100日後に長編を書く男の三題噺

@YnaraP

第1話 嵐 コメディアン 布

 10年に一度の大嵐が到来した日、とあるテーマパークの控え室に、1人のコメディアンが座っていた。

この男は今日、このステージ上でギャグを披露する予定になっていた。この男にとって実に1ヶ月ぶりのコメディアンとしての仕事である。しかし外は生憎の大嵐、雷の爆音が控え室にまで聞こえてきている。

 しかし、そのコメディアンの顔は落胆の色など全くなくむしろ、希望に満ち触れた表情をしていた。その男はステージ上の機材が雨に濡れないように被せていた大きな布を大事そうに抱えている。

「今日から俺は一躍大スターの仲間入りだ。」

 その男はそう言うと陽気な足取りで控室を出てスタッフの元へ向かう。そして大事そうに抱えていた布を使って渾身のギャグを披露した。先程まで暗い雰囲気に包まれていたスタッフルームに爆笑の渦が巻き起こる。スタッフたちの笑い声を背に受けながら彼は確信にも似た確かな手応えを感じる。

 やがて時が立ちついに本番の時がきた。勇み足でステージへ向かう男の頭の中は明日からのことで一杯だった。

 希望に満ち溢れた男は雨で前がよく見えない中ステージに立ち、真っ暗な観客席に向かって渾身の布ギャグを披露した。 

 しかしいくら経っても笑い声は聞こえない。彼の渾身のギャグは無人の観客席に向かって虚しく響き渡った。

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