再対決
「えっ!? 私が!?」
小春がすごく嫌そうな顔をして自身を指差す。
「はい。ぜひとも棗さんのピッチングを写真に撮りたいのです」
と、記者が言う。
「……百歩譲って、ピッチングを見たいだけというなら構いません。ただ……どうして対決なんですか?」
「面白い記事が出来そうだからです」
「……記事。今回は私は関係ないはずでは?」
「まあ、いいじゃない。損はないでしょ?」
先程ピッチングを披露していた遥がタオルで汗を拭いつつ言う。
それに小春は目を細めて、「だからって……」と愚痴をこぼす。
「俺も再対決したくてな」
と、佐々木が言う。
「勝ち逃げは許さんぞ」
梅原は腕を組み、ニヤつく。
記者が提案した対決というのは昨年冬の親睦会で行われた小春と佐々木達の勝負。それを記者は見てみたいと言うのだ。
今回のインタビューは佐々木達と三浦遥がメイン。そこに自分が含まれることに小春はどこか気後れしていた。
困っていたところでスタッフの1人が社長の元にやってきて報告する。
「……うん。そうか。ありがとう」
社長への報告後、スタッフは私達に一礼して去って行く。
「準備が出来たそうだよ」
と、社長が告げた。
これはもうやらないといけないのかと小春は溜め息をついた。
◯
再対決はバッティングルームで行われることになった。
まず最初は前回と同じ梅原からであった。
キャッチャーは野球経験のあるトレーナーの二ノ宮剛が務める。
小春はまずスライダーを投げる。
ボールは外角を外れる。
今まで梅原なら空振りをしていただろうが、今回はバットを振らなかった。
(選球眼がよくなってる)
嬉しい反面。悔しさもあった。
先程のスライダーは自分でもよくキレていると自負するほどのものだった。
それを見送られたのは悔しい。
2球目の配球はストレート。
ボールはポップしてストライクゾーン高めに。
それを梅原が大きくスイングする。
球は擦り、右へ飛ぶ。球場ならファールだろう。
3球目はカーブ。
大きく弧を描いて、キャッチャーミットに入る。
振って欲しいから投げたのではなく、急速に慣れて欲しくないため、あえて緩い球を投げた。
これでツーワン。
4球目は記者が見てみたいと言っていたジャイロボール。
ジャイロボール。風に左右される変化球。
今の室内だと高速スライダーだろう。
小春は球を握りしめ、キャッチャーへと投げる。
ストレートとたいして変わらない球は直前でえぐるように大きく曲がる。
それをストレートと見ていた梅原は大きく振りかぶってしまう。バットは球を掠ることなく、空を切る。
キャッチャーの二ノ宮は捕球し損なって球を後ろへと転がす。
塁にランナーがいたらワイルドピッチだっただろう。
だが、今はいない。
これでツーストライク。
小春は左拳を強く握った。
ここからはでは外の鈴達の声は聞こえないが、視界から伺える反応では鈴達が興奮しているのが分かる。
5球目はまたカーブ。
だが、そのカーブを小春は打たれた。
小春の考えでは見送るか粘られてファールになるかのどちらかだと考えていた。
それが見事に打たれた。
小気味良い音を立てて、打球は速く、かつ大きく飛んだ。
球場ならホームランだっただろう。
「まじかー」
変化球は打てないと言われたバッターはここにはいなかった。
◯
梅原の次は佐々木。
佐々木は梅原よりかなりの選球眼を持っているが、パワーが弱い。
ここは力で押し切るか、それとも変化球で打ち取るか。
女である以上、力はなく、変化球のキレもNPBのプロよりかは低い。
梅原に投げたスライダーはかなりキレが良かった。だが、またそれを投げれるかといえば難しい。
なら、ここはあれしかなかった。
ジャイロボール。
小春は球を握り、そして振った。
高速スライダーの軌道で球はキャッチャーミットへ向かう。
それを佐々木は見逃す。バットを振らなかったのだ。
(見切られている!?)
次に小春は低めのストレートを投げる。
ジャイロと同じスピード。違うのは手前で変化するかしないか。
低めで投げているため、ジャイロと見間違える可能性も高い。
そして球は──打たれた。
タイミングも芯も見事に合わせられ、球は梅原と同じように大きくアーチを描く。
小春が球を見送る前に、球はネットにぶっかり下へと落ちる。
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