第2回親善試合

 春夏甲子園を連覇した履習社高等学校硬式野球部と地元独立リーグ球団ホワイトキャットの第2回親善試合が前回と同じくホワイトキャット球場で執り行われる。

 天気は快晴で夏のカラッとした空。

 球場は前回と同じように満員御礼。これまた鈴達はスポンサー枠のチケットで手に入れて観戦。


  ◯


 実況アナウンス部屋では前回と同じようにアナウンサー熊虎隆と元NPBの佐竹瑛太が席に座り、実況を担当していた。

「いやあ、また高校球児と独立リーグ球団の親善試合始まりますね。こんなこと誰が予想できたのやら。不思議なことってありますね」

「そうですね。履習社高校がまさかの春夏甲子園連覇ですからね。優勝だけでもすごいのに連覇ですから今年の履習社は一味違いますね」

「なんでもプロからのスカウトマンがチェックしているとか」

「でしょうね。どの選手も素晴らしいですよね。即戦力級が揃ってますから」

 それは世辞として言っただけのこと。しかし熊虎は、

「なるほど。実質NPBの一軍ということですね。三軍は厳しいですか?」

「高校生は若く、瞬発力があっても、ホワイトキャットの彼らは経験豊富ですからね。どうなるか分かりませんよ」

 こめかみを引きつかせながら佐竹は答えた。


  ◯


 一回裏、ホワイトキャットの攻撃。一番バッターはあの佐々木。

 元メジャーリーガー。履習社高校の彼らには佐々木の全盛期を知らない球児も多いだろう。

 だが、プレイを知らなくても名前と記録は知っている。

 そして春には一度対戦もしている。

 その佐々木はここ最近、ステップ打法で好成績を出していることも彼らは知っているだろう。

 佐々木は堂々とバッターボックスに立ち、構える。その目は獲物を狙う猛禽類の如く。

 対して履習社のピッチャーは緊張で球を甘く投げてしまった。

 経験豊富な佐々木はその甘い球を決して見逃さなかった。

 バットをスイングして、球を狙い打つ。

 打たれた白球は二遊間を越えた。

 佐々木のヒットに球場は盛り上がる。


  ◯


「おおっと! いきなり先頭打者ヒット! 佐々木、一塁へ!」

 熊虎が面白そうに言う。

「さすが佐々木さんですね。初級でヒットはお見事です」

「まあ、相手は高校生ですからね。高校生から打ち取ったからといって喜んではいけませんよ」

(先程、履習社がNPB一軍クラスだと言ってたくせに)

「はたしてこのラッキーを後続は繋げられるのか?」


  ◯


 五番梅原はフライングエルボーとヒールダウン打法で球を打つも、フライに打ち取られる。しかし、今までのフライと違い、飛距離のあるフライ。快音が鳴ったとき観客は歓声を上げて、白球の行方を追っていた。

 もしワンナウト以下かつ三塁にランナーがいたら犠牲フライだっただろう。


  ◯


「いやあ、惜しい。やはりもう梅原にはパワーがないのか?」

「いえいえ、そんなことはありません。今のは逆風で押されたのでしょう」

「そうですか?」

 そして三回に梅原の二打席目が訪れる。今度は上手く当ててホームラン。場内は活気に湧いた。

「ほら、梅原さんもまだまだ捨てたもんではありませんよ」

 佐竹は上機嫌で答える。

「まぐれではないですか?」


  ◯


 試合は双方の打ち合いで進み、とうとう九回裏となった。

 点数は6-6の同点。

「前回の親善試合と同じく、最後のバッターは佐々木選手です」

 三塁のランナーが帰れば逆転。

 履習社のピッチャーはカットでは打たれると感じ、球種をシュートに変えてきた。

(ギリ入ってきたと思ったら、そこから急にギリ入らないんだから魔球だな。本当に嫌な球を投げる。スライダーもキレキレなのに、シュートもキレキレとか末恐ろしいガキだな)

 フルカウントにまでもっていかれ、履習社側の応援席ではあと一球コールが鳴る。

 佐々木は唇を舐めた。

(さあ、次はどんな球だ?)

 そのピッチャーはキャッチャーのサインを信じて強く頷く。

 そして自信満々にボールを投げる。

 それはストライクゾーンから球一つ分外れたシュートだった。左バッターの佐々木からすると右投げのシュートは外角の球であった。

 そのシュートを佐々木は打った。

 本来、外れの球は打たないのが普通。

 しかし球審によってストライクゾーンは曖昧である。さらにキャッチャーの捕球の仕方でストライク判定になることもある。

 今日はこのシュートで多くのバッターが空振りした。

 だから佐々木は打った。カットではない。ヒットのためのスイング。

 ここ最近長打のための筋トレをしてきた。

 だから己と筋トレに付き合ってくれた御堂鈴を信じてフルスイングした。

 そしてバットのヘッドに球は当たり──。

 レフト方向へ高く飛ぶ。

 長打を打てないと見込んで前身守備だったため、レフトは急いで下がる。

 そのレフトはゆっくりと立ち止まった。

 フライか?

 いや、違う。

 レフトは捕球する意志はなく、球を見上げていた。

 球はぐんぐんと飛び、レフトを越えて観客席に落ちたのだ。


  ◯


「なんと! なんと! なんと、さよならホームラン! 最後に履習社高校にトドメを刺したのあの佐々木選手!」

 熊虎が興奮のあまり絶叫する。

「劇的な終わりでしたよね。佐々木選手のホームランなんていつ以来でしょうか?」

「いやあ、驚きですよ。これはNPB復帰もおかしくないかもしれませんね」

 否定的だった熊虎をこうまで言わせるのだから佐々木のホームランは勝つだけではなく、未来に期待を与えるものだったのだろう。

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