インタビュー
インタビューは小会議室で行われた。
大北緑ジムの社長と広報部部長、女子プロ野球選手の三浦遥、トレーナーの棗小春、ブリリアントラビッツ広報部、雑誌の記者とカメラマン、そして──元メジャーリーガーの佐々木と梅原、トレーナーの御堂鈴もいた。
どうやらインタビューは遥だけでなく、佐々木と梅原も受けるものらしい。
まず社長からのインタビューが始まり、このジムの歴史とシステム、独立リーグのホワイトキャットとの繋がり、そして佐々木達について熱く語った。まるで自分がメインであるかのように。
「……なるほどジムでは佐々木選手と梅原選手がNPBに戻れるようにと全面支援しているというわけですね」
「ええ。お二人が戻れるように努めております」
「実際にお二人は戻れるでしょうか?」
「おいおい無理だっていいたいのか?」
佐々木が横から文句を言う。
「いえ、そういうわけでは。ジム側はどうお考えなのかと」
「現実を見ろとよく言われますが、夢を見てもいいではありませんか。上を見て、能力を上げる。勿論、年齢がネックでしょうが、それでも頑張れば可能性は開くと私は考えております」
社長は熱く語った。
それに記者は感銘を受けたのか頷いている。
対して鈴と小春は心の中でタヌキジジイと毒づいている。
その後で三浦遥の番が来て、遥は質問に答える。
「来季は球団に貢献できるよう頑張ります」
そして小春は遥の隣で時折、質問に答えている。
「そうですね。今はもう順調に快復しております。今季中に戻れないのが非常に悔やます」
と、嘘をついた。
これはブリリアントラビッツ側にそう答えるようにと命じられていたのだ。
快復はしている。
だが、前と同じように投げれるかというと、それはまだまだ調整が必要。
「棗トレーナーは元同僚だそうですね。元同僚から見て、三浦選手の復帰をどう考えておりますか?」
難しい質問がきた。
少し逡巡してから小春は答える。
「そう……ですね。三浦選手はまだまだ伸び代のある選手です。復帰後、球団のために大活躍してもらいたいものです」
「そうですか。……棗選手は球団に戻る気はないのですか?」
「えっ!? いえ、私はないです! もう引退した身ですし」
「そうですか? なんでも佐々木選手達と勝負をして勝ったとか?」
「え!?」
「何それ?」
遥が面白いことを聞いたみたいな顔で小春に顔を向ける。
「いや、その、前にそういう機会があったというだけでして」
「それで勝ったんですよね?」
「ええ。運良く」
「いやいや、運じゃないよ。あれは実力だよ」
と、佐々木が会話に割って入る。
「実力ですか。それは見てみたかった」
「映像ならあるよ」
今度は社長が口を挟む。タブレット端末を操作し、あの時の動画を流す。
「これが」
「へえ」
記者と遥は映像を面白そうに見る。
「すごいじゃない」
動画を見終わって遥が感想を言う。
「運ですよ」
「そう卑下するものではないよ。君の球はかなり良かった。120キロそこらとは思えなかった。体感では140キロはあったね」
「ノビはまだ健在ね」
「最後の変化球もすごかったよ。急に曲がったからね」
「これジャイロだよね?」
「ジャイロ?」
記者が記憶をたぐるような顔をして首を傾げる。
「球の進行方向を中心に回転する球だったよな。漫画とかでよくみる」
梅原が空中に指をぐるぐると回して答えた。けど、どこか悩ましげであった。本人も漫画で見るような球が本当にあるのかと疑問なのだろう。
「有名な漫画で出てくるやつです。ただ、漫画のような球ではないんでよ」
漫画などでは球威の落ちない一直線の球とかバットを壊す重い球と表現されている。けど実際はそんな夢のある球ではない。
「俺の時は……落ちたよな?」
梅原は空中で回してた指を下へ向ける。
「はい」
「俺の時はシュートだった。俺もメジャーでジャイロを何回か見たことあるけど、かなり変な球だったと記憶にある。ワイルドピッチに近いような? 実際はどういう球なんだ?」
佐々木が小春に聞く。
「実際はただの気まぐれボールなんですよ」
小春は苦笑いして答える。
「気まぐれ?」
「はい。嘘のように聞こえますが、本当に風の気まぐれですごく変化するんです。基本は変化の少ない高速スライダー。でも、横から風吹いていると風に乗って大きく風方向に進行が変化するんです。梅原さんの時は、向かい風で下に。佐々木さんの時は、私から見て左から風が吹いていたのでシュートに変化したんです」
「それはなんとも気難しい変化球ですね」
記者が感嘆の声を漏らす。
「ええ。そのせいでかつての相方達には捕れないから投げるなと注意されてました」
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