第二十六話『仕切り直し』


あっヤバい血の出すぎでめまいが……。


「よっ、お疲れ」


「え、絵夢か……。いいから病院に連れてってくれ……」


「そうか。とりあえずこれ飲め」


「なにこれ」


「多分回復薬」


 多分って何?と言うか凄い色なんですけど。まぁいいやとりあえず気休め程度に飲んでおくか……。それにしても、この分じゃもう試合再開は無理そうですね。もうスタジアムの一つが粉々になっちゃったしねぇ。


「ところでなんで来てんだお前?一番最初からいるのは知ってたが」


「え?こいつの始末」


「……こいつの?」


「そ。こいつの」


 この不審者野郎か。確か地下闘技場で負けた挙句全財産を失ったんだっけ?ならなおさらなんで絵夢がやって来るんだ?こいつは借金取りにでもなったのか?


「このクソ女どもが!誰がこの国を変えたと思ってやがる!?」


「そもそもこいつ、誰なの?」


「あぁ。こいつは昔一か月程度だけ有名になって、それ以降は日の目を浴びなかったただのおっさんだよ」


「知らねぇなぁ」


 まぁどうでもいいかこんなオッサンなんか。今はそれよりパールの方が心配だ。あいつ、救急車に乗っていったけど、大丈夫かなぁ。流石にマジでぶん殴った時は痛かったかなぁ。


「大体なんだあの女は!誰が産んでやったと思ってやがる!誰が今まで育てたやったと思ってやがる!?」


「ほぉ、そりゃ聞き捨てならねぇなぁ」


 だ、誰だ!?ここは立ち入り禁止だぞ!いったい誰だっ


「って銀?!なんで来たんだお前」


「え!いや、あの~」


おれの個人的な用件さ。それよりお前、誰があの子の生みの親だって?」


「あぁ?!誰だお前はよぉ!」


「知らないなら教えてあげよう。童はあの子の父親だ。ちゃんと親権もこちらに存在している」


 えっパールの父親ですか!?マジか……。で、なんで銀を持ってきたんですか?と言うかパールに本当に父親いたんだ……。アレだけ男性を嫌そうな目で見てるから、てっきり母子家庭かと。コレ?いやコレが父親な訳ないでしょ。


「あの子は、お前のじゃない。そしてもちろん童の物でもない。もうあの子から手を引いてくれ」


「やなこったね!あのアマは俺の物なんだよ!俺の所有物でどう使おうが俺の勝手だろうが!」


 はー、ホント最低な男だなこいつ。話を聞く限りこれが元父親とか、そりゃこんな奴に育てられたら男も嫌いになるわな。だから俺がいるんだろっ!


「まぁ、なんだ。童は先ほど来たから何があったか分からぬが……。童の娘にあんなディープなキスするとは思わなかったぞ」


「ハハァ…」


「私とはしてないくせに……」


 だって!キスしたかったんだもん……!いいじゃないキスしたって……!それに正気に戻るかと思ってさぁ……!


「今わかったと思うが、パールはコレに物心付く前から育てられた。結果あいつはああなった」


「……」


「キスに関してはもう一々言う気もない。ただパールは今まで、碌な人生じゃなかったんだ。だから、二度と泣かせるな。じゃなきゃ許さない」


「もちろんです。あいつを泣かせる気は、もう二度とありませんよ」


「よーしよく言ったなぁ!じゃ、コレは連れていくんだろ?あくしろよ」


 あっハイ。どうなるんだろうなあいつ。まぁいいか気にしなくても。で、銀は本当になんで来たの?ねぇ誰か教えてくれない?病院から抜け出してきたのか?


