愚痴
「あれ? 棗小春の復帰祝いじゃないのか?」
居酒屋にあとからやって来た二ノ宮剛は棗小春の姿を探しつつ鈴達に問う。
そして2人の対面に座り、店員に生ビールと焼き鳥を注文する。
「別に復帰祝いじゃないですよ」
と鈴は答え、ビールジョッキを煽る。顔はすでに赤い。もうできているようだ。
「ちなみに本人は遠慮しておくってさ」
と、菊池花が答える。
「遠慮する必要ないのにな」
生ビールが届き、二ノ宮はジョッキを傾けて生ビールを飲む。
「そうね」
一応、コロナというワードは使わずに会話を進める。
「私は、棗小春の、先輩でぇす」
鈴が顔を赤くして答える。その言葉はへなへなしている。だいぶ酔っているようだ。
「どうしたの? ちょっと飲みすぎよ。ほら、オカラ食べなさい」
菊池はオカラの載った皿を鈴の前に置く。
鈴はぼんやりと皿を見た後、箸でオカラを食べ始める。
だが、すぐに箸を置き、
「花先輩聞いてください」
どこか落ち込み気味に言う。
「はいはい、聞くわよ」
「今日、あの子、溜め息をついていたんです」
「棗が?」
「はい。それで聞いたんです。……けれど『色々』とだけで、はぐらかされたんです」
「そりゃあ……色々あるんじゃない?」
「なんですか? その色々って?」
「えっ? ええと……担当している女子プロのトレーニングとか」
「一つじゃないですか」
「でも、本人も女子プロだった手前、現役女子プロのトレーニングって、気まずくない?」
「うん。分かる」
と、二ノ宮は頷く。
「それに相手は肩を壊して治療したんでしょ? 負荷のないトレーニングを考えないといけないでしょ?」
「だよな。故障した選手ほど鍛えるのは大変だな」
「それが溜め息の原因じゃない?」
しかし、それだけではなく。小春は専属トレーナーになる予定だと聞く。
そのことを菊池達に話したいが、小春が言っていないのなら、このことは話してはいけないと鈴は口をつぐんだ。
「ん? どうしたの?」
めざとく菊池花は鈴が口を閉ざしたことに何かあると気づく。
「べ、別に。というか私に相談とかすべきではありませんか? 私は先輩です。これまで一緒にやってきた仲ですし」
「歳は向こうのほうが上だけどな」
二ノ宮が突っ込む。
「そういうのはいいです」
「今は佐々木さん達の件もあるから相談し難かったんじゃないのか?」
「でも今は好調ですし」
「そういえば好調だよね。私もテレビとかでよく見るよ」
と菊池が言う。
「はい」
「このままならトライアウトもいける?」
「それは……わかりませんね。てか、今は佐々木さん達でなくて小春のことです」
「はいはい。最近休んだことも関係あるんじゃないの?」
「……」
「ま、いつかは向こうから話してくれるよ」
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