第三十五話~三人称視点~『彼?彼女?キミってどっち?』


 琥珀。彼女は両親に虐待されていたが、葛実がそれを見かねて養子にしたという過去を持つ。その結果か、琥珀は葛実の事を妄信するようになっていた。


 そんな彼女は、現在白銀のいる学校に向かっていた。夏休みが終わればすぐにでも入学することになるのだが、その前に校長と話して来いと言われたのだ。


 早速部屋に入り、中にいる校長先生に話しかける琥珀。


「初めまして!わた……。僕は琥珀って言います!」


「そうか。童は『ファス』と言う。まぁ立ち話もなんじゃ、そこに腰掛けよ」


「はい!了解しました!」


 声量に押されているファスだが、気にせず質問していく。


「それで、どうしてこの学校に入ろうと思った?」


「はい!それが葛実さんの助けになるからです!」


「ほぉ?ではお主、そ奴が死ねと言ったら死ぬのか?」


「はい!もちろんです!」


 こりゃ酷い。ファスはそう思った。コイツには、何も存在していないのだと、そう悟った。だが気にせず言葉を続ける。


「ま、別に気にしちゃいない。どうでもいいんじゃお主の事など……。それより問題なのはお主のバックにいる奴の事じゃよ」


「……葛実さんの事ですか?」


「全く、童相手に本気で裏工作などしおって……。お主をこの学校に入れるのはまぁ良いとしよう。じゃが、お主は男として入ることになるが……。良いのか?」


 琥珀は、初めての男性BA乗りとしてここに来ることになる。それはつまり、男として扱われると言う事になる。白銀の部屋をわざわざ開けて、こいつを同室にしようと言うのだ。


「お主、本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ!僕なんかに興味を示す訳無いですから!」


「……そうか」


 死ぬほど自己肯定感が低い。琥珀はそういう人間である。ファスは憐みの視線を向ける。その視線も、彼女には一切届かない。それどころか、何故憐れまれているのだろうか?とすら思っている。


「まぁいい。入学についてはもうどうでもいい。終わったから帰れ」


「了解しました!」


 そうして、部屋から出ていく琥珀。ファスは大きなため息を付き、これから大丈夫なのかなぁと心配になる。


「あ奴、大丈夫なのかのぉ……」


 そんな事を考えるファスと違い、琥珀はかなり深刻に、だが気楽に考えていた。


「ま、どうせ私に出来る事なんか無いし、大丈夫でしょ!」


 一方その頃、記憶をBAに挿げ替えたダストは一人、虚しそうに天を仰いでいた。そりゃまぁそうだ。誰が好き好んでこんな格好になるかと言う話だ。


 だがまぁ、生き延びたのは事実。仕方ないので、これからどうするかを考えていたのだ。すると『チリ』が帰ってくる。


「とりあえずあのカンパニーのバカは死んだからいいとして……」


「ダスト様。帰ってきました」


「おぉチリか。……とりあえずこれからどうする?」


「とりあえずは、Rに連絡を付けるのがベストかと」


「だよなぁ。いつまでもこのスペアボディ体じゃ話になんねぇしな。……そう言えば、白銀はどうした?」


「白銀は今も、あの学校にいると思われます」


「そうか。……よし、あいつに会いに行こう」


「なぜですか?」


「決まってんだろ?俺が近寄っても何も言わなさそうだからさ」


 そうと決まれば早速行動開始。家はあらかじめ場所を知っているので、早速向かうのだが、その前に謎の二人組を見つける。恐らく父親らしき男と、それに米俵担ぎされている女。


「なんだあいつらは……」


「お?もしかして白銀の友達か何か?」


 その男は、ダストを見つけるとすぐさま近寄ってきた。生身でである。若干驚きつつ、コンビニに向かい話を聞くことに。


「それで、あんたは?」


「俺か?俺は『狭山油田ゆだ』だ!それで白銀の友達か?」


「しつこいなあんた……。友達じゃねぇよ。ちょっとした腐れ縁的な感じだ」


「へー……。まぁいいや」


 自分から話を振っておいて、その反応はないだろうと言いたくなったダスト。だがそれ以上に気になる人物が隣にいるので、そちらの話を聞くことに。


「で、そっちの女は?」


「ひぃっ!?『わたし』に何か御用ですかぁ?!」


「いやどういう奴なのか聞きたいだけで……」


「ま、悪い奴じゃねぇよ。それよりお前ら行く当てないのか!?無いなら俺と一緒に来い!」


「えっちょっと」


「まぁまぁ!それじゃ行くぞっ!」


 なんとも自分勝手の極みのような奴であるが、確かに現状行く当てがない二人からすれば、それで別に構わないと言った所である。と言う訳で、そいつと共に行動する事を決める二人。


「んで、どうするんだよこれから」


「ん?あぁ、ある女に話があるんだ。そいつに話しかけに行く」


「どこにいるのですか?」


「……アメリカだ」


 そう言うと、油田は走る。BAより早く。明らかに人間を辞めている動きであるが、そんな事を言っている暇は無かった。一体彼に何があったのか?その話は今から十五分前程度にさかのぼることになる……。

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『ブレイブ・アーミー』女性しか着れないはずのパワードスーツを着る事が出来る俺、色々言いたいところはあるけれど、今日も元気でやっていくぞ! 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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