第二話『えっ、もしかして即入学ですか?』


 ブレイブ・アーミー。簡単に言えばナノマシンで作られるパワードスーツである。ナノマシンで作られるため武装を作ることも簡単であり、装着に関してもボタン一つで即装着できる代物である。汎用機は大体そんな感じだ。


 では俺の専用機はと言うと、なんと俺の肉体に埋め込まれているのだ。これは肉体一体化型のBAブレイブ・アーミーであり、世界で俺しか使う事が出来ないのだ。誰にも使うことは出来ない。


 と言う訳だ。んで教室を出た俺らは、体育館に向かっていた。どうやらここで適性検査が行われるらしい。一応俺は適正者であるが、その事実を誰にも知られないよう、今までは爺ちゃんが残していた偽装機械ディフューザーで隠していた。バレると面倒くさそうだし。


「まぁ、今なら別にバレても構わんか」


「なんか言った?」


「いや、何も」


 軽口をたたきながら、俺たちは自分の番が来るのを待っていた。女子は誰でも身に付けられるので、詰め込まれているのは男だけである。その為かなりむさくるしい。それに一回一回が長いんでつまらない。


「どれだけ待てばいいんだよ」


「暇だよねーこういうの。そう言えばさ、どこの高校に行く感じ?」


「俺か?俺はブレイブ・アーミーの製作専門校に行くつもりだ」


 これは本当。恐らく爺ちゃんが残した機体を分析すれば、いずれ男にも着せられるブレイブ・アーミーが出来上がるだろうとは思っている。その為それ関係の場所に行きたいと言う気持ちはあるが……。


「へー……。あっ、次俺みたい」


 絵夢の奴が検査部屋に入っていった。出てくる奴らは大体しょんぼりしている。そりゃまぁ、そうだろう。ブレイブ・アーミーは今やなくてはならないものになった。建設、スポーツ、警察、etc.……。女が男と同じ、いやそれ以上の力を手に入れたのだ。俺たち男は当然立場が苦しい。


 しかしブレイブ・アーミーを男でも着る事が出来るという状況になればどうだろう。その立場は一変し、逆に元に戻るだろう。BAブレイブ・アーミーが出てから、女に一方的にフられた奴も少なからずいるらしい。つまりBAを着る事が出来れば、もはや勝ち組確定なのである。


「はーい次の方」


「ようやくか」


 もはや苦言を呈したくなるレベルで遅くなったが、どうやら俺の番らしい。ちなみに検査する奴はブレイブ・アーミーを着た女。合理的ではあるがそこは男でよかったんじゃねぇかなぁと思ったりもする。


「じゃ、検査しますねー」


「あいよ」


 検査と言ってもすることは少ない。俺の手に光を浴びせるだけである。すると適性のしるしが浮かび上がってくるのだと言う。なんだか変な話である。そもそも俺のBAは肉体そのものに埋め込まれているのだから、果たしてそんなもので本当に出てくるのだろうか。


「あっ。何か出ました」


 出た。


 まぁそれからと言うと、もうてんやわんやである。史上二人目の男性適合者が出現したとニュースもネットも毎日のように報道され、俺の家にはマスコミのアホ共が押し寄せ、男衆の態度が露骨に俺に媚を売ってくるようになり、絵夢のアホは特に変わらなかった。


 そしてそれから一か月。俺は強制的にBAの専門学校に入学させられることになった。当然女子高である。別に女子高であることは構わない。そう言う物だと思えば特に問題にはならない。


「けどさぁ」


「どうした」


「これは無くない?」


 問題があるとすれば。今俺は女に囲まれていると言うところだろう。


 何があったか説明しよう。俺がBAの適合者であると判明した日から数日。俺を見る目は変貌した。男は尊敬と憎悪の混ざった目で俺に話しかけ、女は興味と疑惑の混ざった目で俺に話しかけるようになった。


 恐らく、奴らが疑惑の目を向けている理由は、本当にBAを今から着ても使いこなせるのかと言う物だろう。


 例えば、メチャクチャ長く会社に勤めているオッサンが、若手の天才に『本当にウチの仕事ができるのか~?』とか思っているような、そんな目だ。要は自分の方が長くそれに携わってるんだぞと言う目である。


