第14話 なぜか閉じ込められる
「みーくん、帰ろ?」
「ああ、帰ろっか」
放課後すぐ。
和葉と俺は一緒に教室を出る。
この学校に入学した初日は、学校ってなんと楽しく素晴らしい場所だなんて思っていたけど。
やっぱり中学の時に逆戻りだ。
学校なんて長居する場所じゃない。
いるだけリスク、用がないならさっさと退散するに限る。
ほんと、歴史は繰り返すものだ。
高校では絶対にこうはならんと誓ったというのに、以前と同じことをやってる。
逃げるように校舎の外へ。
そして人目を忍びながら帰路につく。
こうしていると、やっぱり気持ちは落ちていく。
どうあっても、俺は一生このままなのかと。
ずっと和葉のことで悩まされながら生きていく人生なのかと、落胆する。
いっそのこと嫌いになってくれたらいいのにって何度も思ったし。
実際、嫌われようとして冷たくしたり敢えて他の子に話しかけたりしたけど、そんなことをすれば本気で俺も周りも命がなくなることを肌で実感してるからその手も使えないし。
……そういや、ラスボスっぽいキャラが改心して仲間になるゲームとかってあったよな。
ああいうのって、どういうきっかけでそうなるんだ?
ある日突然目が覚めるんだろうか。
「みーくん、今日は何が食べたい?」
「和葉の料理ならなんでもいいよ」
「えへへ。でも、リクエストして? 今日はみーくんの食べたいもの、作ってあげるから」
「うーん、それじゃ今日はちょっと暑いし冷やし中華とか、どうかな?」
「いいよ。それなら、スーパーに食材買いに行こっか」
「そうだな」
料理は冷たいものに限る。
なぜかって? 火傷しないからだ。
リスクは常に取り払っておくべきだ。
でも、冷たすぎるのもだめ。
かき氷とかは最悪だ。あれを一気に口の中に詰められたら凍傷を起こしてむしろ火傷みたいになる。
料理は出来たての熱々が一番なんていうのは、全部自分のタイミングで食べられる贅沢な連中の言う話だ。
和葉のような彼女がいる俺の場合、常にあーんに対する策を講じていなければ怪我をする。
ほんと、俺じゃなかったらとっくに死んでるよ。
「みーくんみーくん」
スーパーの前で、俺の袖をつかんで和葉が足を止める。
「な、なんだ?」
「みーくんはね、和葉がお友達と話すようになって、嬉しい?」
「ん、そうだな。みんなと仲良くしてくれるのは、嬉しいよ」
「そっか。なら、やっぱり明日は誰かと遊んでこようかなあ」
「む、無理にそうしなくてもいいんだぞ? ほら、気が向いたらでいいというか」
「じゃあ気が向いたから、明日は誰か誘ってみる」
「そ、そう」
「それに、今度はおうちに誰か誘ってもいいかな。ゆみちゃんとかも、遊びにきたいって言ってたし」
「ま、まあ和葉がいいなら」
「うん。それじゃお店入ろっか」
店内は、エアコンと冷蔵の冷気によって少し肌寒い。
だからか、和葉はカートを押す俺の腕をがっちりつかんで離さない。
すれ違う店員さんは、女性であればくまなくチェックしていて、時々「あの人は若いね。今度仲良くなっとこ」なんて独り言をつぶやく。
ただ、そんな俺たちのことをみんながうらやましそうに見てくるのが、いつものことながらとても辛い。
こうやってだんだんと周りを固められていって、やがて和葉と俺の仲は地域中の知るところとなる。
これじゃ地元とまったく同じことをやっている。
せめて買い物くらいは別行動できるようにならないと。
地域公認の仲となれば、もう終わりだ。
和葉が路上で泣いていても、何かを壊しても、誰かを傷つけても全部俺のせいにされる。
和葉がいけないのに。
お前がちゃんと見ていないからだって、怒られる。
まあ、そんな地元に嫌気がさして逃げたというのもある。
あんな息苦しい場所に、ずっといたら頭が禿げそうだったから。
せめてこの場所はそうならないでほしい。
でも、放っておけば和葉はすぐに有名になる。
誰もが振り向くほどの美人で、誰もが目を疑うような奇行に走る。
そりゃすぐに有名人だ。
ほんとどうしたものかと、頭を悩ませているうちに和葉は次々と目についたものを籠に放り込んでいる。
「みーくんみーくん、何かお菓子も買ってかえろ?」
「あ、ああ。でも、なんかいっぱい買ってるけど冷蔵庫入る?」
「うん、なんとかなるよ。ねーねージュースもいっぱい買っておこ?」
「まあ、ゲームしてたら喉乾くからな。いいよ、買えるだけ買っとこ」
まあ、そんなこんなで和葉とはあまり出歩きたくないので、買いだめしておいた方が正解だろう。
籠いっぱいの食材やお菓子、ジュースを会計してから、両手いっぱいに袋を下げてようやく帰宅。
玄関の中に入ると、ようやく一息だ。
いくら和葉と一緒とはいえ、家の中がやっぱり落ち着く。
それにここなら人目を気にする必要はないわけだし。
「さてと、今日はご飯食べたら早く寝ようか」
「えー、いっぱい買い込んだのに?」
「だって、早起きは三文の徳って言ったじゃん。だから」
「それ、よーく考えたんだけど寝なかったら一番だよねえ?」
「え?」
玄関がバタンと閉まる。
そしてこっちを向いたまま、後ろに手をまわして鍵をガチャリと閉めた和葉は靴を脱いで俺に顔を近づける。
「えへへ、和葉って偉いでしょ。お休みの前は寝なかったらいいの。だったらいっぱいみーくんとお話できるし、朝からもいっぱいお時間使えるから。ね、いいでしょ?」
「ね、寝ないって……いや、それは」
「和葉ね、今日は寝ないから。そのためにいっぱいジュースとか買ったの。あとね、この土日はお外でないから。出させないから。和葉といたら、お外に出る必要、ないよね?」
ね? と。
俺を部屋の中に押し戻すように迫る和葉は、ひるむ俺に抱き着いてくる。
「お、おい」
「ふふっ、週末はずうーっとみーくんと一緒なの」
「い、いや。別に今までもずっと」
「ううん、離れてる時間が多くて今週は辛かったの。だから週末にいっぱい充電するの」
「……」
ぎゅっと俺を掴んで離さない和葉は、俺の胸に顔をうずめたまま。
少し熱い吐息をもらしながらつぶやいた。
「週末は軟禁だよ、みーくん?」
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