真実 2
ダニエルは身辺が落ち着くまで、修道院に仮住まいすることに決まった。
フランシスがダニエルの証言をもとに当時の事件の再調査をするように命じたからだ。彼の証言だけでは冤罪を立証するには弱いが、捕えられた誘拐犯たちを尋問にかけており、そのうちの一人がダニエルの妻の殺害を認めたのだ。
ダニエルは晴れて自由の身になったが、すでに彼の暮らしていた家はなく、ダニエル自身もこの五年間の間に心に深い傷を負っていたため、賑やかな修道院でしばらく暮らした方が彼のためにもなるのではないかという判断らしい。
ちなみにダニエルにはフランシスの指示で賠償金が支払われたが、彼は受け取ったその金のほとんど修道院に寄付をした。
しかしエルシーは、カリスタがダニエルがここを出て行くときのために、受け取った金をこっそり金庫の中に残していることを知っていた。カリスタはそういう人だ。
「おじちゃん! 鶏がそっちに逃げたよ!」
「違うよ! 反対側から回り込まないと!」
エルシーが洗濯物を干していると、裏庭から子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。
鶏を運動させるために裏庭に放したようだが、小屋に戻すのに苦労しているようだ。
子供たちに指示されながら鶏を追い回しているダニエルの姿が見えて、エルシーはおかしくなった。エルシーも鶏を捕まえるのは苦労するのだ。意外と、ああいうことは子供たちが一番うまいのである。
「エルシー! 卵が十個も取れたよ!」
「まあ! じゃあ、今日の朝食当番のシスター・イレーネに言って、卵料理を作ってもらうといいわ! ふわふわのスクランブルエッグにしてもらったらどうかしら?」
「そうするー!」
籠に入れた卵を持って報告に来た女の子は、振り返って「おじちゃん、キッチンに行こう!」とダニエルを誘う。
鶏を追いかけてへとへとになったダニエルが休ませてほしいというのにも構わず、子供たちは彼の手を引っ張りながらキッチンへと連れて行った。もともとダニエルに懐いていた子供たちだから心配はしていなかったが、あの分だとうまくやっていけそうだ。
(あと二日もすればわたくしもここを出ないといけないし、ダニエルさんがいたら大工仕事もしてもらえるし安心ね)
そう、エルシーは二日後、ここを出て王宮に戻ることになっている。
今回の誘拐騒ぎでセアラがすっかり怯えてしまって、部屋に閉じこもってしまったからだ。
幸い、セアラは縛られた手首が擦り傷になっていた程度で、ほかに怪我はしていなかったが、精神的に不安定になってしまった。医者からも落ち着くまではそっとしておくようにと言われていて、とてもではないが王宮に向かうことはできそうもないと判断された。
このままだと妃候補を辞退することになると慌てたヘクターは、大慌てでエルシーのもとを訪れて、セアラの代わりを続けてほしいと懇願した。憔悴した顔で頭を下げるヘクターに唖然としたが、どうやら彼は、フランシスの手前エルシーに高圧的な態度を取れなかったようだ。
エルシーにはヘクターのお願いを聞いてあげる義理はなかったが、カリスタにも相談した結果、次の里帰りまで身代わりを続けることにしたのだ。
「さてと、次は礼拝堂のお掃除に合流しないと!」
洗濯物を終えると、エルシーはその足で礼拝堂へ向かった。
シスターたちが掃除をしている中に混ざって、礼拝堂をピカピカに磨き上げる。
(グランダシル様、またここを留守にしちゃいますけど、みんなのことをどうかよろしくお願いいたします!)
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