現代淑女のエスケープ

乙太郎

prolouge どっかの誰かの気まぐれです。

。~


「はぁ?」


明らかに反感のこもった声。

厳かな雰囲気、後光に満ちた円卓の中で、

モロに溶け込み切れない

粗暴な態度の男が一人。


~えぇ。最近は誠意を感じませんし。~

~自然を我が手中に収めたなどと…

 いかにもらしい野蛮な傲慢さだな。~

~奴らは恩恵の限りを知っておきながら

 それを次代のために節約すること

 さえままならない。~


「お、おいおい…だから?

だからアンタらは、

アイツらを見放すってことか?」


~我らの決定に、変更はない。~


「まだ生きてるだろ?

後先短いんだからよ…

何も今じゃなくたって…」


~キサマ程度がわれらが父の裁量に

 口をだすというのか!~

~オマエたちは小間使いらしく

 我々の指示に従っておればいいのだ!~

~また下界に出入りしているそうだな。

 上に立つものとして自覚が足りぬのでは…~


片肘ついて頬杖。

はぁ…みっともない。

要はえらく調子こいてるから

後悔して泣きついてくるまで

痛い目見せてやろうってことじゃあねぇか。


「いつから上は老害どもの

集会場になっちまったんだ…」


~では皆のもの、承認の儀を。~

~承認しよう。~

~承認します。~

~いいだろう。承認。~

~承認する。~

~承認しましょう。~

~承認。~

~承認。当然である。~

~承認だな。~

~我が名の下に承認する。~

~承認しますわ。~

~承認一択だろう。~


「………。」


注目。無論それは非難のためである。


~いやいや、無理もないルシフェル殿!~


数刻の静寂を破ったのはおどけた揶揄だった。


~この討議会は本来我々のみに

 決定権があるものだ。

 しかしながら!数多の天使を

 束ねる貴殿だからこそ

 こうして?特例で!

 発言の機会を与えているのだよ。

 あまりの名誉に萎縮する

 気持ちも分かるが 我々は寛容だ。

 そら、そう怯えずに…承認の意思表明を!~


笑い声で沸く会場。


「そうかい…」


立ち上がる。

コツコツコツ。


~お、おい!オマエ、不敬だぞ!~


足を止めたのはもっとも荘厳な椅子の横。

この議会の長たる最上位階梯者の隣である。


「じゃあ、コイツは要らねぇよな?」


円卓に身を乗り出して、


類稀なる装飾品に満ちたこの空間でも

一際存在感を放つ華美な鋭利物。

指先から手首ほどのヤイバが

その意匠に宿った神性を反射して輝く。

柄には、修道服の女のスタチュー。


男の眼前に突き刺さったナイフを引き抜く。


「ん~?なるほど。

手に取るとこういう形なワケ?

確かによくできてるわぁな。」


~そ、ソレは…

 オマエが触ってよいものではない!~

~キサマ、とことん我々を愚弄する気か!~


突然の狼藉に怒声が次々に上がる。

しかしながら、


「…これでも席を立つヤツはいねぇのか。」


~皆のもの、静まれ。~


大理石の柱で囲われた円卓。

壁画を反射していた鋭い怒鳴り声が

鳴りを潜め、静寂によって

討議室の構成因子である厳格さが再臨する。


そうだよなぁ?

本来この場所、この位相は

こんなあじゃらが行き交っていい様な

領域なんかじゃあない。

どうにかしなくちゃあいけないなんてコト、

ホントはアンタが1番分かってるんだろう?



~それを手に取ってどうするつもりだ。

 天使長、いや宮廷道化師ジェスターよ。~


「あるべき所に戻すだけだ。

まあ、今となっちゃあコレも

混じり過ぎちまったがな。

そもそもがアイツらからの贈り物だろう?」


~ぼかすでない。貴様の意を唱えよ。~


っ…ジジイてめぇ…

背骨に氷柱でできた千枚通しを

ブチ込まれたような悪寒。

そうかよ…オレにアレをやれってんだな…!


「あぁ…ボケ老人にしちゃあ

察しがいいじゃねえか。

そうだよ。テメェらの時代は終わり!

オ!ワ!コ!ン!なんだよ、チキショウが!」


「フッ」


ズガアァァアン!


大閃光。

取り巻きが怯えた悲鳴を上げて身を縮める。

その衝撃、形容しがたく。

その強勢、計測あたわず。


飄々としたシルエットは

膝をついて頭を垂れたまま

黒く焼け焦げており、

あまりの衝撃に

大理石のシルクにも亀裂が入る。

御使いの中でも最も美しいと

謳われた大天使は。

遥かな地表、天を衝くビル群を抱えた

コンクリートジャングルに崩れ落ちていった。




上方より見やる。

落ちていく漆黒の翼。

あれでは恐らく二度と天まで

舞い戻ってくることは叶うまい。


再び席に着く。


~これよりあれなるものを反逆者とみなし

 堕天の烙印をヤツに刻みつける!

 よって満場一致で承認と成し

 討議会を終結とする!~

~しかし、かの聖遺物は…!~

~知らん。とうに不要なり。~


さぁキサマの思惑通りだ。堕天使よ…


「せいぜい足掻いて見せるがいい。」


………。

………。

………?


…とは、どういう意味なのだ?」







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