ダニエルの旅立ち 4
「ダニエルさん、お昼ご飯ですよ」
エルシーは昼食を持って、ダニエルの部屋の扉を叩いた。
ダニエルは今日気分が優れないとかで、食事を部屋で取りたいと言っていたから運んできたのだ。
しかし扉を叩いても、呼びかけても中から返答がなく、エルシーは悪いと思いながらも小さく扉を開けた。
「ダニエルさん?」
てっきり眠っているのかと思ったのに、部屋の中にはダニエルの姿はどこにもなかった。
(お手洗いかしら?)
それならばすぐに戻ってくるだろうと、エルシーは部屋のテーブルの上に昼食を置かせてもらうことにした。
テーブルの上に昼食を並べていると、窓から入り込んできた風で、ベッドサイドテーブルの上から何かがひらりと舞い落ちる。
床に落ちたそれを拾い上げると、それは短い手紙だった。
ないように目を通したエルシーは目を丸くした。そこには、綺麗とまでは言えなかったが丁寧な文字で、修道院のみんなに対するお礼が書かれていた。
(ダニエルさん、出て行ったのね)
ダニエルは旅人のようだった。元気になったからまた旅に出たのだろう。
(さよならくらい言いたかったけど、お別れがつらかったのかしらね)
子供たちもダニエルには懐いていた。ダニエルはきっと別れがつらくて、だから黙って出て行ったのだろう。
エルシーはテーブルの上に並べた食事をワゴンの上に戻すと、手紙を持って部屋を出る。
ダニエルが出て行ったことをカリスタやシスターたち、そして子供たちにも報告しなければ。
急な別れに少しだけしんみりしながら、エルシーはダイニングへ向かった。
ダイニングには子供たちとシスターたちがいて、食事にも手をつけずエルシーが戻ってくるのを待っていてくれたようだ。
フランシスとコンラッドは自室で食事を取るのでここにはいない。
「エルシー、浮かない顔をしてどうしたの?」
カリスタが不思議そうな顔で訊ねた。
エルシーがダニエルからの手紙を渡して説明すると、カリスタをはじめ、シスターたちが一様に目を丸くする。
「まあ、それは急なことね」
「はい。お別れが言いたかったですけど、仕方ありませんよね」
エルシーがしょんぼりと肩を落とすと、子供たちが口々にダニエルがいなくなったことへの不満を言い出した。懐いていた分、淋しいのだろう。
子供たちの声でダイニングが騒がしくなると、カリスタがパンパンと軽く手を叩く。
「はい、もうそのくらいになさい。ダニエルさんにはダニエルさんの向かう場所があるのですから、文句を言うのではなくて、彼の前途を祝福してあげなくてはなりませんよ」
「「「はーい」」」
子供たちの顔にはまだ不満は残っていたが、カリスタが言うとそれ以上は文句を言わなくなる。
「それでは、グランダシル様に感謝と、それから今日はダニエルさんの幸せをお祈りして、お昼ご飯にいたしましょう」
エルシーは席について、シスターや子供たちとともに指を組んで瞑目した。
(ダニエルさんの前途に、幸あらんことを)
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