第十九話『~視点葛実~黒いナノマシン』


「黒いナノマシン……ですか?」


「あぁ。俺の親父が残した機体の一つで、俺でさえ作るのを禁止している」


 俺の親父はあのBAを作り上げた化け物、『鋼鉄金』。そして俺は葛実。鋼鉄葛実。そして今手に持っているのは黒いナノマシンの設計図。あのダストが、最期に残した物だ。……まぁどっちかって言えば部下が持って来たんだが。


「何故です?見たところそんなにヤバそうな気配はありませんが……」


「あぁ。この黒いナノマシン……長いから『クロナノ』と呼ぶが」


「はぁ」


「こいつの問題点はだな、とにかく壊れやすいって事だ」


 一応一回作ってはみたが、これは親父の中では失敗作なんだろう。だって明らかにわかりやすい場所に置いてあったからな。親父は大のサプライズ大好き人間、BAの設計図を全国各地いろんな場所に隠してやがった。


 そしてクロナノの設計図は、マジで学校のその辺に置いてあったレベルである。どれだけ重要ではない物なのかがこの時点で把握できるだろう。なんでそんなところに……。


「これを使い、その辺の浮浪者のおっさんに使わせてみたのだが、実験結果はおぞましい物になった」


「な、なんですかおぞましいって……」


「そのおっさんはこのコアを使った結果、死んだのさ。しかも単なる死に方じゃねぇ、ショック死だ」


「しょ、ショック死……何があったのですか?」


「まぁ単純に言えば、一度全身の骨がめちゃめちゃに砕け散った後、何事もなかったかのように修復され、また破壊される。ハッキリ言って欠陥品だ、こいつは」


 そもそもなぜこんなものを作ったんだか。こんなものを作れば碌な事にならないとわかるだろうに。まぁ親父は結構変な奴だったからな。なんとなく作りたくなったんだろ、きっと。


「それでこの作成したクロナノは……」


「処分してくれ。人が扱うには少々危険すぎる。それより白銀の様子はどうだ?」


「はい。今のところは学校で普通に生活しているようですが」


「そうか……」


 うーむ。奴の機体の中に設計図があると思っていたのだが、見込み違いだったか?わざわざ奴らを使いつぶす意味は無かったか……。だが親父の事だ、どうせそれすら読んでいて、どっかに仕込んでるってパターンだろう。


「いずれにせよ奴を一度ここに呼べればなぁ……」


「はぁ。ところでお話と言うのは」


「あっそう言えばそうだった。そっちが本題だった」


「それで、本題は」


「あぁ。この前にテレビに映したあの少女……名前は何だったかな」


「『深堀ふかほり琥珀こはく』ですか?」


「あーそれ!そいつ呼んできてくれない?」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 そう。今回の重要なポイントはここだ。と言うのも白銀を炙り出す為に、偽の男性BA装着者をテレビに映したのはよかったんだが、その後どこの学校でも見てないぞと噂になってしまってな……。


「とりあえず白銀のいる学校にでも入学させるとするか」


「おはようございまーす!僕に何か用ですかー!?」


「相変わらずうるさいなお前は」


「ハイ!それだけが取り柄なので!」


「あっそ。まぁいいや、それよりお前には今度私の言う指定校に行ってもらう」


「えっ!?出来るんですか!?」


「出来るから言っているのだ。という訳で夏休み期間が終わり次第、すぐに入学するように」


「了解でーす!」


 まぁ何の役にもたたないだろうが、一応入学させておくとしよう。何もしないよりはマシだろうからな。一応専用機持ちにしておくか、白銀の奴も専用機持ちだったからな。


「それではー!」


「あぁはい。さっさと帰りな」


 はー。うるさいのが帰った。さてと……。一応ウチの娘でも探してみますか。あいつどこに行ったんだか……。


「多分機体を作る腕は、恥ずかしい事に奴の方が上だ」


 恐らく、俺が抱えている職人全てを奴にぶつけても、凄まじい質で圧倒されるほど、あいつは才能がある。だが奴は、俺の元から消えどこかに行ってしまった。


「せめて足取りだけでも掴めればなぁ」


「失礼します」


「あ?なんだ入れ」


 おっと、この前の事件の主犯って事になってる奴じゃん。どうしたのかなぁこんなところで。ってか死んで無かった?なんで動いてるの?


