっと握ってくれる女性。

その時、触れ合った手から伝わってくる彼女の温もりに私は何か特別な予感を感じたような、そういう不思議な気分に包まれました。


「あったかい…」


そして取り合った手から私の、私達の新たな青春の物語がついにその幕を開けたのです。


手先から伝わってくる温もり。

まるでお母さんの手のような温かくて優しい感触につい心までほぐれてしまう。

すべすべでふにゃふにゃでむにむにして気持ちいい…

彼女の手に触れているとなぜか懐かしい気分まで湧いてきて私はいつの間にか彼女のことをぼーっと見つめていたのです。


そんな私に


「驚かせちゃってすみません…!ここに誰か来ることなんてめったにないから嬉しくてつい…!」


っと急に後ろから声をかけたことを謝る女性。

彼女は自分のせいで私が傷ついたことに申し訳無さを感じていましたが幸い大した怪我はなかったのでそこまで気にしる必要はないということを私は一応教えておくことにしました。


「そうですか?良かった…」


穏やかで優しい音声。

そのきれいな声に少しずつ安静を取り戻してきた私は


「きれい…」


やっと自分に触れている彼女の姿を今度こそちゃんと認識することができたのです。


ふわっとしてサラサラなびく薄い桜色の長い髪の毛。

長いまつげに隠れているまだ寒さがちょっと残っている部室の空気を一気に春の色に染めてしまうような穏やかで温かい赤みの目とちょっぴりした桃色に染まっている可愛いほっぺとぷるんとする唇はまるで雑誌とかでよく見るコスメのモデルみたいによく整っていてすごく可愛い。

かかとなしの短靴を履いているにもかかわらずすらっとした高い背と際立つラインはまさに抜群のバランス。

うまくは言えませんがとにかく今まで出会ってきたどんな人よりもキレイな女性であった彼女は


「大丈夫ですか?」


そうやって私のことを見つめていたのです。


あまりの美しさにぼーっとしていた私は


「あの…?」


っと私の様子を聞く彼女の声にやっと気がついて


「あ…あ!す…すみません!」


慌てながらいつの間にか触れていた彼女の手から離れて初めて彼女とちゃんとした会話をすることになりました。


「モデルさん…なのかな…」


リボンの色から見るとおそらく3年生…

まさかこの学校にこんなきれいな人がいたなんて…さすが名門の第3女子校…って…!


その時、私の目に入ったのは


「うわっ…!?なに…!?このでっかいおっぱい!?本当に人なの!?

でっけぇ!!ボーリングボール…いや、バスケットボールみたい…!!」


初めて見る人間離れの大きさを誇る彼女のバカでかい胸、つまりおっぱいだったのです。


「ウソ…!ざっと見てもこりゃ絶対Vカップ以上…!」


こんな大きさ実存してたんだと人間の可能性はどこまでなのかと感心する自分。

搾ったら絶対ミルクとか出そうなその圧倒的な大きさに私は「母性」まで感じてしまったのです。

ちなみに私はBやCくらいだと思いますが


「みもりちゃんなら絶対D以上です。正確にはー…」


幼馴染の子はなぜか正確なサイズまで知っていてそれは絶対ないと言うのでそれにちょっと困っているところです。


「1年生…もしかして新入生ですか?」


っとリボンの色から私のことを推測するおっぱいの…いや、3年生の先輩。

私はまず自分のことをちゃんと紹介した方がいいと思って初めて会ったその3年生の先輩に正式に自分のことを知らせることにしました。


「あ…はい!今年入学した「虹森にじもり美森みもり」と申します!間違えて入ってしまって…!お騒がせして本当にすみません…!」

「いえいえ。いきなり後ろから声をかけちゃったのは私ですし。気にしなくてもいいですよ。」


っと笑顔で私のことを迎えてくれる優しい先輩。

ここの生徒は殆どがお偉方のお嬢様や令嬢、ひいてはお姫様ばかりで格式や礼儀に拘る人が多くて上級生はちょっと怖いってイメージでしたがこの先輩ならひとまず安心かな。

それにしても…


「大きい…」


近くで見たらやっぱり圧巻だな、このおっぱい…


「ところで虹森さんはアイドル、お好きですか。」


っと急にアイドルは好きですかって聞いてくる名も知れない先輩。

まあ、あんなにきょろきょろしていてましたし、時に隠すことでもありませんからここは一応素直に答えた方がいいと思います。


「は…はい…割と好きだと思います…」

「そうですか。私も好きですよ、アイドル。

この部室をこんなにするくらい。」


っと部屋をいっぱい詰め込んでグッズの方に目を移す3年生の先輩。

確かにこれくらいなら普通に好きっていうレベルではないと思います。

むしろ情熱まで感じているくらいで尊敬の気持ちまで湧いてくる程ですし。

それくらい彼女のアイドルへの気持ちは真剣だということです。


「これを全部…えっと…」


まだ聞けなかった彼女の名前。

彼女のことをなんと呼べばよいのか戸惑っていた私に


「あ、申し遅れてしまったんですね。

私は「桃坂ももさか未来みらい」。この同好会の部長を務めさせて頂いています。

よろしくお願いしますね、虹森さん。」


今度は彼女の方から自分のことを「桃坂ももさか未来みらい」と紹介しました。


見た目ほどきれいなお名前。

華やかで初々しくて実に素敵なお名前だと私は心の底からそう思います。


それにしても一体何でしょう…初めて会ったばかりなのにこれだけの親密感…

まるで昔から私達のことをずっと見守っていたような不思議な気分…

今思えば多分私はその時から心のどこかで彼女のことを特別な人として認識していたかも知れません。


「こ…こちらこそよろしくお願いします…!桃坂先輩…!」

「はい♪あ、でも名字で呼ばれるのはちょっと苦手ですので軽く「先輩」と呼んでいただけませんか?

それとも「マミー」と呼んでくれてもいいですよ♥」


っといきなり自分のことを「マミー」と呼んで欲しいという謎の先輩。

それに一瞬だけ戸惑いを感じてしまう自分でしたが


「お…お断りさせていただきます…」

「えー?つれないですねー」


やっぱりここはちゃんと断っといた方がいいと思った自分はその呼び方は一旦保留することにしたのです。


「それにしても本当に嬉しいですね。偶然とはいえここに来てくれる人がいるなんて。」

「そ…そうですか…」


っと久々の訪問に嬉しいという気持ちが収まらないような先輩。

喜んでくれるのは確かにすごく嬉しいのですが私はやっぱり場違いって気がして仕方がない。

あまりにも自分には合わない空間、しかもこんなきれいな人と一緒にいるのは致し方がないほど居心地が悪い。

だから私は一刻も早くここから離れたいと思いましたが


「実はですね。この同好会、もうすぐ無くなってしまうかも知れませんから。」


少し寂しそうな表情でそう言う先輩の話に結局足を運ぶことができなかったのです。


「どうして…ですか?」


っと事情を聞く私に少しだけ今の同好会が置かれている状況のことを話してくれる先輩。

話が終わった時、私は先輩の顔があまりにも悲しく見えたのでなんとか先輩を元気づけてあげたい、そう思うようになっていたのです。

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