一章『キミの過去、僕の未来』

第十五話『その機体もあの期待も』


 さて学校に帰って来た訳なんだけど。


「まさか機体別ルールとは……」


 今回の大会は機体別ルールでした。はいまずBAの戦闘機における機体別ルールについて解説しましょう。


 機体別ルールとは、機体の重さによってルールが変わるシステムの事で、俺の場合はこのBAの重量が『㌔:50~100』と言うかなりの重量なので自動的に最重量系ルールにエントリーされる。


 そりゃ重い機体は強いからね。軽量級を蹂躙するのはいくら何でも酷いだろうという訳で階級別になった訳だ。


「と言う事は瑠璃とは戦わなくていいのか」


「え?どうしてデス?」


「瑠璃のBAは案外軽量級なんだよ。確か『㌔:25~50』だったはずだ」


「珍しいデスね、そんな軽いの」


「俺もそう思う」


 瑠璃のは攻撃と飛行能力に重きを置いているので、実はかなり軽量級なのだ。その代わり防御はガバガバどころかスカスカ、火力中毒の末路。ガン攻め以外の選択肢がないと言う、ぶっちゃけ常人には使いこなせないだろうBAとかしている。


「って事は何?あたしは戦えないの?」


「うわぁ瑠璃!?なんだお前いたのかよ!?」


「いや、さっき来た。で、どうするの白銀。参加するんでしょ?」


「分かってるなら聞くなよ……。もちろん参加させてもらうぜ!」


 恐らく、今回このトーナメントを開催する理由は、皆にこの学校のBAの強さを示すためであり、アレだけの被害を出しながらもこういう事が出来るんだぞ、と言う示しのようなものだろう。


「じゃなきゃやらないよ、こんなにぶっ壊れてる中で」


 実際、今は修理に追われてみんな忙しそうだし、ルミナ先生は専用機を壊されたって言うんでちょっと落ち込んでる。しかもこの学校以外からもBA乗りが来るって銀が言ってたな。


「と言う事はあのバカとも鉢合わせになる可能性が……?」


「おいバカとは何だバカとは」


 ゲッ来やがった、マジで来るとは思ってなかったぞこの野郎。と言うかパールはどうしたパールは。


「よぉR、相変わらずしけた顔してんなぁおい」


「原因はお前にあるんだけどな白銀」


「なんでぇ?」


「どいつもこいつもお前を下してやろうって息巻いてんだよ!そのおかげで昨日は徹夜で整備させられたしよぉ……うぐぁぁ」


 こいつメチャクチャ疲れてるっぽいな。お疲れさん。さてと。


「じゃ、俺整備士と話があるから」


「あっこの野郎!もっと話して行けよ!」


「じゃあね」


 あいつと話してると無駄に話しちゃうから止めておきましょ。それより一回銀とこの機体に関して話し合わなきゃいけないんだよなぁ。あいついっつも屋上にいるから、探さないでいいんだけど、瑠璃と出会ってあいつに振り回されてる感があるからなぁ。


「おーい銀、来たぞー」


「ひゃいっ!?」


「……何やってたんだ?」


 また機体弄りか?近くに機体見えないけど。後なんか熱くない?この部屋。しけってない?おや、何か落ちていますねぇ……。武器かな?濡れてるけど。


「あ」


「……」


 ……大体把握しました。もう何も言わないから気にすんなよ。俺も悪かったしさ……。


「あの、内密に、ですね」


「あーはいはい。分かった分かった。鍵かけてしなこういうのは」


「もうお嫁にいけません……」


「じゃぁ家にでも来るか?」


 ……。何だその驚いたような顔は。俺がそんなことを言うのが珍しいのか?


「えっ、その……いいんですか?」


「あぁ、そう言う事か……」


 完全に失言だったな今のは……。まぁ別にウチに来てもいいんじゃない?俺は嫌いじゃないしな!


