第21話  出発

 アルテア郊外の宿で、極悪人面のヴィッツ・コージュと落ち合った。

 確かに、悪人面だった。

 四角い顔の、灰色の角刈り頭。

 左右が繋がってる眉毛。

 下の方に白目が見える、灰色の瞳。

 おまけに顎割れ。


 僕の頭の中の悪人の顔そのままだな。


「中堅国家のヴィスティン王国まで、一緒に行ってもらいたい」


 腰ぎんちゃくな男が、ヴィッツの代わりに言ってきた。


「言っとくけど、これは非常に危険な仕事なの。報酬は前金で、半分もらうわ。」


 シベールが強気に出ると、奴らは馬鹿にした様に言った。


「お嬢ちゃんのくせに、生意気だな。ヴィッツ様に逆らうとどうなると思ってるんだ!?」


 シベールの一番の怒り処をついたついた腰ぎんちゃくは、洋服をマル焦げにされた。

 仕方がないので、僕が精霊に頼んで水をかけておいたけど。


 それを見ていたヴィッツは、初めて見る魔法に、ただただ驚いていた。


「馬を使って行けば、10日もかからないが」


「目立つわ。徒歩にしてもらうわ」


「俺を20日以上も歩かせるのか!!女も一緒だぞ」


「契約にないわ。その人のことは守らないわよ」


「ワシの愛しい人だ。最高金貨を、10枚上乗せしてやる」


「OK、やるわ」


 僕とダイチは後ろで肩を落としていた。

 確か、極悪人と言ってなかったか?

 そんな奴の護衛なんて嫌なのに、さらに搾り取ってやがる……。


 ああ……シベール、お前が銀の森を去ってから、今まで三年。

 何があったか聞きたいよ。


「馬を一頭だけ、用意するわ」


「では、その馬にワシとル・ルーを乗せてくれ。お前らは下僕だ」


 品のない笑い方をするヴィッツを僕らは呆れながら見ていた。


 日が高くなって、ようやくル・ルーと呼ばれた女性が来た。

 いや、よく見れば男だった。

 背は小柄で、中性的ではあるけど、骨格の作りはガッシリしている。

 肩の中程まで伸ばした癖のある薄茶色の髪と、茶色の瞳をしていた。


 今回の旅の目的は、この男の里帰りだという。

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