誘拐 6

「まったく、いつの間にこんなものを隠し持っていたのかしら?」


 フランシスがダニエルから話を聞く間、エルシーがダーナとドロレスの部屋に待機していると、あきれ顔のクラリアーナがやって来た。


「太ももに括りつけておくなんて、よく思いつきましたわね」

「……ドレスのスカートってすごく膨らんでいるから、気づかれないだろうなって」

「勇ましすぎですわ」


 あきれ顔のクラリアーナとは対照的に、ダーナとドロレスの視線が痛い。こちらの二人は相当怒っているようだった。


「なんて危ないことをするんですか!」


 このあとフランシスの説教も待っているというのに、その前にダーナの雷が落ちる。


「だ、だって、ほら……自分の身は自分で守らないと……」

「自分の身を守るのではなくて、誘拐犯を捕まえようとしていたと聞きましたけど?」

「クラリアーナ様! しー!」

「エルシー様‼」

「ひい! ごめんなさい!」


 腰に手を当てて怒るダーナに、エルシーは早くも白旗をあげた。これ以上言い訳をするともっと怒られそうだ。


「怪我をしたらどうするつもりでしたの?」


 ドロレスがエルシーから奪い取った麺棒を見ながらため息をついた。


「こんなもので立ち向かおうだなんて……」

「でも、それで殴ったら痛いと思って……」

「痛い痛くないの問題ではありませんわ」

「はい。ごめんなさい」


 ドロレス相手にも言い訳は通用しそうにない。


(妙案だと思ったのに……)


 誘拐犯をカッコよく捕まえる予定だったのに、どこで間違えたのか。


(だってほかに隠し持てそうないいものがなかったし……。箒はさすがにドレスの中には隠せないし)


 誘拐犯だって、まさか攫おうとした相手が応戦してくるとは思わないだろうから、絶対に怯むと思ったのに。


「ともかく、怪我がなくてよかったですわ。フランシス様の方は時間がかかるでしょうし、お茶でも飲みながら待っていましょう」


 クラリアーナが苦笑しながら仲裁に入ってくれて、ダーナとドロレスは仕方なさそうな顔でエルシーへの説教を終える。

 ダーナが四人分のお茶をいれてくれて、それを飲みながら待っていると、しばらくしてフランシスがクライドを連れてやって来た。


「何かわかりまして?」

「ああ。誘拐犯からはセアラの居場所を聞き出せたらしいから、コンラッドが騎士を連れて向かっている」

「ダニエルさんは⁉」

「ダニエルは別室に閉じ込めているが……脱獄の理由と、先ほど誘拐犯に斬りかかった理由は、おおかた判明した。詳しい話は応接室でしよう。ここは手狭だ」


 確かに、この部屋は六人が座って話ができるほどのスペースはない。

 応接間に移動すると、フランシスは息を吐きながら言った。


「ダニエルだが、誘拐犯の中に、彼の妻を殺害した男がいたらしい。ダニエルは妻を殺した男に復讐するために脱獄したんだそうだ」


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