第21話 幼馴染とは
昼休み。
俺は和葉から目を離すことがないようにと、ずっと和葉の隣を離れなかったのだけど、どうしても手の届かない場所があることに気づく。
「みーくん、ちょっとお手洗い行ってくるの」
「う、うん」
「みーくんも一緒にくる?」
「い、いやそれは」
「うん。じゃあ行ってくる」
和葉の弁当を二人でおいしくいただいた後、和葉はトイレに行ってしまった。
さすがに和葉ではないので、女子トイレの前で待つ、なんてことはできない。
少し離れたところで和葉を待つことに。
すると、
「あ、和葉ちゃんの幼馴染君だね」
女子に声をかけられた。
条件反射で体をびくっとさせて振り向くと、そこにいたのはゆかちゃんだ。
「……」
「あら、しゃべってくれないんだ。すっかり和葉ちゃんの奴隷なんだ」
「……」
「そんなに怖がらないでよ。私は和葉ちゃんと気が合うだけ。それに、あなたたちがうまくいくことを望んでる一人でもあるの」
「……」
和葉にあとで何を言われるかわからないので、とりあえず無言を貫く。
しかし、この子が言ってることの意味がよくわからない。
どうして、俺と和葉がうまくいくことを願う?
単に和葉と仲が良くなったから、といっても知り合ったのは最近のはずだ。
「まあ、時々は和葉ちゃんをお借りするけどよろしくね。それじゃ」
そう言って、彼女もまた女子トイレに入っていった。
♥
「あ、ゆかちゃん」
「ふふっ、和葉ちゃんこんにちは。さっきそこで幼馴染くんにあったわよ。健気に待たせてるなんてさすがね」
手を洗っているとゆかちゃんが来た。
「みーくんは和葉のこと大好きなの。だからずうっと一緒なんだ」
「いいわね、そういうの。ね、そういえば今日私、初音さんと遊びに行くんだけど一緒に来ない?」
「あ、行きたいなあ。初音さんと一回ゆっくりじっくりお話してみたかったんだあ」
「じゃあ行きましょ。あと、幼馴染君も一緒に連れてきてね」
「うーん、やっぱりみーくんを女の子いるところに連れてくのヤダなあ」
「もちろん連れてくるだけよ。いつものあなたたちを見せつけてくれたらそれでいいの」
「んー、わかったあ。ゆかちゃんは幼馴染の彼、誘うの?」
「ううん、まだ。でも、今日初音さんにそのあたりをじっくりお話しようかなって」
「じゃあ大切な一日だね。みーくんにも聞いてくるね」
「ええ、よろしく頼むわ」
すると先にゆかちゃんはトイレから出て行った。
和葉とお話するために来てくれたのかなあ。
私もすぐに出ると、みーくんが不安そうな顔でこっちを見ていた。
「あ、和葉」
「みーくん、待ったあ?」
「う、うんまあ。そろそろ戻らないと」
「だね。あとね、今日の放課後はゆかちゃんたちと一緒にご飯なの。でね、みーくんも一緒なの」
「お、俺も? いや、でも」
「みーくんはずっと和葉とお話してるだけでいいからね。えへへ、今日は晩御飯いらないね」
「……」
みーくんは少し不安そうな顔をしていた。
なんでだろう、和葉のご飯がたべられなくてショックなのかな。
じゃあ、みーくんは何も食べさせてあげないでおこっと。
えへへ、ほんとにみーくんったら和葉のこと大好きなんだね。
初音さんに、しっかりそのことを教えてあげないと。
♠
「みーくん、一緒に行こ?」
放課後、今日はなぜか和葉の友人たちとご飯に行くことになった。
ゆかちゃんって子もいるらしい。
和葉がずいぶん信頼してるようだけど、あの子となら会話しても問題ないっていうことなのかな。
「和葉、今日は誰がくるんだ?」
「ええとね、ゆかちゃんと初音さんだよ」
「……え」
「初音さんのことゆかちゃんが誘ったんだって。えへへ、一度ゆっくりお話してみたかったんだあ」
「い、いやそれは」
「んー、みーくんは初音さんがいて困ること、あるの?」
「な、ないけど」
「だよね。えへへ、いるだけだから気にしなくていいよ。いつもみたいに和葉といっぱい仲良くしようね」
「……ああ」
初音さんを呼んだのはゆかちゃんらしいけど。
でも、これは果たして偶然なのか?
