三か月目

プロローグ

 祭壇の上のステンドグラス越しに、カラフルな光が落ちている。


 向かい合って、エルシーの右手を握って、穏やかに微笑むフランシスの顔は、純粋に、とてもきれいだと思った。


 昔のことはほとんど覚えていないけれど、今も昔も、彼が優しいことだけはわかる。


 エルシー、と柔らかい声でエルシーの名前を呼んだフランシスは、驚くほど真剣な顔で続けた。


「俺は、お前の口から、ここを出て俺のそばで生きたいと言わせてみせる」

「……え?」


 何を言われたか、エルシーはすぐには理解できなかった。

 エルシーの家はここ――修道院だと告げたのに、どうしてそんなことを言うのだろうか。


 混乱するエルシーに、フランシスは続ける。


「正妃の座はあけておく」


 本当に、何を言っているのだろう。

 フランシスはお妃様選びの真っ最中で、残り、十か月足らずで正妃を選ばなくてはならないのに。

 息を呑んで固まるエルシーに、フランシスは笑う。


「俺はお前が好きだ。エルシー」


 エルシーはただただ息を呑んで固まってしまって、彼のその告白に、何も返すことはできなかった。



 それは、里帰り期間を迎えたエルシーが王宮を去り、幼いころから暮らしていた修道院に戻ったあと。

 ――一連の事件がすべて終わったあとの、ことだった。



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