第二十五話『黒く蝕む殺意』


『な、なんですかアレは……』


『何かは分からんがヤバそうだ!観客を避難させろ!』


 あぁそうらしいなぁ!何だこれは?!さっきからパールと黒いナノマシンの中に、大量の生き物が見えるような気がするぞ!まるでキメラか何かみてぇだ!なんなんだアレは!


「消えて」


「!」


 なんか飛んできたぞ!?えっカジキ!?なんでカジキが飛んでくるんだよ!?いやそこじゃないか!とにかく避ける!


「うっわスタジアムに穴が」


 どんだけ鋭いんだよあのカジキ!?というかこれじゃバリアも割れるんじゃねえのか!?あー刺さった部分からヒビが入ってますねぇ。んでカジキが赤くなってますねぇ。


「おい爆発するんじゃねぇのかこれ」


 あーあ予想的中!一気に爆発しやがったぞこのカジキ!おいおい完全にバリアが破壊されちまったじゃねぇか!?でもってパールの体から何か出てきたぞなんだこれ?!


「襲え」


 犬畜生を呼び出しやがったぞ!流石にこれを通すわけにはいかん!明らかに客席にいる奴らを狙いに行ってやがる!ネイルガンを生成!足に向かってぶっ刺す!そこで止まってろカス共!


「あっカジキからも出てきてやがる?!なんだありゃマップ兵器か?!」


 客席まで飛んでいったカジキからも出てきやがったぞ!どうするんだこれ?!あっ一応待機させてきた奴が動いたぞ!観客を守ってくれよ!


「で、俺はパールを相手にする!」


 なんか俺に凄い敵意むき出しにしてない?俺なんか悪いことしたか?そう言う事じゃないか。多分今のパールは恐らくだが、目の前にいる生物を殺すだけの生物兵器になってんだろう!


「死んでくれるか?」


「いヤダな」


 タコ足が出現!とりあえずしゃがんで避けて速攻!流石に足元はがら空きか!?


「うおっやべぇ!」


 足元に大量の魚?がいたぞ!しかも俺が突っ込んだ先に飛んで行って思い切り爆発したぞ!ありゃ地雷ってレベルじゃねぇよ!しかもこっちを狙って地中を泳いで来てるぞ!


「で、上にはタコ足があると!こりゃ厳しいなぁ!」


 無理やり四つん這いにされた挙句、足元には大量の地雷!こりゃ相手は真っ向勝負する気が無いな!完全にこちらをハメ殺しにかかって来てやがる!ならこの地雷が爆発する前に接近してやればいいな!


「見せてやるよ、超低体制のタックルを」


 足にあるジェット噴射を最大まで火力を上げて……、飛ぶ!このまま突っこんでやる!着弾確認!吹っ飛べ!


『うおーっ!白銀選手があの黒い奴をぶっ飛ばしましたよ!』


『流石に想定外だったんだろうな、困惑してるようだ』


 相手はこの不意打ちを食らって、明らかに警戒心を深めてるな。俺に注意が向いている今がチャンスだ、アレをぶち込むチャンスはもうここしかねぇ、少し警戒しつつ、だがしかし間違いなくどこか無警戒な今、今しかない!


「もうお前に近寄らねぇ」


 さてと。先ほどのパールとの一戦でなぜ槍を地中に埋めていたか分かるか?正解はこうだ!どこにいようが当てられる状況だったんだよ俺は!


『あっ!白銀選手は地面に槍を埋めていたようですが、槍の先端がドリルのようになっています!』


『カバーみたいなものだな。アレで地面を掘削して移動していたんだろう、隙を見せたらどこからでもぶち込めるようにな』


 そう言う事だ!そして今回は当たる前にカバーを外していない!ドリルをモロに食らいやがれ!あっ避けられた!だがそもそもこれで何とかなるとは思っちゃいねぇ!このまま接近して……


「邪魔……ッ!」


 モグラ?!足元の地面を無理やり掘って、俺を落とそうってか!?そんなので埋まる訳ねぇだろ


「ぐえっ!?」


 な、なんだ?!背中に謎の痛みが?!何か刺さったぞ!?


