第27話 また知り合い?

「凄いですね」

「ああ」

 愛海の素直な感想に、晴人も大きく頷いた。

「このように、今の例題はわざと難しいコンビニスイーツをチョイスしましたが、相手と会話をしながら一つの絵を描き出していくことができるのです。これにより、従来のコミュニケーションロボットよりも、相手と会話し楽しむという要素が大きくなります」

 そこでまた会場から拍手とカメラのフラッシュの嵐が起こる。それが落ち着くと会場全体のライトが灯された。

「それでは皆さん、ここからはお食事を楽しみながらTAROを試していただければと思います。何を食べたのか、TAROに描いてもらいましょう」

「ははあ。それで立食形式のパーティーになっているんですか」

 仰々しいお披露目会が開かれた理由がようやく解り、愛海はなるほどねえと納得してしまう。

 要するにロボットを試してもらうところまでがセットになっているのだ。そうすれば一気にその凄さを理解してもらえるし、開発者側はどういう質問をするのかというデータを得ることが出来る。

「なお、こういう腕章を付けた関係者が会場内の各所にいますので、ご質問がありましたら、そちらまでお願いします」

 白石がそう言って緑色の関係者と書かれた腕章を身に着けて見せる。それに合わせて、会場の中にいた何人かが腕章を装着した。

「おや。緒方を見ていた奴も腕章を着けたな」

 そこで松島は関係者かよとぼやき、舌打ちをするのが聞こえた。チェック漏れじゃないかと慌てているようだ。

「腹が減ったな。俺たちも食うか」

 そんな松島が慌てるのなんて関係ないと、晴人はすでに多くの人が皿を持って集まっているテーブルを指さした。

「料理は総て警察のチェックが入っていますから、食べても問題ありませんよ。私も食べたいですし」

 松島には悪いが、同じく空腹だった愛海はそれに同意する。ああ、あのローストビーフ、とっても美味しそうだ。ごくっと唾を飲み込み、二人揃っていそいそと料理の列に並ぶ。

 しかし、そこに問題の晴人を見ていた男が近づいてきて

「警戒しろ」

 と今度は小川から注意が入る。愛海はローストビーフ間近で、男の方へと気を配ることになってしまった。

「どうかしましたか」

 愛海は晴人に近付こうとした男に向け、そう声を掛けた。晴人はしっかりローストビーフを確保してから振り向く。

「ああ、ええっと、あなたのお連れさん、知り合いじゃないかなって思って」

「えっ」

 本日二度目となる、晴人を知っているという人の登場だ。

「宗像さんじゃなかったかな」

 しかも、同じく宗像出雲の名前を知っている。これは一体どういうことだ。

「ああ、先ほど白石さんにも言われましたけど、俺、そんなに宗像って人に似てるんですか」

 でもって、当人である晴人は驚いた顔でそう声を掛けてきた男に向けて言った。男はびっくりした顔をして

「えっ、違う、んですか。声までそっくりですけど」

 と半信半疑だった。どうやらしっかり宗像出雲を記憶しているらしい。これは難しい相手のようだ。

「そいつの名前と詳細が解った。住田樹すみだたつき、二十八歳。最悪なことに、宗像と同じ大学の出身だ。しかも今は人工知能の研究者をしているが、元は理学部にいたらしい」

 さらに松島からそんな情報が入って、愛海はばれるんじゃないかとひやひやしてしまう。

「違いますよ。ああ、菊池君、お皿持って」

 しかし、晴人は堂々としたもので、料理の載った皿を愛海に押し付けると名刺を取り出した。

「緒方晴人といいます」

「お、緒方さんでしたか。いやあ、すみません。SQNEのあの研究所で研究を」

「はい。今年のプロジェクト採用で通りましてね。量子コンピュータをメインにやっています」

 にこっと微笑んで言う晴人の顔で、相手は別人だと信じたらしい。

「いやあ、そうでしたか。とても優秀なんですね。申し遅れました、私、白石と共同研究をしています住田です」

「ご丁寧に」

 相手の名刺を受け取り、晴人は再びにこっと笑う。すると、それまで戸惑っていた住田も笑った。

「いや、勘違いして申し訳ない。もし宗像だったら、こんなに愛想よく対応してくれないかと、そんなところで確信してしまって申し訳ないんですが」

 そして、しどろもどろにそう言い訳する。なるほど、宗像出雲という男は不愛想だったのか。だから晴人はその逆の振る舞いをして、すぐに名刺を渡すことで疑いを逸らしているのだ。

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