第5話  シベール・ロペスの憂鬱

「何!? まだ何か文句があるの!? もう、登録が出来たんなら、さっさと宿屋に行けば良いでしょう!!」


「俺は20歳じゃないし、あんたが18歳なんて言うのも嘘だろ!!」


 俺はシベールに食ってかかった。

 納得がいかない!! 20歳なんて成人じゃんか!! 飲酒も煙草もOKのはずなのに、俺にはそんなことをした記憶はないぞ。


「記憶喪失なんだから、見た目を適当に書いたのよ。それに私が18歳って言うのは本当のことよ。この世界では、稀にいるのよ。魔法使いで成長が遅いの」


 俺って、見た目が20歳なのかい……

 喜んで良いのか、悲しんでいいのか分からなかった。

 シベールは自分の事だけは、納得のできる説明をした。

 そして、その場を立ち去ろうとしている彼女の腕をガシッとしっかり掴んだ俺だった。


「何か!?」


「俺は無一文で、字も読めないんだ。これからどうすれば良いんだ!?」


 シベールの腕を掴んでいたが、なんか熱いぞ?

 彼女を見ると、あらら、湯気が立っていた。

 良く分からんが、俺のいた世界ではいないよな~~ 本当に湯気が立つ人なんて!!


「あの~~ 怒ってる~~?」


「当たり前でしょ。ここは初めての場所だから、早めに宿屋に入りたかったのに邪魔されて!!」


 受付の所でジタバタしていたので、シベールの後の人も進んでいない。


「あの~~ シベール・ロペスさん」


 シベールは受付のお姉さんに呼ばれた。


「はい」


 俺の手を振りほどいて嬉しそうに微笑むシベール。


「ダイチさん、とても困ってるみたいだわ。冒険者としてもビギナーみたいだし、

 あなたが世話係になって、面倒を見て欲しいわ」


 ニッコリ笑って受付のお姉さんはシベールにそう言った。


「はぁ!?」


「報酬に二割の手当てを付けるわ。どう?」


 シベールはしばし迷った。

 少し面倒だが、報酬の二割アップは美味しい所だ。


「分かったわ。引き受けましょう。でも三割アップよ!!」


 シベールの奴、大きく出たなぁ……


「あらあら、大きく出たわね。でしたら、あなたがダイチさんを立派な冒険者に育てるという事で……こちらの皮紙にサインをお願いします」


 シベール・ロペスは盛大な溜息をついて、自分の名を署名した。


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