『あっ、アレはダツです!あの、夜に光に突っ込んでくるクソヤバい魚です!』


『完全に体に刺さってるなアレは。そして見ろ、あの黒い奴が白銀の足を掴んだぞ』


「死ネ!」


 うわぁっなんか腕が生えた!?と言うかこの状態じゃ避けられねぇ!防御するしか


「ゴォッ」


『き、機体は破壊されていないようですが……』


『だが、内部はメチャクチャだろうな。若干だが血が出ている』


 く……クソが。腕どころか内臓と骨が何本かメチャクチャだ。なんて威力だよ……。完全にあの腕はゴリラだろうなこりゃ。


「まだだ……まだ、殺せないぜ?」


 あークソ、こりゃもうだめだな。三途の川って奴が見えてやがる。このまま死ぬのか俺は……?いやだなぁそれは。まだパールを救ってないのに。


「死んでよ!」


 いつぶりだろうか。人の目を間近で見たのは。パールの目なんか、一回もまともに見たこと無かったっけ。


「私の前から……」


 ……なぁ、パール。お前はこうしたかったのか?男が嫌いで、いつでもこうしたかったんだったら、お前は。


「消えてよ!」


 なんでそんな、とても悲しい目をしているんだ?


「しょ、所詮は化け物だな!お前に人並みの生き方なんか出来る訳ねぇだろ!」


「……あ?」


 おい誰だ今のを言ったのはよ!?ってあの不審者じゃねぇか!なんでこの状況になって煽って来るんだこいつ!?えぇいどうにかするしかねぇ!既にパールが殺そうとしてやがる!


殺人それは駄目だろ!」


 殴りたくはなかったが!殺人をさせるくらいなら俺は殴ってでも止めてやる!


『あっ!』


『白銀……!お前なんで体で受けたんだ!?』


 あんなクズでも、あんな野郎でも……。


「お前に……。人殺しなんか、させる訳にはいかないんでね」


 完全に体にダツがぶっ刺さってやがる。これで四本目だぞったく……。腹に穴が開いちまった。


「なんで……?」


「さっき言ったろ。お前に殺人なんか、させる訳が無い」


「どうして……?」


「さぁな。考えるより前に、この体が動いてたんだ」


 ……ようやくパールが止まったか。しかしクロナノも止まってないし、それに俺がヤバいんだけど。ちょっと血まみれで死にそうって言うか……。


「止めて……死なないで!」


「無理かもなぁ……」


 正直、立ってるだけでもギリギリだからな?意識も朦朧としてきたんだけど?


「私は……いつもこうだ。何もできない。何も……何も!」


「そうだこの野郎!お前にゃ何もできねぇんだよ!死んじまえ!お前なんか俺の娘じゃ」


「はーいそこまでだクズ野郎」


 絵夢……?なんでいるんだ?と言うかそっちの社長っぽい人は誰?何が起きてんの?……もしかして、葛実?


「よっ。白銀。どうも死にかけてるっぽいけど、まだ終わってないだろ?その子、とっととその黒いナノマシンのコア外さないと、死ぬぜ?」


「これを受け取れ白銀」


 何だこの銃弾……。見た事ねぇよこんな銃弾。何だこれ?


「それは黒いナノマシンを中和する事が出来る物だ。それを奴に撃ち込めば、その黒いナノマシンを少しの間止める事が出来る」


「なんで俺にそれを……?」


「えぇい!理由なぞどうでもいいだろう!さっさと止めないか!」


 それもそうだな。なぜ来たのかは分からないが、使わせてもらうぞこの銃弾!


「もうヤダよ……。死にたいよ……」


「パール……」


「生きててもどうせ、誰の役にも立てないよ……。死んだ方がマシだよ……」


 クソッ、さっきの不審者のせいでネガティブになってやがる。このまま黒いナノマシンを引っぺがしたところで自殺しかねないぞこのままじゃ……。


「死んだ方が、マシか」


「うん」


「ならその命、俺にくれ」


「……え?」


 まさしく命がけの説得だな。


「今まで何があったのか、俺は知らない。だけど今のお前を見てると胸が苦しくなってくる。……だから、死ぬってんなら俺にその命をくれ」


「……いいの?こんな私で……いいの?」


「あぁ」


 今なら黒いナノマシンを引っぺがせる。これでもう二度と、パールがこれを使うことは無くなるだろう。


「俺と一緒に生きてくれ」


「……うん……。うん……!」


 ……今は、これしか出来ないけれど。好きだぞ、パール。


『うっわ、こんな場所で濃厚なキスするかね』


『うわぁ……凄いですね。こ、コレどっちが勝ったんですかね……?』


『今更試合もクソもあるか……。ま、どっちが勝ったかはわかるだろ。……白銀、お前の勝ちだよ』

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