idling

コンクリートに打ち付けられる排出。

ハネル水玉。

ユルみ切ってタガが外れた

タツノオトシゴ。


「………ふぅ」


殺菌も消毒もナシ。

勝手極まる維持管理費の無駄遣い。


御手洗い

御手洗い

御手洗い


ふと動きを止めてソレを見つめる。

ニンゲン様を霊長たらしめる希代の発明品。


仰向けたり翻したり

組んだり離したり

閉じたり開いたり


勢い含んでホワイト添加した流れの中で


「そりゃあ、」


寒さの未だ健在な季節の昼下がり

ちょっぴり辛辣な冷たさにあてがいながら


「汚れたりは、しないだろうけどさ。」


体裁だけでも綺麗になった両手を

眺めて呟いてみる。


……………………


ピシャん。


止めどなく供給される上水をたたえたまんま。


空を掬った両のひらを

重力で緩んだ表情筋に打ち付けた。



「おねぇちゃん……?」


はっと振り返る。

見れば小さな子。

ぱっと見、小学校にも入ってなさそう。


「あ~、どうしたのボクたち?」


ん。と手を突き出す。

あるのはカラフルな弾力のある生地。

ーー、どうしたのってのは

彼のセリフだったみたいだ。


「あ~ね、どうぞどうぞ!

アタシもう済んだから!」


つかえるよぉ~


わらわらと遠くから眺めていた

子供らが3人ほど。

さっきまで殺風景だった水道周りが

途端に歓声にあふれる。


この残冬の3月に水風船かぁ…

子供は風の子、とはいうけれど。

まだあるんだ?そんな昔遊び。

流石のアタシもちょっと距離を置いて

苦笑いこぼしながら感心してる。


「スゴいですよね、ホント。」


横から入ってきた可愛げなパッチワークの

エプロンを着こなした女性。


「あっ、ごめんなさい邪魔しちゃって…」


ここいらで失礼しようかしら、ーーー


「いえいえ!此方こそごめんなさい。

この公園、団地付きの公園で

広いには広いんですが、その分目が

隅々には行き届かないこともあって…」

「…今日日、なんかあったんですか?」


よくぞ聞いてくれました!と

うれしそうに両手を合わせる彼女。


「そうなんです。近隣の保育園幼稚園主導で

フリーマーケット!やってるんですよ。」


待機児童とかナントカあるでしょう?と

フワッとしたニュアンスでにこやかに語る。


「ーー、んで!厳密には幼稚園は

教育機関なんですが、

皆んな近所の子ぉなんだから

年齢とか所属とかまどろっこしいでしょう?

いっそ、フリマで交流会しようなんて

はじめたんですぅ~!」


……へぇ、気づかなかった。

ホントに手ぇ洗いに来ただけだから

アタシがいるのは集合住宅の入り口未満だけど

イベントスペースはもっと中に

位置しているのだ。


「売るのも買うのも眺めるだけもOK!

今日だけなので気が向いたら

行ってみてください!」


…帰らなきゃ

なんだけど…


子供たちが群がりはじめた

ゴルフバックを回収して。

立ち去るアタシのつま先は、

常緑樹の茂る方を向いていた。

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