「ダスト君?キミ死んだはずだよね?」


「えぇ。コレはダスト様の人格を残した物です。ところで、伝え忘れたことがありまして」


「何!?怖いんだけど!死体が動いてる……って、コト?!」


「白銀の専用機は、一度壊されています」


 ……何だって?


「では」


「おい待て!今なんて言った?!」


「ではスペアボディをください。このままではダスト様が死んでしまいます」


「ぐぬぬ……分かった!くれてやる!それで話してくれるだろうな!?」


「ではそうさせてもらいましょう」


 クソッ、ぬかった!この女、いざ捕まった時用の為に情報を隠してやがったのか!しかも恐らく、俺にとって重要な情報であると言う事を確信して!


「で、どういうことだそれは」


「はい。白銀と言う男の機体は、既に別のBAへと変化しています」


「それは何て名前だ?」


「『しろがね』。と、そう呼んでいました」


 しろがね……!?親父が『ワシにはもう作れん』と言って諦めたあの……?いやいや、そんな訳がない。そもそもそれを作れるのは……。いや待て、今の時代なら作れるんじゃないか?


 親父が残したナノマシンを作る機械も、最初に見たころからずいぶん小さくなった。手のひらサイズにまで。なら、作れるんじゃないのか?……最強の機体を。


「……これでよろしいでしょうか?」


「あぁ。もう好きにしろよ。スペアボディなら俺の社員にいえば、簡単にくれるはずだ」


「えぇ。存じ上げています」


 この女、とんでもない奴だな……。そこまでしてダストの奴を生かしたかったのか?まぁ別に知ったこっちゃねぇけど……。あいつの会社を買収して金は大量に手に入ったしな。それに、俺とオヤジに関しては何も知らないままだ。


「いずれにしても、女のみがBAを着れると言う状況であれば何の問題もないのだ」


 もし仮に、奴が声を上げたところで、前科の付いている奴の言う事を信用することはなく、とりあえず特別っぽい感じにしておけば問題ない。


 どうせ他の奴らは着れないようになっているのだから。


「ククク……」


 その点で言えば、白銀の奴はもう問題ないと言って過言ではない。奴は恐らく普通の奴らでも、着れるようにすれば着れるようになると考えていない。そうでなければすぐに言うだろうからなぁ。


 私なら言っている。女なんかにマウントを取られるこの世界なんて、俺には耐えられない。


「だがその状況が俺にいいように動くとすれば、当然その状況を保つようにする」


 女尊男卑だろうが、なんだろうが俺のいいように使ってやる。それで金が稼げるなら何の問題も存在しなくなる。


「だが念のために……」


 一応、今度の試合見に行っておくか。なんだかんだ従兄弟だしな。それに……。バカ娘の事も気になるしな。


「白銀は悪い奴じゃないんだが」


 どちらかと言うと危険すぎるあの機体を着ていることが問題になる。何時あの機体から親父が考えたおふざけを越えたおふざけのような機体が出てきてもおかしくない。しろがねとか言ったか、あの機体は……多分気のせいだろう。


「やっぱ見に行った方がいいな」


 うん。何よりも優先した方がいいかもしれないぞこれは……。なんだか嫌な予感がしやがる。しろがねがもし本当に親父が言っていた機体なら……。俺は奴を本気で倒さなきゃならなくなる。


「……それだけはちょっと避けたいな」


 いや、しろがねが強すぎるって意味でな。アレを抑え込むためにいったい何隊の汎用機が必要になるんだか……。


「まぁ考えないようにしよう。それを考えると支障が出かねない」


 さてと……。裏口入学の準備をしないとな。

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