第7話
「はぁ…怖かったぁ……」
「琴乃、怖がり過ぎだよ。ずっと俺にしがみついてたじゃん」
「だって、一人じゃ一歩も進めないもん」
「もー、お子様だなあ」
「だって、お化け屋敷なんて初めて入るんだよ〜」
「入ったことなかったの?」
「だって怖そうだったんだもん」
琴乃の可愛さに、紺はクスッと笑う。
「じゃあ、ちょっと休憩ね。クレープ食べよ」
「あっ、待って待って、もぉ」
走り出す紺を、慌てて追いかける琴乃。
「楽しい」と心から思わせてくれる紺のことが好きだった。紺といれば、いつでも笑っていられる。
「じゃ、また、明日。学校でね」
そう言って手を振る琴乃のその手を、紺は掴んだ。
「まだ……一緒にいちゃダメかな?」
紺の家に行った。
「お邪魔しまぁす」
そっと小さな声で、琴乃は言う。誰もいないことは、なんとなくわかっていた。紺が何をしたいのかも。
「ごめんね。嫌なら言ってくれていいから。俺、琴乃の嫌なことはしたくないから」
琴乃から目を反らして紺が言う。その唇にそっと琴乃はキスをした。
「え……」
「いいよ。紺だから」
紺は焦る。初めてのことだ。自分から言い出しておきながら、こんなに綺麗な琴乃を初めて汚すのが俺でいいんだろうか……。そう思っていた。
琴乃の唇は甘い。柔らかくて。どこも、全部、白くて、柔らかくて、甘い。……え?
「琴乃……」
「どうしたの?」
「……なんでもない。」
「いいよ、何?」
「なんでもない……」
何度も何度も何もかも忘れてしまいそうなほどに互いを求めた。
「琴乃……」
信じられないくらい琴乃は甘美に満ちていた。紺は溺れそうになった。
「私……よかった?」
下着をつけながら、琴乃は言う。
「初めてじゃ……なかったんだね」
目を伏せて紺は言う。
「初めてのことは……幼すぎてよく覚えてないの。ごめんね」
紺は、ハッとした。こんなに綺麗な子だ。小さい頃から誰かに強要されていたことだって、考えられる。琴乃にとって、体を求められることは、日常的だったのかもしれない。
「ごめん! ごめん! 俺の方こそごめん!!」
紺は琴乃をギュッと抱きしめた。
「だから……紺だから、大丈夫だよ……」
ポロポロと琴乃の目から涙がこぼれる。
「琴乃。ホントにごめん……」
琴乃は、紺にギュッと抱きついて、
「初めて、抱かれて嬉しいって思えた。初めて、幸せ、って思えた。だから、いいの。紺が私の好きな人で良かった」
家の近くまで送って来たものの、琴乃を家に帰していいのかどうか、紺は迷った。けれど、自分にはどうすることもできない。
「じゃあね。また明日」
「うん……」
「紺……今日のこと、二人だけの秘密ね」
ニコッと琴乃は笑って、帰って行った。
秘密……秘密……。何のことについて、どこまでが秘密なんだろう…、琴乃にとって。こんな思いをするくらいなら抱いたりしなければよかったんだろうか? いや、それは自分だけが逃げることにはならないのか? だけど、自分はもう一度、琴乃を同じような気持ちで抱けるだろうか。
紺は一晩中いろんなことを考えて眠れなかった。琴乃に同情しながらも、また、彼女の体の奥にある、熟した果実のような甘美さを求めてしまうだろう自分の「性」を呪った。
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