おつかい帰り。
少女は歩く。
歩く。
歩く。
「ええと、あと何が必要かなぁ。」
浮ついた頭で考えを巡らす。
背中にゴルフバック。
初めて買ったんだよなあこれ。
思いの外使い勝手がいい。
通学ん時テキトーに放り込んでみたりして。
ゴルフってとても裕福なスポーツ。
だってアタシにはその面白さがわかんない。
皆んなに平等に与えられる土日。
まあソレを会社に返上する
馬鹿正直な人もいるけど。
ショッピングやカラオケ、ボウリング。
やっぱり折角の休日はこう使った方が
楽しいにきまってる。
でもつい魔が差して
二度寝キメ込んだ様な午後2時は
もう出掛ける猶予が残っていなかったり。
そんな時リモコンで
ぽちぽちチャンネル回してると
決まってやってんのがゴルフなんだ。
下らないドラマの再放送か、通販番組ばっか、
どれ見ても…てか見ないんだけど
この時間の過ごし方がヘタだから
物寂しくてゴルフ中継つけっぱにしてる。
わぁとかその手の感嘆詞、
ショットを賞賛する拍手とかが
ちょっと翳ったリビングに響いて
へぇさっきの凄いんだぁ。
いまので日本の選手決勝確定?だなんて
わかんないなりに満喫させてもらってます。
でもやっぱり待機時間長いなぁって。
スーパープレイなら
もっと歓声あげたらいいのにって。
私ならきっとつまんなくなっちゃう。
ゴルフやってる時間で普段のルーティン
全部回れるかもなんて
頭の片隅で思ってるんだ。
だからきっとアレは余裕を楽しめるスポーツ。
勿体ない、7日のうちのふたつきりだなんて
忙しい平日以上に時計の針を意識した
過ごし方をしてしまう一般市民には
ドダイ難しい世界なんだろう。
父はとびきりのシゴトニンゲンだ。
普段は12時回ってから帰ってくるし
土曜日は当然のように休日出勤。
唯一残った日曜日だって
家にいない事はザラだった。
一度家族揃って日曜を過ごしていたとき
父さんもゴルフやるの?と聞いた事がある。
体育でソフトボールをやっても
ボテボテの内野ゴロしか打てないアタシ。
多分一生かかっても無理なんだけど
父さんなら案外良い線行ってたりして…
はは、困ったなぁ。
なんて曖昧な反応を返す父。
そんな私の脳みそのシワに引っかかった
些細な疑問に答えたのは母さんだった。
「無理よぉ
お父さんたらね。休日返上して接待ゴルフ
何回か呼ばれたのに、あんまりヘタだから
とうとう呼ばれなくなっちゃったのよ!」
今日だって日程おさえられてたのに
代わりの社員の都合がついてお役御免に
なってこうして此処にいるんだもの。と
お昼のナポリタンの皿を洗いながら
背中を向けたまま心底面白そうに話す母。
「そういうことなんだ。
張り切って一式揃えたのに参ったよ。
いっそ今度売っぱらおうてね。
殆ど新品だから半分ぐらいは
手元に残るだろうさ。」
歩く。
歩く。
歩く。
平日、全くの真昼間。
ばあちゃんじいちゃんが視界に数人映るだけ。
葉のない街路樹が両脇に居直った車道をゆく。
純度100%の綺麗な青空。
スキップぐらいしてやるべきだろう。
こんな晴れやかな天気なのに
校舎で黒板と睨めっこなんて
ホントにもったいない。
本っ当…アホみたいにクソ快晴。
きっと何にも悩みゴトなんてひとつもない。
日々が充実してるんじゃなくて
鈍感なだけだろ。ソレって。
人間様以上に今日を謳歌する
一面の蒼に嫌気が差して
足元に目を逸らしたとき
道路のど真ん中に、ネコを見つけた。
ネコと目があった。
あのキレるような瞳孔と。
だけど…
「死んじゃってる…」
胴にタイヤ痕。
腹が赤い綿があふれている。
顔だけ。
顔だけが静止した時のなかで穏やかさを
讃えている。
車が反対車線に跨いで避ける。
馬鹿な子。
何も、何もこんな片田舎、
わざわざ車が走ってくるタイミングで
渡らなくたってよかったじゃない。
………
………
………
引きずる。
前脚2本を掴んで。
胴を触る気にはなれなかった。
毛皮に隠れてどこまでが胴でどこからが
内臓かわからなかったから。
ちょっとこぼれちゃった。
車道を挟んだ向こう側から
おばあちゃんの視線を感じる。
異様なものを見るような色のついたソレ。
少し、ムッとする。
どうせ片付けるんだから
私がやったっていいじゃない。
…ガンつけてやろうかな。
「こんにちは!」
ギョっとして小走りで去っていった。
ええと…このあとどうすればいいんだ?
「おっけーでゅーでゅるー?」
反応しろよ。
しかたなくフリック入力。
ヒット。
一応ライフハックの一部なんだろうか。
コピペで構成され情報が希釈した
やたらページ数の多いまとめサイトを開く。
「へぇ9110かあ」
3回ダイヤルコール。
「はい、こちら道路緊急ダイヤルです。
如何なさいましたか?」
「ここでいいのかなぁ、道に猫の死体が……」
「…かしこまりました。そちらの現在地を
教えていただいてもよろしいでしょうか。」
「ここは…」
「ご協力ありがとうございます。
都道府県管轄の一般道ですので
只今当該市局の職員が伺います。
少々お待ちください。」
「えっ…あっ、そのアタシは、」
「如何なさいましたか?」
「いやぁ、なんでもないでーす。
お願いしまぁす!」
ブチ切り。
名前聞かれなかっただけマシか。
近隣住民でもないのに立ち会う義理はない。
第一ただでさえ奇妙な立会人だ。
今公務員にバックの中身を
問い詰められるのは不味い。
「ゴメンね、アタシに出来るのはここまで。」
近くで咲いてる花を集める。
紫のちっちゃな慎ましい開花。
此れは知ってる。オオイヌノフグリ。
幼稚園の頃たくさん拾ってきて
これでお花屋さんやるんだぁなんて
笑顔でルンルン土埃の幼年期。
学級に持ってきたら雑草って言われて
先生に捨てられちゃった、心寂しい思い出。
どうだろう。
障害物を傍によけたといえば事務的だが
一つの命の弔いとしては上等かな。
…でも、通報しちゃったんだった。
30分をしない内にゴム手袋で摘まれて
ビニール袋に捨てられてしまう哀れな猫。
改めて見れば、首輪が付いてる。
ミケって印字されたネームプレート。
手を合わせて申し訳程度の供養。
その場を立ち去る。
「やれば出来たじゃん、アタシ。」
近くにお手洗い、あったっけなぁ…
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