第16話  山田大地の話(3)

《ダイチ視点》


 初めての冒険で、俺は気分が高揚して、なかなか寝付けなかった。

 シベール、あの銀髪の美男と知り合いのようだったな。

 良いなぁ、俺なんてこの世界には一人の知り合いもいないのに……


「変な剣の振り方」


 帰る途中で、シベールに言われた言葉だ。

 でも、俺にはあれが普通だったし。

 剣を中段で構えて、振り上げようとしたら、待ったがかかったわけで、やっぱり俺貢献してるじゃん!!


 そう思ったら、さっきの金。少しは払ってもらわねば。

 ……って気になったのが運のつきだったのね。


 つるつる滑る廊下をスケートのように進み、シベールの部屋まで行って思い切りドアを開けてしまった。


「シベール!! 俺にも駄賃くれよ~~!!」


 俺の前で繰り広げられていたのは、濃厚なラブシーン!!!!


 シベールと銀髪美男が、吸い吸われのキスをしていた。

 俺は確か、純朴な17歳のはず……

 こんなに刺激の強いものを見せられて、ショックのあまり、回れ右して自分の部屋へ戻ったね。


 つるつるの廊下をボ~~ッとして歩いてたら、滑って転んでしまった。





 俺の意識の中_____


 俺を見下ろす視線を感じた。


『せっかく、頑丈な体と、装備と武器を用意してやったのに、これでは生かしきれてないではないか?』


 声がする。


 うっすらと目を開けて、声のする方へ眼をやるが姿はなかった。

 ただ、銀色の光が集まって点滅していただけだ。


「あんたが神か!? 俺を地球世界から転生させたんだろう!!」


『転移の方が正しいかもしれませんね。初めましてダイチ君。君があのまま、あの世界にいては、世界を混乱しかねかったんですよ』


「俺、何かしましたか!? 普通の高校生ですよね!?」


『普通の高校生が、国際犯罪組織の密売人の逮捕の現場に乱入しませんて』


「何それ!?」


『君は、偶然国際犯罪組織の密売人の逮捕の場所に偶然、居合わせてしまったのです。そして君は、持ち前の勇敢さで、密売人たちの中に飛び込んで行きました。

 密売人の一人が、大変危険な薬を持っていました。

 数滴で街が死滅するというウィルスです。

 君は命を賭して、その密売人を成敗し、ウィルスは無事だったのですが、ここで残念なお知らせがあります』


「何ですか!?」


 俺はおそる、おそる聞いてみた。


『密売人たちが持っていた、危険なウィルスの入ったアタッシュケースが、誤ってこの世界に入り込んだようです。

 ここで、あなたの異世界転移となったのです。一刻も早く、ウィルスの入ったアタッシュケースを探して、南方にある活火山のマラ山に捨てて下さい』

「え~~!? それ、ターミネーター2のラストか、指輪物語のラストみたいな~~? それより、俺の記憶を返せ~~ 字を読めるようにしろ~~」


『必要などないと判断したからですけどね』


 小さな舌打ちが聞こえてきた。


『まぁ、良いでしょう。この世界で生きていくのに最小限の知識はあげましょう』


「スキルも欲しいぞ」


『大地の加護を付けてあります。十分です。任務が完了すれば帰れますよ』


 俺の意識は、また深い眠りの中へ入って行った。

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