最終話  それぞれの道

 マラ山の頂上は、灼熱の暑さだった。僕もダイチも脱げる服は、全部脱いだくらいだった。

 精霊が干上がらないかと左肩を見ると、彼は平然とした顔でいた。

 流石は水の王子だ。


「この辺りの、小さな火口に投げたら?」


 火の精霊を三匹も連れて、強気になったシベールが言った。


 ダイチは、任務遂行第一の答えぶりだ。


「でも、確実に蒸発させたいんだよ」


「一番デカい火口なんか行ったら、こっちが蒸発よ」


 シベールは、引かない。

 仕方ない。ここは僕の出番だな。


 辺りは、小さな火口も幾つかあって、シベールみたくシューシュー言っていた。


「シベール」


「なに? テオ」


「この小さな火口の下にマグマを呼ぶんだ。呼んだタイミングでダイチはからくり箱を落とす。これでどうだ?」


「そんな呪文は知らないわ」


「精霊に頼めよ、3匹も連れて、ただの見せモンか?」


 僕は半ば呆れ顔で言った。

 シベールは痛い所を疲れた時に見せる、僕の一番大好きな表情を一瞬だけ見せてくれた。

 次の瞬間にはもう、ツンデレモードのシベールだったけどね。


 僕の選んだ、小さな、蒸気の吹いてる穴に火の精霊3匹を使って、マグマの路を急ごしらえで作ってもらった。


 そうしたら、火の精霊が現れた。

 逞しい肉体を持った上半身が裸の、半透明の髭男だった。

 かなり上位と思えわれる。


<俺の領域で、暴れていたのはお前たちか!! 変わったパーティーだな。それぞれ大地、水、火の加護のある奴らに加えて、風竜までいるじゃないか。面白い組み合わせだ。望むなら契約をしてやっても良い>


 シベールは困った顔をした。


「私、さっき契約したばっかだし……」


<誰がお前とするといった。俺が契約したいのは、銀髪の男だ。お前は俺の娘三人とさっき、契約していたではないか>


 僕!?


「僕は困ります。水の王子の祝福を受けてる身なので、火の力が入っては力も半減します。すいません。でも、お願いがあります」


<そうか……それは残念だ。で、願いとはなんだ?>


「このからくり箱を消滅させてください。そのために僕たちはここまで来たのです」


 僕はからくり箱を半透明の髭男に渡すと、スゥッと箱ごと 姿が消えた。


 シベールが怒ってるだろうな……と振り返るよりも前にダイチが大変なことになってた。

 ダイチの身体がだんだんと薄くなっていくんだ。


「これって、俺が任務完了したってこと~~!?」


「ダイチ!! お金返してもらってないわよ!!」


「剣と鎖帷子売れば足りるでしょ~~ じゃあね~~ 世話になったね!! シベール!! テオさん!! チビ竜!!」


 チビ竜を最後にダイチの言葉途絶え、精霊たちよりも薄くなって消えていった。


 ダイチの持っていた剣と鎖帷子が残された。


「骨董屋でも売れなかった代物なのに!?」


「あ……でも、僕も帰れるよな。早く帰ろう」


「そうね、ギルドに報酬を受け取りに行かなければね」


 素直にシベールが同調してきた。

 気味が悪かった。(本音)


 麓の村までリッセルドが、2人なら乗せられるよと言って、乗せてくれた。


「リッセルド、ここでお別れしようお前は心臓を取り戻して自由になったんだ。自由に生きて良いんだぞ」

『おいら……』


「さよならだ」


 僕とシベールは、民家の井戸からアルテアへの水の路を帰って来た。




 エピローグ___


「ほら、こういう物はアルテアの骨董屋より、アスタナシヤの魔法グッズ屋の方が高く売れるだろ!?」


「うるさいわね!! それより今日中にアルテアに戻るわよ!! 仕事にあぶれるわ!!」


「君、借金でもあるのか?  金、金って!!」


 シベールが立ち止まった。

 確信をつくワードだったのか!?プルプル震えて、湯気どころか所々で、バチバチ聞こえるのだが……


「テオ!! あんた、燃やされたいの!?」


 僕たちはこんな風に年を重ねていくんだろうな……

 この先もずっと一緒に。



 完


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元カノに会ったら、冒険者ギルドに登録させられた件 月杜円香 @erisax

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