第三話『五年の歳月の積み重ね』


「ところで、ハンデはいくら必要ですか?」


「いらねーよ。さっさとかかってこい!」


 相手のBAは、恐らく戦闘向けに作られた物だろう。基本的にBAは爺ちゃんの趣味全開で作られており、すっごいピッチピチなスーツに外付けアーマーを色々加算していく感じのマシンだ。……え、俺の?いや俺のは全然そんなのない。メチャクチャ機械機械してる。


 武器は刀、浮いている砲台は要警戒……っと。こんなところだろう。厄介になるのはそこだけ、そこだけだ。結局最終的に重要になってくるのはなぁ……!


「では、行かせてもらいましょうか!」


 ただ純粋な、身体能力だ。


「避けた!?」


「と言うかあの機体何……?見たこと無いよ」


 周りの声が鬱陶しい。しかし仕方のない事だろう。これは爺ちゃんが作った機体の中でも、誰にも見せてない機体なんだからな。そりゃ困惑もするか。それにしても相手の機体普通だなぁ。ビックリするくらい普通だよ。何と言うかこう、カードゲームでよくあるテンプレ構築って感じだ。要するに、まぁ、しょぼい。


「クッ、すばしっこい奴!」


 にしても爺ちゃん。このスーツやっぱフェチ入ってんだろ爺ちゃんの。だってもうね。明らかにね。ピッチピチすぎるんだよ。若干見えそうになってんだ色々と。どこがとは言わないが。隠しなさいよその辺。カスタマイズできるんだから。みんなしてないけど、なんでだろうか。リスペクトかな?


「ッ、この……ッ!」


 もうあれじゃん、なんだっけレオタードって言うのかな?スーツがそれみたいなんだよね。耐久性は鉄より硬いんだけどさ。何使ってんだあのスーツ。多分爺ちゃんの息子がそう言う素材でも作ったんだろうなぁ。今やBAの製造会社の社長だもん。全国トップシェアだぞ。凄いなぁ。


「真面目に戦え!」


「えっ何急に……」


「さっきから避けてばっかりで攻撃しないじゃないか!」


「いや考え事してて。で、まだ攻撃してこないのか?」


「ッ~!殺す!」


 ……?もしかしてこいつは刀をやみくもに振るう事を攻撃と呼んでいるのか?だとしたらちょっとヤバいよそれ。おい熊と殺しあったことあるか?熊凄いよ熊。スーツに傷付けれる存在だよ?頭いいよあいつら。


 すげぇパワーとスピードだもん。銃弾撃ち込まれても平気な顔して。なんなんですかね熊って……。


「あの、真面目にやってないのはそっちだと思うんだが……」


「ゼー……ゼー……う、うるさいわね!」


 なんかもう付き合ってられんので、刀を掴み片手でへし折る。


「え」


 そして腕を掴んで……、地面に投げ飛ばす!


「ちょっ」


 おぉ地面に激突したぞ。まぁこのスーツは耐久性だけじゃなく、肉体へのダメージも吸収してくれるから特に問題は無いだろうが。しかしまぁ、誰がどう見ても俺の勝ちだろうよ。


「さーてと。帰って寝ますかね」


 なんか驚いている奴らを無視して、さっさと自分の部屋に行くことにした。これ以上は付き合ってられん。無駄な時間を過ごすだけだ。さて第二寮にやって来た訳だが、えーっと、俺の部屋は……あ、ここか。


「わざわざ専用の部屋を作ってくれるとはありがたいな」


 んで部屋は……暗いな。電気付けてないからだけど。スイッチはどこだ?お、ここかぁ。


「おっ、普通に広いな」


 俺アパート的な部屋を想像してたんだが、来てみると案外大きい。高級マンションの一室程度の大きさがある部屋だ。荷物もちゃんと運ばれてきている。だが一つ気になるところがある。寝室に来たんですけどね?


「なんでベッド二つあるんだ?」


 そう。なぜかベッドが二つもあるのだ。もしかして入る部屋間違えちゃった?このベッド。どうしたものか。これ言った方がいいのかなやっぱり。でもそうなると誰に言えばいいんだか……。


「邪魔」


「え?」


「おい、下。無視するな」


 えっ急に声かけられたんですけど。と言うか誰だよ話しかけてきた奴……。あっ、なんかいる。小さくて目に入らなかった。同級生……じゃないな。誰だろ?子供か?


