第29話  無敵のシベール

 マラ山を登っていくと、早速魔族たちが僕たちを見つけて襲ってきた。

 大方は、風竜のリッセルドの羽ばたきで吹き飛ばせたが、敵さんも、久しぶりの食事とばかりにしつこかった。


 流石にこんな熱帯に棲み付いてる魔族だ。

 シベールの火の魔法の効き目が弱いようだ。


 ダイチなんか何か、憑き物がついたように大地の剣を初めて抜いて、魔族退治を始めてる。


「僕たちはどうする!? シューフェイ」


 <アルゲイ族は、雨に弱いって知ってた?>


「いや……」


<君が望むなら、ここら一帯に雨雲を呼んであげるよ。その間に君たちは、火口に進めば良い>


「じゃあ、頼めるかな」


<承知>


 僕の水の精霊が、雨雲を呼んでくれて山の中腹は土砂降りになった。

 シューヘイ(水の王子)の言った通り、アルゲイ族は自慢の羽を濡らされて、地に這いつくばっていた。

 この間に僕たちは、山を登って、アルゲイ族を振り切ったのだ。

 リッセルドは、雨雲を見て、いち早く山のてっぺんまで行ってしまった。


 シベールはずぶ濡れになってしまった事よりも、自分の魔法が役に立たなかったことに腹を立てていた。


「なんで、テオばっかり!!」


「だから!! 精霊との絆だってば!! 僕たちより長く生きてる精霊の力を借りれるという事は、その知恵も借りることが出来るんだよ」

「そんなことは学び舎で嫌!! って言うほど習ったわ。」


「それを実践してない、シベールが悪いだけだろ」


 シベールは、クルリと後ろを向くと、またシューシューと身体から湯気を出していた。


「ちょっと待ってなさい!!」


 あれ?

 精霊と契約でもする気になったのかな……?

 ここは火の気配の強い地域だし。

 呪文だけに頼る魔法より、幅の広い魔法の使い方ができるようになるんだ。


「お待たせ」


 しばらくしてシベールは帰って来た。

 が、(…………!!…………)

 僕は愕然とした。


「シベール……それ!?」


 精霊の視えてないダイチには何のことか分からないようだ。


「ふふん。誰か、私の契約精霊になってって言ったら、候補が三匹もいたの。まとめて、引き取ってきたわ」


 そりゃ、僕たちは最大四つまで精霊を持つことが出来る。

 でもそれは、地、風、水、火の異なった四つの精霊だ。


 同じ種の精霊を三匹も連れた精霊使いなど見たこともない。

 まぁ、これが後に火のシベールを怒らせると、灰になるの逸話の始まりだが。

 これは別の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る