「えへへ……お嫁さん……へへ」


「でだ、このしろがねについてなんだが」


「ひゃびゃっ!?あっはい!」


「まぁ見ての通り、明らかに塗りが足りないな」


「はい。何しろ緊急でしたから……」


「じゃあこっからはその塗りに関しての相談だな」


 まぁ色に関しては白系の塗装でいいとは思うんだが、要素要素で線が入っていると格好いいデザインになるだろうな。多分。


「じゃあ最終的にデザインが決まったら連絡よろしくな」


「はい!じゃあ後でって事で!」


 うーむ、やることが無くなってしまった……。体鍛えにでも行くか?いやそれにしてもなぁ……。寝るか!よーしベッドに飛ぶ!


「こんにちは」


「あぁこんちは……って誰だ?!」


「私は以前、ダストに仕えていた者です」


「はぁ……ってあの!?」


 え、なんでそんな奴が俺に接触してきたんだよ!?まさか復讐とか……!?いやいや、流石にそう考えるのは早計か、だがしかしなぜ今、ここで!?


「……一応ですが、私は復讐の為に来たのではありません」


「あっ、そうなんだ……。じゃあなんで来たんだよ?」


「無念を晴らすためです」


「ダストのか?」


「えぇ」


 うーん。何といえばいいんだろうか。いやまぁ別にとやかく言うつもりは無い。だが、アレだけの事をしておいて、まさか何もなかったかのようにウチに来る気か?そうなった場合流石にちょっとね……。


「お前のリーダーの無念ってのはなんだ?」


「……。我らの会社の再建です。ダストは幼少期をスラムで過ごし、そこからひたすら成り上がって会社を設立しました」


「はぁ」


「ですが、我らの会社は不正規な方法で買収されました」


「なんでそう言えるんだ?不正って言ったって色々あるだろ?」


 大体それだったら他にやれることがあるんじゃねぇの?なぁ。そんなにヤバい事か?


「我らの会社はBAのパーツを主に他の会社に売っていました。……しかし、奴らはそのパーツを独占し、我らの会社を潰しにかかったのです」


「はぁ……。そんな簡単に出来る物かね?」


「相手は国内トップシェアです。その程度は容易いのでしょう」


「そんなことするくらいなら普通に買収すりゃよかったんじゃないのかね?相手」


「いえ、奴が欲しかったのは我らの会社ではなく、社員の方です」


「人手不足的な?」


「いえ、もっと最低な理由です」


 最低な理由ねぇ。俺には思いつかないなそんなの。


「あっもしかして体目当てとか?」


「……はい」


「えっ嘘」


 嘘だろ?女抱く為に会社一つ潰して社員を無理やり抱き込んだってのか?そんな無茶苦茶する前に色々出来んだろデカい会社は……。


「我らの会社は、社長以外は全て女性で構成されていました。……ですから、奴らにとっては潰す価値があったのでしょう」


「ちょっと待って、そもそも何て名前の会社なんだ?」


「……そう言えば言っていませんでしたね。我らの会社を買収し、この世界を実質牛耳っている会社」


「あー。心当たりがあるなぁ。もしかしてだけど」


「はい。あの鋼鉄葛実率いる『BAカンパニー』です」


 それって銀の父親がやってるところだよな?でもBAカンパニーは確か支部だったはず……。


 BAカンパニー。それは銀の父親が社長になっている、国内トップシェアのBA会社の支部である。支部と言いつつ、汎用機の大半はこの会社で作られており、給料も結構いいと評判。しかし悪い噂は絶えないと言うちぐはぐな会社だ。


「最悪だなこりゃ。でお前はどうするんだこれから」


「私は、その事実をあなたに伝えに来ただけです」


「俺以外に伝えた方がよくね?」


 そう言うのはやっぱ警察に言った方がいいんじゃないのか?そもそも俺に何が出来ると思ってこいつは……。


「えぇ。そうなのでしょう。しかしあなたが一番いいと思ったのです。……では」


「どこに行く気だ?」


「警察です。……私はこれから全ての罪を背負い死刑になるでしょう」


「何!?」


「実質社員を人質に取られているようなものですからね。……敵は奴らBAカンパニーの者たちです。そこを間違えないように」


 ……止められねぇ。止めたところでどうにもならない……。俺に出来る事が無い。


「敵はBAカンパニーか」


 今は気にしないでいい、だが覚えておくべきだろうな。きっと重要になって来るだろう。奴から抜き取ったこのコアも、きっと何かの証拠になるはずだ。

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