ダニエルを探して 2
洗濯を終えて、エルシーは言いつけ通りカリスタとともにフランシスの部屋へ向かった。
フランシスの部屋にはコンラッドもいて、二人そろって厳しい表情を浮かべている。
エルシーとカリスタが入ると扉が閉められて、フランシスが二人に椅子に座るように告げた。フランシスはベッドの端に腰かけていて、コンラッドは窓際に立っている。
「カリスタ、エルシー。隣のウェントール公爵領の監獄から囚人が一人逃げだしたという話はしただろう? おそらくだが、ダニエルがその囚人だと思う」
「え?」
エルシーは目を丸くして、カリスタが息を呑む。
「もちろん、きちんと確かめてみる必要はあるが……、監督者が言うには、逃げ出した囚人は妻の指輪をずっと大事に持っていたそうだ。紐に通して首から下げてな」
「指輪……」
エルシーはポケットを探ってダニエルの部屋にあった指輪を取り出した。
「それだけで特定するのも早計だと思うかもしれないが、ここに来たときのダニエルの様子を聞いても、普通じゃない。旅人だとしても、ここは人里離れた山の中でも僻地でもないんだ、どこかしらに食べ物は売られているし、休む場所もある。それなのに小さな刺激で倒れるほど疲弊していたというのは腑に落ちない。ましてや、持ち物らしいものは何もなかったのだろう? 荷物を持たずに身一つで旅をする旅人がいるのか?」
「それは……」
エルシーも、確かに荷物がないことは多少なりとも不思議に思っていた。だが、人の事情を詮索すべきではないと、特に気にしていなかった。
カリスタが額に手を当てた。
「迷える子は誰であろうと受け入れるもの……。ですが、さすがに今回は迂闊だったかもしれませんね」
「で、でも! ダニエルさんはいい人でしたよ?」
「エルシー。ダニエルさんがいい方だったというのはわたくしも否定するつもりはございません。子供たちにも優しくしてくださった、素敵な方でした。でもね、だからと言って、法を無視することはできないの。神の教えと、法と秩序は、別物なのよ」
グランダシル神は、誰であろうと反省し悔い改めればその罪を憎まない。しかしそれは、国の法に当てはまるものではない。エルシーも、それは理解できるが――
「ダニエルさんが、逃げた囚人さんだと決まったわけではありません!」
「ああ。もちろんそうだ。だが、俺たちはそれを確かめなくてはならない立場なんだ」
フランシスは、逃亡した囚人を追っている。そのために自分の騎士も貸し出し、自らも騎士に扮してここに滞在しているのだ。彼には、少しでも怪しいと思ったダニエルを確かめないという選択肢はない。
「囚人の話を聞いた時に、ダニエルさんのことを陛下にお伝えしなかったことはわたくしたちの落ち度です。わたくしたちも協力は惜しみません。エルシーもそれでいいわね?」
カリスタが神妙な顔で言う。
(確かめてみないとわからないけど……でも)
ダニエルは素敵な人だ。そんなダニエルが、何か罪を犯したとは思いたくない。だがそれは、エルシーの自分勝手な感情論で、ここで言っていいことではない。
(大丈夫よ。ダニエルさんが罪を犯していないって、わかればいいんだもの)
ダニエルに会えば、フランシスも彼がそんな人ではないと理解するはずだ。
エルシーは顔をあげた。
「わかりました。ダニエルさんを探すのに、わたくしも協力します」
フランシスもコンラッドもダニエルの顔を知らないから、エルシーが協力するしかない。
フランシスはホッとしたように笑って、「頼む」と頷いた。
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