「お嬢ちゃん可愛いね。いくつ?」


「お前と同じ。『アンダー・ロー・パール』だ。覚えておけ」


「……え、15?」


「そうだ。何回も言わせるな」


 え、マジで?これで?小っちゃくない?確か俺が大体百七十くらいで……、俺の腰と同じくらいだから?大体百五十……?かそこらか?多分。


「と言うかなんで男がいる?ここ私の部屋。出てけ」


「いやでもここ俺の部屋なんだよね。ほら、ネームプレートにも書かれてるし、電気も付けられたし」


「……ちょっと聞いてくる」


 あっ、管理人やっぱりいるんだこの寮。と言うか何を言いに行くんだよこの状況で。あーあ行っちゃったよ。さてどうするかなぁ。これからやる事無いっちゃ無いが……。


「ま、いいか。久々に瑠璃にレインを送るかな」


 あいつ、多分久しぶりに出会うだろうから寂しがってるだろうなぁ。にしてもパールか、確か隣のクラスにいたはずだな。覚えておこう。


 おっと帰って来たぞ。凄いしょぼくれた表情をして。こういう時の表情は、ダメそうな感じの顔をしている。


「ダメだった」


「そうなんだ」


「私の半径二メートル以内に入るな」


 なんか凄い嫌われてるな俺……。俺何かしました?女尊男卑もそこまで行くとちょっと心配よ?俺。真面目に。やまぁ、この場合はそれが正しいのかも分からんが……。


「寝る。起こすな」


「はいはい」


 さーてどうしますかねぇ。こいつふて寝しちゃったし。とりあえず色々なとこに行くとしますかね。まず食堂に行きますかね。えーっとね、地図地図……。


「あっ、ここか食堂」


 なんか変なとこにあるなぁ食堂。寮からちょっと遠くない?なんか。不便だなぁ……。いやまぁどうせコンビニあるから別にいいんだけどね?まぁうん。


「暇かい?」


「まぁ暇だな」


「とりあえず食券はそっちね。今は昼時でもないからかなり空いてるけど」


「みたいだな」


 まーなんか飯でも食うかぁ。昼飯にしちゃ早いけどな。腹減ってるし。


「うーん色々あるなぁ」


 なんか色々あるね本当に。さてそれは良いんだけどさぁ、なんかシレっと隣に座ってる奴がいるんですけど。なんだお前は!


「ウィーッス!ウチは二年新聞部の『鳥仲とりなか来夏らいか』っす!インタビューいいっすか?」


「ダメだ」


「えーっ!?いいじゃないっすか!どうせ減るもんでもないんでっすし!」


「嫌だな」


 なんだこいつ……。これでも俺より年齢上なの?これでも?と言うか地味に人の飯を取ろうとするんじゃない。自分で買えよ、卑しい女だなぁ……。


「いーじゃないっすか!ねー!」


「おいそこのバカ」


「げっ」


 またなんか来た。今度はなんだよ今度は。っと、こいつよりは真面目そうな奴が出てきた。


「来夏。また新入生にあることない事聞いていたのか」


「い、一応先輩っすから……」


「何を教えた?」


「す……ッ」


 強い。理論武装している。この傍から見てもウザそうな奴が、全く何も言えなくなっているレベルだ。すげぇや……。


「新入生、それも男性に対しあることない事言う気か?」


「了解っす……今日は引き下がるっすけど、今度は聞かせてもらうっすよ!」


 来夏、撤退。まぁそれは良いんだが、目の前の彼女あなたはどちらさま?


「ウチのアホが済まなかった。私はこの学園の風紀委員を務めさせてもらっている、『金剛こんごうカイネ』だ。先の戦いは観戦させてもらった」


「あ、あぁそうですか」


「ここにいる皆はBAの試合をするために集まっている。男性でありながらあれだけの強さを持っていることに感服した」


「は、はぁ……」


「しばらく観察させてもらう」


 なんでぇ?どうしてそうなるのぉ?俺が何したって……あぁ悪目立ちしてる俺。そう言えばモロ悪目立ちしてるじゃん。まぁいいや気にしなくて。そもそもさっきの相手はそんな強くなかったし。


「では。さらばだ」


 カイネって人三年生か。しかしあの人、明らかにあいつよりは強いな。えーっと、なんだっけ?……まぁいいかそれより重要なのはここから。ちょっとこれからやる授業を見たんだけどさぁ。


「実習訓練が多いな」


 渡された授業表にはやたらと実戦が多い。ちょっと座学少なすぎじゃないか逆に。何か心配になって来たんですけど。まぁしっかり座学をやる時はやるけど。


「しかし何するんだろうな、実戦訓練」


「知りたいか?」


「あぁ、実戦形式の方の先生」


「『ルミナ』だ、覚えておけ」


 へー、先生も普通に飯食いに来るんだ。と言うかなんでいるんですか?一応飯は食い終えたんですけど、なんならデザート食ってるんですけど。甘くて旨い。


「さっきの試合は相手から仕掛けてきたのか?」


「そうですね」


「だろうな。ところで聞きてぇんだけどよぉ……」


「なんでしょう」


「お前の機体。どこで手に入れた?」


 ……ん?不味い状況じゃないかこれ?

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