童貞を60年守ったら、JKと結婚できた話

味噌村 幸太郎

第1話 犯罪ですか? いえ、合法です……多分。


 20年ぐらい前の話。

 僕がまだ高校生ぐらいだった時の頃。


 母方の親戚は、みんな鹿児島出身で、おじいちゃんやおばあちゃん、みんな一度は、鹿児島から出て福岡に暮らしていました。

 定年と共に、「最後は地元で死にたい」と鹿児島に戻っていきました。


 おじいちゃんには、4人ぐらい弟がいて、男兄弟。


 言い方悪くすれば、長男であるおじいちゃん以外、みんな独身でした。

 おじいちゃんは恵まれていて、奥さんもいるし、子供や孫にも愛されていました。


 ですが、他の兄弟はほとんど、シングルが多くて。

 色々な事情があって、パートナーと別れたり、余生を一人で終えそうな感じでした。


 一番末っ子に、長男であるおじいちゃんとは、年の離れた弟がいました。

 僕の母と二歳しか変わらない、親子ぐらい違う弟で、名前は『やる』おじさん。(仮名)


 やるおじさんは、母から見ると、2歳上の叔父さんという関係です。

 小さいころは、鹿児島で兄弟のように仲良く育ったそうな。


 母はその後、福岡で今の父と結婚できました。


 やるおじさんは、確か噂では、誰とも恋仲になったことがないと聞きました。

 それこそ、鹿児島に僕が遊びに行くと、優しい普通のおじさんでしたが。

 おじいちゃんや他の兄たちから、

「やるおは結婚できんって」

「うん、あいつは一生、一人やろな」

 みたいな感じで、飲み会でネタにされるほどでした。


 僕もやるおじさんを見ていて、不思議でした。

 なぜこの人は、誰とも一緒にならないんだろうと。


 お袋に聞けば、「何度かお見合いがあったが、シャイなやるおじさんが嫌がった」そうで。

 仲の良い母ですら、もう諦めていたぐらいです。

 


 ある日、僕が家に帰ってくると、お袋が誰かと電話していました。

「え? 本当に? 急にどうして?」

 話し方からして、鹿児島に住む僕の叔母、(母の妹)と感じました。


 10分ほど、話し終えると、受話器を直す母。

 なんか焦っていたように見えたので、僕が尋ねます。

「鹿児島のおばちゃん?」

「う、うん……」

 口数が少ない母に、僕は首を傾げます。

「どうしたのさ? 誰か死んじゃった?」

「いや……朗報といえば、朗報」

「んじゃ、なにさ?」

「やるおじさん、結婚するんだって」

「良かったじゃん」


 僕は言いながら、冷蔵庫からお茶を取りだし、コップに注ぎます。

 喉を潤しながら、話の続きを聞きます。


「なんで、そんな顔してんのさ? 喜ばしいことじゃない? 相手はどんな人? 同じ50代ぐらいの人?」

「それが……22歳」

「ブフッーーー!」

 

 当時、おじさんは定年前で57歳ぐらいです。

 もうすぐ還暦でした。


「ちょ、ちょっと! どうして、そんな若い子と結婚になるのさ!?」

「実は……」


 それから、しばらく僕は、やるおじさんとお相手のお嫁さんの馴れ初めを聞きました。


 出会いは約6年ほど前のこと。

 やるおじさんは、鹿児島でバスの運転手をしていました。

 元々は、都市部の方で、バリバリやっていた人ですが、定年に近い年齢だったので、ローカルバスを運転していました。

 鹿児島の中でもかなり田舎。

 バス停に、一時間に一本、来るか来ないかのド田舎。


 やるおじさんは、最後の仕事だと思って、田舎で暮らしている人の送迎に、頑張っていたそうです。

 お年寄りばかりの地区だから、荷物を持ってあげたり、一人ぐらしのおじいちゃん、おばあちゃんの世間話を聞いたり。

 とてもフレンドリーな運転手だったようで。


 その中に、一人。毎朝、顔を合わせる女性がいました。

 JK子じぇいけいこさんです。(仮名)

 彼女はこの時、まだ高校一年生。

 市内の高校まで通うには、このバスを経由しないといけません。

 だから、自ずと毎朝、毎夕と顔を合わせることになります。


 やるおじさんとしては、親子ぐらい年の離れた女の子でしたので、気軽に挨拶をします。

「おはよう、今日も学校? えらいね」

「は、はい。おはようございます……やるおさんも毎日偉いですね」

「ははは。よし、じゃあ出発しよう」


 こんなやり取りが1年間ほど続いたことで、JK子さんにある想いが芽生えました。

「好き……」


 勇気を持って、JK子さんは、やるおじさんに告白しました。

「あの、私。やるおさんが好きです! 付き合ってください!」

「いや……それはちょっと」


 おじさんは、当然、その告白を断りました。

 だって相手は、現役の女子高生でしたので。


「ありがとう。でも、その想いはきっと一時的なものだと思う。君は若いから、僕より別の素敵な若い男性と、出会えるよ」

 そう優しく諭そうとしましたが、JK子さんは、負けません。

「あの……私の気持ちはそんなんじゃありません! 一時じゃないって証明したら、やるおさんは付き合ってくれますか?」

「いや、それは……」


 それから、毎日猛アタックが続き、気がつけば、JK子さんは、セーラー服から私服に。

 18歳になっても、毎日バスに乗っては、やるおじさんにアプローチを続けます。


「やるおさん! 今日こそ、付き合ってください! もう2年経ちましたよ!」

「いや、無理だって……」


 そんなことがダラダラと続き、JK子さんは、自身の親に相談すると、猛反対。

 やるおじさんは、ご両親よりもかなり年上でしたから、当然といえば、当然の反応でしょう。


 頭にきたJK子さんは、どんな感じで行ったのかは、知りませんが、やるおじさんの自宅に突撃。


「同棲してください!」

 と迫ります。

 困惑する、やるおじさん。

「JK子ちゃん……無理だって」

「私、もう成人してますよ!」

「でもね……僕、もうそろそろ定年退職するおじいちゃんだよ。そんなのと付き合っても、すぐ死ぬだけだよ」

「やるおさんじゃないと、ダメです!」

「参ったなぁ……」


 半ば、強引に同棲みたいな感じで、おじさん曰く、一本も彼女に指を触れてないそうですが。

 勝手に、おじさんの家に住みつきだしてしまったそうで。

 結果的に同棲生活が始まり、何カ月もその生活が続いたので、お相手の両親からもクレームくるし、でも、JK子さんの意思も硬い。

 じゃあ、どうするか?


「もうわかった。僕の負けだよ。結婚しよう」

「本当ですか! うれしぃ~!」


 という流れで、結婚したそうです。


 僕は当時、まだ女性とお付き合いしたこともない独り身だったので、(童貞)

「なんかマンガみたいな話……」(エチエチな方)

 と絶句しました。


 結婚して一年後。

 一枚のハガキが届きました。


『元気な赤ちゃんが生まれました』

 

 その写真を見て、僕は驚愕しました。


『ちなみに双子です♪』


 やるおじさん、すげぇって思いました。


  了

 

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童貞を60年守ったら、JKと結婚できた話 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

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