第23話 もう、開き直る
「みーくん、今日のお昼は屋上に行こうね」
翌朝、学校に着いた時に和葉は俺の手を握りながら微笑みかけてくる。
「う、うん。でも、暑くないかな」
「涼しいよきっと。ね、みーくんは昨日、もやもやしなかったー?」
「もやもや……いや、大丈夫だけど」
「ふーん」
もやもやはしなかったけど死ぬほどムラムラはした。
股間がはちきれそうとはまさにあのことで、自分でもよく我慢できたなと今でも不思議なくらいだ。
しかし、今までキスで子供ができると思ってたような和葉が、一体全体どうしてそこから先を知ったのだろう。
ただこのタイミングで偶然和葉がネットか何かで知識を得たというだけかもしれないけど。
どちらにせよ、やばいことになった。
和葉が俺に抱かれようとしている。
そして抱いたら最後、俺は和葉から逃げることは不可能になる。
今までは既成事実がないので、脱走使用が冷たいことをいようが心が痛む心配もなかったけど。
やることをやっておいて、好きじゃないです別れてくださいなんて非道が通用するはずもない。
刺されてもそれなら納得だ。
つまり、和葉と一線を越えたら終わり。
それだけはないようにと慎重にふるまってきたつもりだったけど、知ってしまった以上は対応を考えなければならない。
昨日はどういうわけか、断ってもおとなしく引き下がってくれたけど。
次はどうなるかわからない。
抱くことが究極の愛情表現だと和葉が理解すれば、次は拒否権なんてない。
好きじゃないのか、どうして抱いてくれないんだ、って。
迫られて多分、終わる。
……やっぱりもう、逃げる以外の選択肢はないのだろうか。
◇
「みーくん、あーん」
「あ、あーん」
昼休み。
屋上で和葉と一緒に弁当を食べているのだが、彼女はここでも上機嫌を保ったままだ。
むしろこんなに何日も荒れずにいる和葉なんて、もう和葉じゃない気がしてきた。
不気味を通り越して、もはや以前の和葉が嘘だったかのように思わされる。
「みーくん、和葉今日はみーくんといっぱいイチャイチャしたいなあ」
「そ、そうだね。昨日みたいに」
「ううん、今日は和葉にいっぱい注いでほしいなあ。みーくんもそのほうが気持ちいいんだよね?」
「そ、それは……」
「あ、もう固くなってるよ? ここでしてもいいよ? 和葉、みーくんにならどこで何されてもいいの」
「や、やめっ……」
和葉の手が俺の下半身にのび、制服のズボン越しに膨らむ股間をするりと撫でる。
そしてキスをされる。
その瞬間、固くなった股間が爆発しそうな勢いでさらに固まった。
「あ、ぴくってなったあ。ね、ここでしちゃう?」
「だ、ダメだって学校では」
「なんで? どうしてダメなの? 和葉はいいよ? みーくんはどうしてダメなの?」
「そ、それは……」
少しだけ、和葉の目が濁る。
ここで回答を間違えたら、多分この場で押し倒される。
……。
「和葉の裸、もし誰かに見られたらいや、だろ?」
「……みーくんは、和葉が他の人に見られるのヤダ?」
「あ、当たり前だろ。そんなの、いや、だ」
「うん、そうだね。誰か来たら大変だもんね」
そっと、和葉の手が俺の下半身から離れる。
その瞬間、恐怖心からの解放で一気に俺の下半身は萎える。
「……」
「みーくん、いっぱい我慢してて辛そうだったね。だからね、帰ったらすぐにお風呂入って、いっぱいしようね」
「そ、そんなに慌てなくても、俺は大丈夫だよ?」
「そうなの? でも、みーくんはすっごく我慢してるみたいに見えるよ?」
「そ、そんなこと、ないよ」
「ふーん」
和葉は、少しつまらなさそうな声をあげて。
そのあと、立ち上がってから金網に手をかける。
「……みーくん、和葉のこと、怖いって思ってる?」
「……え?」
「みーくん、和葉が怖いから、そういうことしたくないって、そう思ってる?」
「そ、それは……」
「みーくんが嫌だっていうなら、和葉我慢するよ? みーくんのお嫁さんだから、みーくんがなってほしい和葉になるよ? だから、それでもダメ?」
「和葉……」
和葉の目にうっすらと涙が滲む。
その顔は、以前のようにヒステリーを起こして泣き叫ぶ彼女のそれとは違う。
綺麗な、儚い目をしていた。
「……和葉、本当に怒ったりしない?」
「うん。もうね、なーちゃんも他のみんなも捨てるの。そういうのはダメだって、ゆかちゃんにも教えてもらったんだ」
「そ、そうか」
「だから和葉を信じてくれる? 和葉、みーくんと一つになりたいの」
「……うん、わかった」
そんな和葉の目を見ていると、うなずくしかできなかった。
そっと、無言で和葉を抱きしめる。
和葉も、俺をそっと抱きしめてくる。
もう、多分今晩で終わりだ。
和葉をこの手に抱いて、一緒になって。
逃げることも、もうない。
そう思うと、なぜか心が軽くなっていった。
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