夕焼け小焼け

ぼうっと。

柚子葉の耳には届かない。

彼女の三半規管は火照るような

日曜日の追憶が満たされているから。

ぼうっと。

柚子葉の瞳はうつらない。

彼女の水晶体は惑うような

朝方の蜃気楼で覆われているから。


「…そうかい。」


、、、、、、、。


パチン。


「ーーー、ん?なんか言った?」


ふと見れば右手をソラに掲げている。


「いいんだ。その方がねぇちゃんらしいとは

ボクもそう思うから。」


歩み寄って来る少年。

近づいて近づいて近づいて。

直線上で同位相。

2人が交差する刹那。


「御使いは済んだ。

元気でね、ねぇちゃん」


直感。


「…待って。」

「ーーー、何?」


視界の外に逃げられてしまって。

気まぐれ依存で帰ってくる返答を頼りに。

見知らぬ少年との会話をケイゾク、オンライン。


「名乗って。

そんで、無責任に他人の幸せを祈るんなら。

絶対に、もいっぺん会いにきて。

キミの眼でその是非を確かめて。」


情けなく振り返ったら

そのまま逃げられてしまう気がして。

だから視線で追いかけない。

平衡。均衡のとれた0地点こそ望ましい。


「参ったな…ボクの階梯じゃあ

大それた銘なんてないってのに。」

「…じゃあ、次会う迄の宿題ね。」


フッ。

軽く微笑んだ息遣い。

でも分かる。

ーーー、もう届かない。

出会うはずのない二人。

その足元はとうにねじれの位置。


「遅ればせながら自己紹介を。

ボクはソラよりの使者。

キミらで言うところの堕天使ってところさ。

神愛のみなしご、

キミたち人類に、導きのあらんことを。」


顔面突っ伏してそのまんま

こめかみ駆け抜けて行くからっ風。


ブランコ立ち上がってゆっくりと振り返る。

集合団地はずれの小さな公園。

ゴルフバックとゴム風船。

くれなずむピンナップの切り抜きに

女子中学生がひとりっきり。



ヒビ補修のコンクリートに夕焼け小焼け。


嗚呼、そうか。


「…帰らなきゃ、だよな。」

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