第2話

琴乃ことのちゃん」

「え?」

 河原かわはら琴乃ことのは、急に名前で呼ばれて、慌てて振り向いた。

「……って呼んでもいい?」

 後ろの席の佐藤さとう菜々ななが話しかけてきたのだった。にっこり笑っている。琴乃はためらいながら、

「う、うん。いいよ」

 と答えた。

「ありがと。あたしのことも菜々って呼んでね」

「わかった。ありがとう」

 琴乃はドキドキしながら答えた。


 菜々が話しかけたのを皮切りに、クラスの皆が、琴乃を囲む。それぞれ口々に自己紹介していく。

「どうしよう……怖い……」そう思って身構えかけた時、

「ちょっと待て待てお前ら」

 琴乃の前に、彼女を庇うように立って、

「ほら、河原さん、困ってるじゃん。今すぐじゃなくても、段々自然に覚えていくって」

 そう言ってくれた男の子がいた。

「まあ、そうだよな。アオの言う通りだわ」

「ごめんね〜河原さん」

 琴乃の周りに集まっていたクラスメイトたちは、みんな適当に散っていった。

「びっくりしたよね。大丈夫?」

 アオと呼ばれ男の子が聞いてくる。

「……うん。ありがとう」

 こくこくと頷いて、琴乃は改めて彼を見た。

「俺、アオね。困ったら言ってきて」

 そう言うと、アオは笑って他の友達の所へ行ってしまった。


「なんだよ。しっかり自分は売り込んでるんじゃん。ねえ?」

 菜々が笑った。琴乃も少し笑った。

「奴はね、天野あまのこんっていうの。紺色の紺ね。だから、みんなに『アオ』って呼ばれてるの」

「そうなんだ」

「ま、アオが学級委員だからさ、ホント、困ったら何でも聞くといいよ」

「うん」


「アオくん……紺くんかあ。いい人っぽいな……」琴乃はそう思った。


「ねえ、琴乃ちゃんは部活やらないの?」

 菜々が聞いてくる。

「部活……」

「ねえ、あたしさ、バスケ部なんだけどさ、バスケ、興味ない? よかったら見学においでよ」

「あ……う、うん」

 琴乃は、運動部には向いてないと自分でわかっていながらも、菜々の活躍が見たいと思った。


 放課後、菜々が琴乃を体育館に連れて行く。

「ここで見ててね。今日、紅白に別れての練習試合なんだ。応援しててね」

「うん」

 琴乃は素直に頷いた。


 体育館の反対側の入り口に、女の人が立っていた。随分背が高い。バスケ部の人だろうか……。でも制服を着ているところを見ると、引退したのかな。じゃあ、3年生なのか……。それにしても……


「綺麗な人……」

 琴乃は、呟いた。

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