「じゃぁ行くぞ絵夢。黒いナノマシンは止めたのだからな」


「ウッス!じゃぁエルの奴にも伝えておきますねぇ。じゃ!またねんちょ」


 あいつも変な仕事してんだなぁ……。と言うかアレやっぱ葛実って奴じゃねぇか?銀の父親だって言う。まぁいいや。少なくとも今回手伝ってくれたのは確かだし。


「それで銀?さっきからなんで俺の足を蹴ってるんだ?」


「知らない!自分で考えれば!」


 嫉妬?にしちゃちょっと威力高くないですかいててて


「で、結局試合はどうなるんだ?」


「その辺はわらわから話そう」


「どわぁ校長先生!?いきなり隣に来ないでくださいよ!?」


「おぉすまんすまん。まぁ試合に関してじゃが、決勝戦はするぞ」


「するんだ?」


「まぁのぉ。一応もう片方のスタジアムは無傷じゃしな!」


 あっそう……。まぁ確かに若干消化不良って感じではあるが。ぶっちゃけあっちが色々やらかしてからの不戦勝だしなぁ。そう言う意味じゃない?それもそうな。と言うか決勝戦の相手誰だよ、なんとなく分かるけど。


「ま、そう言う事デス」


「だよな」


 ぶっちゃけ、大体こうなるとは思ってたよ。それまでの過程がちょっとヤバすぎると思うけどな!じゃあ行くぞ!


 ~ダイジェスト~


『そう言えば、機体穴開いて破損した後、修理してないですよね白銀選手』


『まぁ大丈夫だろ。一応別の機体を着てきてる感じだが』


「ファック!」


「ぬわーっ!?」


『あーっと凄い爆発だ!大丈夫か白銀選手!』


『HPは結構減ってるな今ので。さぁどう出るか』


「うるせー!」


『あっとここで白銀選手が仕掛けた!煙幕の中から出てきて即殴りだ!』


『おっと避けられない直撃だ。かなりHPが減ったなぁ今ので』


『連撃が止まらない!白銀選手の攻撃が止まらない!』


『一応ヒスイも攻撃してるんだがな、如何せん避けながら攻撃している白銀に当たってねえ』


「これで終わりだこの野郎!」


「FIRE!」


「ファッ?!」


『あっとヒスイ選手、まだ隠し玉を持っていた!モロに直撃するーッ!』


『だがまだHPが残っている、勝負あり。だな』


 ~ダイジェスト終了~


「ハーッ!やっぱり強いデスね!」


「流石にあの隠し玉ぶっ放された時は死んだと思ったぞ」


 心臓止まるかと思ったからなあの時。実際完全に命中したしな。しかし俺の勝ちだ!まぁちょっと、と言うかかなり消化不良ではあるが。主にパールとまともに戦えなかったせいだが。


「ところで何があったんデス?」


「知らなくていいぞ。ヤバい機体が暴走したってだけだ」


「へー。そりゃ大変でしたネー」


「実際腹に穴開いたからな……。俺も病院行くか」


 そう言えばガッツリ腹に穴開いてたわ俺。病院に行くか、あんなよく分からん液体を飲んだだけで人間は回復しないよ。したけど……。それにパールの容態も気になるしな。結構危篤状態だって言ってたけど。


「しかし黒いナノマシンってなんなんだ?」


 結局何にもわかんなかったな。まぁいいか!とにかく今は体を直すことが重要だからな!そんなに遠くなくてよかったなぁ!


「特に問題ないですね」


「マジ?」


 腹に穴開いてたはずなんですけど?まさかマジであんなよく分からん薬が役に立ったってのか?だとしたら凄いなぁ、あの薬。


「ところで一つよろしいですかな?」


「なんだ?」


「こちらの写真なのですが」


 ふんふん、俺の腕の写真ね。いわゆるレントゲン写真って奴みたいだけど……。ってあれ?俺の腕になんか入ってね?なんか……。BAみたいだ。


「これに関しては何も言いませんでしたね?」


「まぁ……、自覚症状が無かったもので」


「一言言わせてもらいますとね、これだけの異物が体に入っていて、自覚症状が無いと言うのは異常状態ですね」


「ですよね……」


「とは言え、実際問題異常があるのは事実です。とりあえず飲み薬だけ出しておきますんで、痛み止め程度に飲んでくださいね」


「あっハイ」


 にしても俺の腕あんなことになってたのかぁ。そりゃあんなデカい何かが入ってりゃ火力も上昇するかな。さてと。それじゃぁどうするかなぁこれから。これから夏休みに入るんだが、どうせオヤジは帰ってこないしなぁ。


「ま、何とかなるでしょ」

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