「なんか大変そうだよね」


「うるせぇ……」


「俺だったらもう射精してるよこんな状況」


 絵夢は相変わらず、変態である。ぶっちゃけ変わらないので親しみやすい。それは良い。さて今俺の状況を確認してみよう。小学五年生からBAに乗っており、毎日二時間以上の修行を欠かさなかった。


 どうやら爺ちゃんはこの機体をガチ戦闘用に仕上げているようで、色々武器が出てくる出てくる。しかもナノマシンで色々武装が作れるのだ。例えばレーザービームにマシンガン、デカい刀にチェーンソーとか。足からはジェット噴射、飛行能力は富士山にすっ飛んで日帰りできるくらいに早い。あ。俺の地元は宮城県です。


「ちなみにお前がBAを着れるようになったらどうする?」


「うーん……。新幹線に突っ込む?」


「運転手が可哀そうだからやめなさい」


 何が言いたいかと言うと、これでもかという程熟練度はあると言う事だ。さて。では先ほど、俺が女に囲まれていた少し前に戻ろう。校舎内は中々広々としており、どうやら三年生までいるようだ。


「はーい皆さん自己紹介よろしくお願いしまーす!あ、私は『兪位ゆくらいからす』と言います!皆さんの座学を担当させていただきます!」


 こいつは俺らの教室の担任、烏。変な名前である。しかし名前に関して言い出すと、色々と面倒なことになるので気にしない方がいい。俺の名前も結構変だしな。


「私は『白露しらつゆかな』です。趣味は……」


 名前も苗字も結構気軽に変えられるようになったおかげか、変な名前と苗字にする奴が多いんだと。俺は変えてないし、変える気もないんだが。と言うか漢字で書くとマジで書きにくい奴ばっかりだなこの辺。俺?白に銀だぞ?小学生でも書けるわ。あー瑠璃はちょっと厳しいか。あいつ天才だから問題無かったけど……


「……の、あの!白銀くん!自己紹介お願いします!」


「っと、もうそんな感じか」


 さて何を言うか……


「俺の名前は鉱山白銀。以上だ」


 うーん。ぶっちゃけ言う事が無い。言っちゃなんだけど俺性欲ある方だからな?当然表に出さないだけで。つまり何が言いたいかと言うと……こう、刺激がですね。強いんですよね。色々。


「アレが噂の……」


「だね……」


 周りの奴らがなんか言ってる。言うだけならタダだから別にいいんだけどさ。にしてもつまらん時間だ。ようやく最後の一人まで行ったが……、おいどうする気だこの空気。


「えーっと、今日はもう授業ないからあとは自由行動でいいよ!」


 解散する気かお前。大体この状況でそんなことしたら


「ねぇ、色々聞いていい?」


 ほらね。こうなるんだから。


 という訳で囲まれた時に戻る訳だ。うん囲まれたよなぁ。質問攻めだよなぁ!聞こえる訳ねぇだろ一人ずつ喋れや!


「帰りたい」


「ちょっといいかしら?」


 もう逃げてやろうかと思っていたところで、何やら同級生の女がやって来た。こいつはテレビで見たことあんな。なんか凄い優秀なBA乗りなんだってさ。言われてたの三年前だけど。確か名前はー……。『王壊おうかいうるし』だっけ?


「なんだ?」


「そうねぇ……私と戦っていただきましょうか」


「は?」


 何言ってんだ?こいつ。いやまぁスポーツ系の専門学校だから戦うってこと自体に文句がある訳じゃ無いんだけどさ、そんな初日からこんなことあるか?って感じな訳よ。


「えっヤダ……」


「一応言っておきますが、拒否権はありません。では競技場へ向かいましょうか」


 じゃあなんで聞いたんだよ。という訳で競技場と言う場所へ向かう俺ら。どうやらここではBAを使っての戦闘行為が許可されているらしい。なんて物騒なのだ。


「当然ですが……。戦う前に、ペナルティを決めましょうか。そうですねぇ……。負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く、と言うのはいかがでしょう?」


「それでいいよ。負ける気ないし」


「でしたら一生私のパシリになってもらいましょうか」


 あ?見下してんな?俺が負ける前提で話進んでんな?頭に来たぞこの野郎。そこまで言うなら仕方がない。この手でぶっ飛ばしてやるから覚悟しろや!

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