いなくなったセアラ 1
ダーナたちと手分けをしてセアラを探し回ったが、夕方になってもセアラは見つからなかった。
エルシーたちが合流場所である飲食店の前に向かうと、そこにはすでにダーナたちの姿があった。三人とも暗い顔をしている。
「ダーナ、ドロレス! どうだった?」
顔を見る限り状況は芳しくないと推測できるが、エルシーが訊ねると、ダーナたち首を横に振った。
「馬車のところにもまだ戻っていないそうです。もう日が落ちるというのに、どこに行かれたのでしょう……」
「馬車を置いて一人で戻ったということはないのか?」
「歩いて戻るには距離がありますから……。このあたりには辻馬車もありませんからね」
確かに、このあたりで馬車を使うのは貴族やお金持ちくらいで、ほとんどの人は自分の足で歩くか荷馬車を使う。セアラが荷馬車に乗ったとは考えにくい。
フランシスは顎に手を当てて言った。
「だが、万が一と言うこともある。それに、本当に見つからないのなら、ケイフォード伯爵家の人間にも手伝わせた方がいい。セアラの行動範囲なら、彼らの方が詳しいだろうからな」
「そうですね……それがいいかもしれません。このまま夜になるのも困りますから」
クライドが神妙な顔で頷いて、ダーナとドロレスが両手で顔を覆った。
「俺たちがついて行くわけにもいかないから、修道院に戻るが、何かあったら連絡しろ。いいな?」
「はい……」
「ダーナ、ドロレス、気を落とさないで。ふらふらいなくなったセアラが悪いんだもの。きっと平気な顔をして帰っているわよ」
エルシーが励ますと、二人はぎこちない笑顔を浮かべて頷く。
フランシスに促されて、エルシーはダーナたちと別れると、ポルカ町の入口に止められている馬車に乗り込んだ。
「ダーナたち大丈夫でしょうか……」
エルシーが馬車の窓に張り付いて、見えるはずもない三人を探しながら言うと、フランシスが嘆息しつつ答えた。
「いなくなったセアラが悪いが……立場上、三人に何の責任もないとは言えないからな」
「そんな……」
「ともかく、セアラが見つからないことにはどうしようもない。今日は仕方がないが、コンラッド、明日にでもそれとなくケイフォード家に様子を見に行ってくれ」
「わかりました」
フランシスとエルシーが動くわけにはいかないのでコンラッドに頼むと、コンラッドが難しい顔で頷く。
「しかし、これほど身勝手な行動をとられるとは……セアラ・ケイフォードは妃候補から外すべきでは?」
「余計なことを言うな」
フランシスが噛みつくように答えると、コンラッドがやれやれと肩をすくめる。
「このままでは、どちらにせよ望む方向には進みませんよ?」
「それはこれから考えるから、下手な手出しをするな」
「はいはい」
(望む方向? 陛下は何か望みがあるの?)
エルシーが不思議な顔をしていると、フランシスがエルシーの髪飾りに触れた。
「俺たちが優先するのはセアラではなくダニエルだ、エルシー。セアラのことは気にしなくていい。そのうち帰ってくるだろうし、帰ってこなくてもクライドがどうにかするだろう。どうにもならなければこちらへ連絡が入る。だからその時になって考えればいい」
いなくなったセアラの自己責任だとフランシスが突き放したように言って、エルシーはダニエルを思い出してハッとした。
(そうよ、ダニエルさんの件もあるんだったわ……)
セアラのことでバタバタしていて頭の隅に追いやられていた問題に、エルシーは頭を抱えたくなる。
ダニエルが脱獄した囚人だとは信じたくなかったが、肉屋のおかみの話を聞く限りダニエルが監獄に入れられていたのは間違いない。そうなると、彼が脱獄犯である可能性は限りなく高かった。
(でもどうして……)
ダニエルが脱獄犯だとすると、彼はどうして脱獄したのだろうか。
(友達を探しているって言っていたけど……ダニエルさんは、そのお友達にとても大切な用事でもあったのかしら?)
友人に会うためだけに脱獄したとは考えにくかったけれど、なんとなく、エルシーはダニエルが探している友人が気になった。
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