シャッターチャンス

 インタビューのあと、佐々木達の練習風景を写真で撮るということで、バッティングエリアに移動。

 練習風景といっても、本当の練習ではなく、佐々木達のフルスイングの写真が欲しいという話。

 まずは佐々木がバッティングマシーンを使って、フルスイングの写真を撮られる。

 記者が問いかけ、佐々木が答える。

 そしてボールが来たらフルスイングで当てに行く。それをカメラマンが激写。

 こういうことに慣れているのか佐々木も上手く写真が撮れるようにスイングの後、ポージングをとる。

 それを少し離れたところから鈴達は見ている。

「私の話で盛り上がるのはおかしくない。貴女のインタビューでしょ?」

 小春が遥に記者に聞こえないようぼそりと言う。

「だって、あの2人に勝ったのでしょ? 面白い話じゃない」

「それあの時にいう話? しかも社長まで動画を見せるし」

「なによ。アピールチャンスじゃないの?」

「アピールって何の?」

「コーチ。あわよくば選手として復帰」

「無理」

 佐々木のバッティングが終わり、次に梅原の番となった。

「動画を見たけど、まだまだいけるじゃん。ね、貴女もそう思うよね」

 と、遥は鈴に聞く。

「えっ? ……ええ、あの2人に勝ったのはすごかったですね」

「やめてください。私なんてもう……」

 小春は目を伏せて答える。

 そこで大きな快音と記者の驚き声が響く。

 伏せた目を上げ、バッティングエリアに目を向ける。

 梅原の豪快な一発が高々とボールを打ち上げ天井奥のネットに当たる。

「あれはホームランね」

 遥が予想を告げる。

「あの佐々木と梅原よ。それに勝つなんてたいしたものじゃない」

「残念ながら、あの頃の2人は今より能力は低かったですよ」

「歳も歳だしね。でも、変わったんでしょ? トレーニングしてさ」

 佐々木達はもう現役を辞めてもおかしくない年齢。それなのに練習を積み重ねて、今も頑張れている。

「あんたもまだ頑張れる歳じゃない」

「……」

「さて、次は私の番かな」

 梅原のバッティングも終わり、次はピッチングエリアで遥の練習風景を撮ることになった。

「ほら、あんたも。まさかネットに向けて投げろなんて言わないよね?」

「ネットでも良いんじゃないですか?」

「キャッチ音が出た方が良いじゃない」

 そして遥と小春はピッチングエリアに入る。


  ◯


 遥はピッチングエリア奥でキャッチャー役の小春に向けてボールを投げる。

 ボールは見事、小春が嵌めているキャッチャーミットに上手く収まる。

 小春はボールを遥へと返し、小春はまた投球を始める。

 大きな破裂音がピッチングエリアに響く。

「ウォーミングアップなんですか?」

 記者は鈴に聞く。

「いえ。……全力で投げてます。彼女の球速は120キロ代です」

「……変化球ですか?」

「いえ、速球です。女子プロでは速い方です」

「そうなの……ですか」

 記者の反応も仕方のないこと。

 遥の球速は120キロ。

 先程、佐々木達が使用したバッティングマシーンは150キロで、それに比べる断然遅い。

「……うまいですね。きちんとキャッチャーミットに収まってますよね」

 記者は知恵を絞って発言した。

 どうやら遥の投球に驚嘆する何かは得られなかったようだ。

「こっちから見てるから遅く見えるんだろ」

 と、佐々木が言った。

 佐々木の言った意味が分からないようで、記者が「それはどういうことですか?」と聞く。

「つまり、ピッチャーよりだと速いかどうか分からないため、そう見えるのではということです。向かってくる球だと速く見えるということです」

 鈴は記者に説明する。しかし、内心ではそれでも速く見えないのではと思った。

「一旦立ち位置を逆にしてみましょう」

 鈴はピッチングエリアに入り、遥に立ち位置を逆にする旨を伝えた。

 そして手前側に防護ネットを置いた。

 立ち位置が逆になって、小春が防護ネットを背にキャッチャースタイルで腰を落とす。

 そして奥にある遥がボールを投げた。

 乾いた音が近くで大きく鳴る。

 これなら多少は速く見えるのではと鈴は記者の反応を伺う。

「確かに先程よりかは速く見えますね」

 それだけだった。

 大きく驚くようなこともなく、淡白な反応だった。


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