何か仕組まれているような気がしないでもないが。
今更断ることもできない。
もう、和葉についていくしかなく、不安を大きくさせながら一緒にファミレスまで向かうと、店の前には女子が二人立っていた。
「あ、和葉ちゃんおつかれー」
そこにいたのはゆかちゃんと、初音さん。
すぐにゆかちゃんの方へ駆け寄る和葉。
そして、俺を見て目を丸くする初音さん。
「あ……」
思わず声が出たけど、向こうも気まずいのか目を逸らす。
ただ、それで少しほっとした。
和葉の前で、妙に親しくされても困る。
「じゃあ、入ろっか」
みんなで店内に向かう時、初音さんは何か言いたそうにこっちをちらっと見た。
でも、それだけ。
席に着くときも、俺の向かいにはゆかちゃんが座り、俺の隣に座る和葉の向かい側に気まずそうに座る初音さんは終始気まずそうにしている。
どうしてここにきたんだ?
誘ったのは……やっぱりゆかちゃん、かな。
「ねーみーくん。パフェ食べてもいーい?」
「あ、ああ。いいよ。ええと、俺は」
「みーくんはかえってから和葉のご飯食べるんだよ? だからだめー」
「え、そ、そうなの? ええと、それじゃ飲み物は」
「飲み物くらいはいいよ? 和葉がね、飲ませてあげるの」
「そ、それはさすがに」
「んー? さすがに?」
「……水でいいよ、俺は」
和葉は終始ニコニコしている。
ゆかちゃんも何事もないようにメニューを見ている。
でも、初音さんは顔を青くしながらずっと無言。
仲が良くてここにきたっていうわけじゃないのだろうか。
「……あの、私、やっぱり帰ろうかな」
ぽそっと初音さんがつぶやいた。
すると、俺に絡みついてきていた和葉も彼女の方をさっと振り向く。
そしてゆかちゃんが、
「帰る? 来たいって言ったのは初音さんよね?」
と、少し機嫌悪そうに初音さんに聞く。
すると、また初音さんが慌てた様子で言い返す。
「だ、だって話が違う……」
「違わないわよ? 和葉ちゃんの幼馴染が来るとは言ったけど、和葉ちゃんが来ないなんて言ってないでしょ」
「そ、それは……でも、こんなところで」
「言えばいいじゃない。自分の気持ちを素直に言わないから、私の幼馴染も振り回してるくせに」
「……」
少しもめている。
そして、初音さんは顔を青白くして震えている。
ただ、ゆかちゃんはすごく楽しそうで、隣の和葉なんかは他人事のようだ。
俺は、いったい何を見せられているのだろう。
そして、今から何が始まるんだろう。
不安になりながら和葉の方に目をやると、大きく見開かれた目で和葉が俺を見ている。
「ど、どうしたんだ?」
「えへへ、みーくん。ちゅうして」
「こ、ここはさすがに」
「じゃあ勝手にするー」
「あ……ん……」
目の前に同級生たちがいるのにキスをされた。
そして、その瞬間初音さんの前のグラスががたんと倒れて水がこぼれる。
「す、すみません……」
「あーあ、初音さんったらどうしたの? ねえ、お水拭かないと」
「……あの、私は」
「ああ、そうだ。初音さん、一つだけ覚えておいてね」
和葉は俺からゆっくりと顔を離してから、少しニヤッと笑い。
ゆかちゃんが初音さんの方を向いて、言う。
「幼馴染ってね、手段を選ばないものなのよ」
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