第20話 招待状
「ってことは宗像の、ええっと、緒方さんの部下だったってことですか」
「まあな。そして小野田ならば、俺が裏切ったことを今でも信じられない奴だろうね」
晴人は肩を竦めると、ともかく困った奴なのだという。だからこそ、今回の事件とWIOを繋ぐキーパーソンとして思い浮かんだのだ。
「つまり、殺人を犯してでも宗像出雲を引きずり出したいと思うのは、そいつしかいないというわけか」
小川の確認に晴人は大きく頷いた。
「ええ。事件にWIOが関与しているかもしれない。その程度だったら、俺もあの男が動いているとは思っていませんでした。いくら宗像出雲を絶対視していたとはいえ、すでに裏切って二年が経過しています。居場所が解らないからといって、二年間待つ必要はないですからね。すぐに行動をしなかったのだから、もう諦めたものだと考えていました。ですから、別に隠していたわけではないんです」
晴人はそう言って、大きく溜め息を吐いた。
WIOにすれば三百億の損害を与えた男だ。もし何らかの方法で制裁を加えたいと考えていたのならば、これほど期間が開くとは思えない。
「なるほど。確かに絶対視していたのならば、裏切り行為は許しがたいことだ。それを理由にお前を殺そうとする、というのは理解できる話だな」
松島は眼を鋭くしたままだが頷く。
発言として無駄がないと感じたのだろう。ついでに、守ってもらうことを念頭に司法取引に応じたわけではない晴人からすれば、自分の命が狙われる可能性すら、WIO解体に繋がるはずだと思っていたことだろう。
「ええ。事件の被害者がWIOに人工知能を売り込んでいないとの可能性が浮上し、考えを改めたわけです。誰かが総てを仕組んでいる可能性が十分に高くなった。となれば、そんなことを考えるのは誰か、という帰納法的思考から出てきた答えですよ」
どうして今頃になって動いたのか。最も戸惑っているのは晴人だった。WIO壊滅に向け、サイバー犯罪対策課に協力して妨害工作をしたことは数知れないほどだ。
つまり、最初の三百億以上の損害を与えていることになる。しかし、それは警察のやっていることだと理解しているはずで、そこから晴人が警察についていることも推測できただろう。事件を起こす必要なんて全くない。
「実は、吉田の部屋にこんなものが残されていた」
ここまで証言が取れれば、晴人が警察を裏切ろうとしていないことは確実だ。小川は松島にアレを出すよう促した。松島はまだ納得できない部分があるようだったが、机の下に隠していた封筒を晴人に渡す。
「いったい何ですか?」
それは真っ白な封筒だった。言うならば結婚式の招待状が入っていそうな封筒である。晴人はすぐ手に取ることはなく、何なんだと顔を顰める。
「中にはお前宛の招待状が入っていた。二週間後の十月三日、S県のリゾート地にあるホテルで行われる発表会のな」
「発表会。それは一体何ですか?」
「確認を取ったところ、大手電機メーカーが新たに開発した人工知能搭載のロボットに関してだった。そこに、宗像出雲を招待するという内容だ」
松島の説明に、晴人はやっと封筒に手を触れた。そして慎重な手つきで中身を取り出す。すでに警察が改めた後とはいえ、何だか緊張してしまった。
出てきたのは確かに招待状だ。そこに記された名前は宗像出雲になっている。その名前を見るのは二年振りで、晴人は不思議な気分になってしまった。それだけ、今の名前で生きると強く思っているということか。
じっと招待状を見つめる晴人に、松島も気持ちの切り替えが出来たようだ。
「先方には宗像の代理として、緒方晴人が行くことを伝えた」
「えっ」
その言葉に、驚いたのは晴人ではなく愛海だった。代理としてとはいえ、本人に潜入させるとはどういうことか。
「相手が本気で打って出てきたんだ。ここで下手な小細工をして緒方を出さなければ、何をしでかすか解らん。それは今回の殺人事件でも解っていることだ。被疑者である吉田は、彼氏である小野田のために殺人を行ったと供述している。絶対にばれることはない、ばれても小野田が考えたものだから、吉田は大きな罪には問われないと説得されたと言っている。つまり、個人的な恨みですらなかったんだ」
「なっ」
吉田の取り調べには関わっていなかった愛海は、そんなことを言っているのかと驚いてしまった。
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