いなくなったセアラ 4

(セアラはいったいどこにいるのかしら……?)


 ダーナとドロレス、そしてクライドたちが修道院に移動してきた次の日、エルシーはフランシスとクライドともにポルカ町を訪れていた。セアラを探すためだ。

 ダニエルのことも探さなくてはいけないのだが、両方を天秤にかけた結果、身の危険がありそうなセアラの捜索の方を優先させることになった。


 コンラッドとダーナとドロレスは修道院に置いて来た。

 コンラッドを置いてきたのは、クライドとともにケイフォード伯爵家にいたほかの騎士たちもセアラの捜索をさせていて、その指揮を彼が取っているからだ。指揮官があちこちふらふらしていては現場が混乱するらしい。

 そして、ダーナとドロレスは、セアラがいなくなったことを気にしすぎていて、心労がたたっているため、無理をさせない方がいいだろうとの判断だった。


「セアラがいなくなったというカフェに行ってみるか」

「そうですね」


 今のところ、セアラの足取りはカフェの裏口から出たところで途絶えている。

 カフェに入ると、クライドが店員を捕まえて、セアラを目撃した店員を呼んでこさせた。立ち話をしているとほかの客の邪魔になるので、店の隅の席を用意させて、紅茶を注文する。

 現れた店員はまだ若い女性だった。十代後半だろうと思われる。


 店員はエルシーの顔を見て驚いた顔をした。フランシスがセアラとは別人だと告げると、顔を強張らせて緊張した様子で席に着く。ケイフォード伯爵家の人間からも散々質問攻めにあい、そのときに嫌な思いをしたようだ。

 店員によると、セアラは人目を気にする仕草をしながら裏口から出て行ったとのことだった。ダーナたちを巻くことが目的だったからなのか、急ぎ足だったという。


「たまにいらっしゃるお嬢様で、いつもお一人で行動されているので違和感は持たなかったんです」

「いつも一人で?」

「はい。離れたところにお付きの方がいらっしゃるようでしたけれど、行動はいつもお一人でした。窓際の席に座って、紅茶とフルーツのタルトをよく召し上がっていました」


 なるほど、ここはセアラの行きつけのカフェだったらしい。それならばこの店に裏口があることを知っていてもおかしくない。


「他に気になることはなかったか?」

「いえ、特には……」

「では、裏口から出てどちらへ向かったかはわかるか?」

「ええっと、右に折れていかれました」

「そうか、わかった。仕事中すまなかったな。ありがとう」


 店員が頭を下げて仕事に戻ると、フランシスは目の前の紅茶に口をつけた。


「手掛かりらしい手掛かりはなし、か」

「そうですね。それにしても、セアラってばいつも一人でふらふらしているなんて、困った子ですね!」

「……お前が言うか?」


 フランシスがあきれ顔をする。


「生活環境が違ってもこうも似るものなのかと、俺は逆に感心したくらいだが」

「え?」

「お前と同じで猪突猛進だと言ったんだ」


 それは心外だ!

 エルシーはセアラのようにダーナたちを置いてどこかへ行ったりしない。

 エルシーはむっと口を尖らせると、紅茶と一緒に持ってこられたビスコッティを口に入れる。固めのハードビスケットなので、頬を膨らませてもごもごとかみ砕いていると、フランシスが苦笑した。


「相変わらず、そうしているとリスみたいだな」

「んむ?」

「いや……、昔を少し思い出しただけだ」

(昔?)


 フランシスはビスコッティに何か思い出があるのだろうか?

 きょとんとするエルシーに、フランシスは「なんでもない」と首を振って、自分の分のビスコッティ―をエルシーの皿に乗せた。


「それを食べ終わったら、裏口から出て右に行ってみるか」

「はい!」


 エルシーはフランシスからもらったビスコッティを口に入れて笑った。



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