第4話
琴乃と話した後、リセットが必要だと思った。
「海斗……」
体育館の陰で、紫苑は海斗の腕に、自分の腕をからめる。海斗はフフッと笑うと、紫苑に軽くキスをする。
「したいんだ?」
「うん」
「俺の部屋でいい?」
「どこででも……」
「体育館倉庫でも?」
「……」
「冗談だよ。行こう」
体育館倉庫で、と言われて、そんな刺激的なシチュエーションで……と、思わず期待した自分が恥ずかしかった。
気が済むまで、海斗に抱かれる。溺れる。やっぱり私には、この男が必要なのだと、身体に染み込むまで……しっかりと覚えさせる……。
紫苑は、バイセクシュアルだ。多分。中学にあがった頃に、なんとなく、自分はそうなのではないかと思っていた。好きな男の子がいるのは当たり前だけど、同時に、気になって仕方ない女の子もいた。
高校に入って、それは段々と顕著なものになる。特に綺麗な女の子に目が行ってしまう。ちゃんと男の子のことも好きで付き合っているにも関わらず。
家に帰って、ベッドの上で妄想する。彼女が自分の物になったら、ああしたい、こうしたい……。美しいものを壊したい。汚したい。
そんな欲求。
だから、思考がそっちにいかないように、早く、好きな男の子にキスやセックスをせがむようになった。早く。早く。
その彼のことが一番好きなのだと自分に言い聞かせるように。自分の愛する相手が男の人だけだと、体に言い聞かせるように。
自分が、女の子も好きになってしまうだなんて、悪い病気のように思えて、誰にも言えなかった。一生言う気もなかった。
そんな生活をしていたのに……彼女は現れたのだ。あんなに綺麗で、華奢で、ガラス細工のような……美しさのあまり、粉々にしてしまいたいような……それで自分の手が血まみれになっても構わない……。
ハッとして起き上がった。海斗が驚く。
「どうしたの突然?」
「……あ……ごめん。ちょっと寝ぼけたみたい」
誤魔化す。海斗も起き上がり、紫苑の髪を撫でた。
「毎日遅くまで勉強してるんだろ。疲れてるんだよ」
「……」
「今日は早く寝たほうがいい」
「ありがと」
軽いキスをした。
海斗は優しい。彼を騙している自分が情けなくなる。今は、海斗のことだけ、考えよう。そう思った。
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