第24話 パーティー会場へ

「まあ、うだうだ考えても仕方がないさ」

 丁度良くやって来たエレベーターに乗り込み、晴人はもう面倒な質問は止めろと言ってくる。

 それに対し、自分が多くの部分で情報を出し惜しみするからだろう。面倒とは何だと思ったが、晴人が宗像出雲と同一人物だと知られるわけにはいかないため、愛海も黙るしかない。

「いつの間にか人が多いですね」

「ああ。宿泊しない参加者や、広報関係の人もいるからだろうな」

「なるほど。そう言えば宿泊するのは、翌日に行われる勉強会に参加する人たちだけですもんね。日帰りだったりこの近くのホテルに泊まる人もいるんでした。いきなり人数が増えるわけだ」

 パーティーだけに参加する人が多かったんだと愛海は頷く。初日のこのお披露目パーティーに呼ばれているのはざっと百五十人だ。それに警備のために警察官もホテルの従業員として紛れ込んでいる。ホテルのロビーが混雑しているように感じるのも当然だった。

「でも」

 それは同時に、小野田もここに紛れ込んでいる可能性があるということではないか。警察のように広報やホテルの従業員として紛れ込んでいたら、それはパーティー参加者の一覧に含まれないはずだ。

「気を抜かないようにしないと」

 右耳に装着したイヤホンを一度確認し、はぐれないように気を付けながら、晴人と愛海は大広間へと足を踏み入れた。大広間にもすでに多くの人が集まり、あちこちで歓談していた。

 パーティーでは立食形式で食事も提供されるため、広間の中央には料理を並べたテーブルがある。その食事はさすが高級ホテルとあって、どれも美味しそうだ。

「食べるのに夢中になるなよ」

「解ってますよ」

 料理をじっと見ていることに気づいた晴人がからかってくるが、そこは適当にあしらう。今はまず、先にもらった大広間の配置図と現在の配置が合っているかの確認だ。変更点があったのならば警備も変更されている部分があるはずで、パーティー前に頭に入れ直す必要がある。

「それにしても」

 まるで政治家の資金集めパーティーみたいだなと思ってしまう。正面にはスピーチ用の壇が設けられ、そこには天井から

『SQNE・東都大学産学連携プロジェクト完成披露』

 と、でかでかと記された看板が下げられている。それが余計に政治家のパーティーのようだという印象を強めている。

「おや、宗像君じゃないか」

 と、そこにドキッとする呼びかけが聞こえてきた。まさか小野田が正面から堂々と現れたのかと懸念したが、声を掛けてきたのは晴人と同い年か少し上くらいの男性だった。二十代半ばだと推測されている小野田とは合致しない。

「そいつは問題ない」

 すぐに無線でそう松島が言うのでほっとしたが、でも、どうしてこの男性は宗像かと声を掛けてきたのか。

「人違いですよ。私はこういうものです」

 そんな男性相手に、晴人はあくまで冷静にそう対応し、警察が予め用意しておいた名刺を男性に渡す。

 そこにはSQNEが持つ研究所の名前が記されており、晴人はそこの研究員ということになっていた。このプロジェクトには関わっていないものの、そこの職員ならば出入りしていても不自然ではない、ということから選ばれている。

「緒方晴人、さん。いやあ、これはすみません。大学時代の知り合いにそっくりだったものですから。ああ、そいつは理学部だったんですけどね。いやあ、しかし本当にそっくりだ。世の中似たような顔の人間が三人いるなんて言いますが、これほどの美形も例外じゃないなんて驚きました」

 男性は名刺を受け取ってははっと笑った後、自分の名刺を晴人に渡した。そこには東都大学工学研究科教授という肩書と、白石彰博しらいしあきひろと名前が記されている。

「おや、このプロジェクトのメインリーダーである白石先生でしたか。予想外の場面でのご挨拶となりましたが、本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 晴人は本当は知り合いだろうに、名刺を確認してからしれっとそう言った。その面の皮の厚さに愛海は呆れ果てるしかない。

 それにしても、工学研究科か。この間事件があった大学と同じ名前の科が東都大学にもあったのか。これは偶然なのか小野田が仕組んだことなのか。この白石にしても、宗像出雲を知っているようだが、まさかそこも見込んでのことなのか。色々と勘ぐってしまう。

「緒方さんはどういう研究をなさっているんですか」

「私は量子コンピュータの開発に取り組んでいます。ですから、人工知能の著しい発達にも非常に興味がありまして」

 研究内容を聞かれて、晴人は再びしれっとした顔で嘘を吐く。

 実際の専門は量子力学で、WIOでは量子暗号に取り組んでいた男は、いつから量子コンピュータをやっていたというのか。どれにも量子が付いているとはいえ、適当なものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る