世間
大北緑では履習社高等学校硬式野球部が夏の甲子園を優勝して、大盛り上がりだった。『甲子園優勝おめでとう! 春夏連覇!』といった横断幕や垂れ幕が駅や商店街に設置された。
大勢のキャスターが駅に集まり、凱旋した履習社高等学校硬式野球部、そして集まった人々にインタビューをしていた。その他に商店街の店主や客、履習社高等学校の生徒にもインタビューをして、それは全国放送のニュース番組で取り上げれた。
そこへまたしても独立リーグホワイトキャッツとの親善試合が企画された。
ネットでは「また佐々木達の負け試合を見るのか」とか「三軍が履習社様に勝てると思うのか?」、「恥の上塗り」、「オワコンが伸び代のある若者に勝てるわけないだろ?」と否定的な意見が占めている。
しかし、中には「今の佐々木と梅原ならイケる!」や「ワンチャンあるかも?」といった肯定的な意見もあった。
「どうなんでしょうかね?」
トレーナー室で鈴は先輩の菊池花に聞く。
「どうだろうね。成績は上がっているんでしょ?」
「はい。絶好調です」
「なら、イケるかな?」
「それはどうかな?」
会話を聞いていた二ノ宮剛が口を挟む。
「どういう意味ですか?」
鈴はむすっとした顔で尋ねる。
「履習社も春から猛練習して腕を磨いたからな。噂だと球団のスカウトマンが即戦力級が何人かいるって、言ってるらしいぞ」
「知ってる。それピッチャーの子でしょ?」
と、花が答える。
「そうそう。他にもキャッチャー、三塁、4番を務めた子もな」
「つまり二ノ宮さんはホワイトキャッツが負けると? 自分が専属ジムトレーナーを務めている球団を卑下して良いんですか?」
「別に卑下してないさ。勝つか負けるかで言うなら、どっこいどっこいということさ」
そこへ小春が出社してきた。
「おはようございます。何のお話をしていたんですか?」
「履習社とホワイトキャッツの親善試合。どっちが勝つかなって。どっちが勝つと思う?」
「私は……ホワイトキャッツですかね」
「どうしてだ?」
二ノ宮が聞く。
「自分が専属ジムトレーナーやってましたからね」
「えらい。それに比べて……」
鈴は二ノ宮に冷めた目を向ける。
「なんだよ。俺は現実的に判断してだな」
「え!? 二ノ宮さんはホワイトキャッツが負けると?」
「……可能性の話だよ」
二ノ宮は居た堪れなく視線を外す。
◯
「君は佐々木さんの……」
鈴はバッティングルーム前の廊下で少年を見つけた。
少年はかつて佐々木の息子と名乗っていた。
「慎也君だっけ」
「どうも」
「今日はどうしたの?」
「忘れ物を届けに。それだけです」
慎也は鈴に一礼して、その場を逃げるように去った。
呼び止めようとしたが言葉が見つかず鈴は開いた口をゆっくり閉じた。
「どうした?」
声をかけられ、振り向くと佐々木がいた。
「わっ、すみません。終わりましたか?」
「ああ。終わった……もしかして息子が来てたか?」
床にあるバッグに気づいて佐々木は問う。
「はい。つい先程までここに。私が声をかけたら、走り去って……すみません」
「君が謝ることはないよ。大方、私の練習が終わると気づいて去ったんだろう。反抗期なのかな? 思春期の子は難しいな」
「分かります」
「ん? 君、子供いるの? その歳で?」
「違いますよ。歳の離れた弟です。弟も真也君くらいで、反抗期なんですよ」
「そういうことね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます