第100話 それでもこんな時に顔が出てくるのは、やっぱり
私が意識を取り戻したのは、どこぞのベッドの上だった。
まだくらくらする中で目を向けてみれば、見たことのない部屋の中。手首に痛みを感じて見上げれば、私は両手を縛られていて、ロープの先はベッドの柱に繋がっている。
「起きたかい、エデリーン」
そう声をかけてきたのは、マクシミリアン様だ。
彼は先ほどまで着ていたジャケットをすべて脱ぎ、ラフな格好でワイングラスを揺らしている。
「手荒なことをしてしまってすまないね。でも、僕と君が結ばれるためには、これしかなかったんだ」
はぁ、と憐れみを誘うような表情を浮かべてため息をついているけれど……これって完全に人さらいじゃない!
「正気じゃないわ……!どう考えてもうまくいくはずがないのに、なぜこんなことを?」
「言っただろう、君とやり直したいんだ」
「そんな言葉に騙されるわけがないでしょう。時間の無駄だから、さっさと本当のことを話したらどうなの?」
私が挑発すると、マクシミリアン様――いえ、マクシミリアンはにやりと笑った。
「……それもそうだね。いいよ、君の挑発に乗ってあげよう」
笑いながら、マクシミリアンが私に近づいてくる。
「実は――君を捨てて手に入れた新しい婚約者なんだけれど、彼女、とんでもない悪女でね。我が家の金目のものを全部持って行ったあげく、私の名前で勝手に借用書まで作っていたんだ」
……なるほど。興味がなくて聞いていなかったけれど、新しい婚約者がいないと思ったらそんな理由。つまり、この誘拐はお金目当てなのね。
私は舌打ちしたくなった。
こんな時ぐらい、してもいいわよね?
「でも、それと私に一体何の関係があるの? 身代金目的の誘拐だとしても、こんなのすぐに露呈するし、王妃に手を出してただですむわけがないじゃない」
それに、私の夫は何を隠そう、軍人王と呼ばれたあのユーリ様なのよ?
「ノンノン、身代金目的じゃないよ。僕はあくまで、君と結婚したいんだ。――聞くところによると、君と国王陛下は、まだ白い結婚らしいね?」
そう言ったマクシミリアンの瞳は、ぎらりと嫌らしく光った。
「なら、国王より先に僕が君を奪ってしまったら、どうなると思う? 他の男の子どもを宿しているかもしれない王妃は、王妃でいられると思うかい? ……侯爵家も、僕を婿に迎えるしか、道はなくなるだろうな」
……この男。
口の中に苦いものが広がる。一時でもこんな男を想って落ち込んでいた自分が情けない……そう思うぐらい、今のマクシミリアンは堕ちていた。
「私に指一本でも触れてごらんなさい。嚙みちぎってやるわ」
「おお、怖い。君、前からそんなに狂暴だっけ? 前はもう少しおしとやかだった気がするんだが」
「それはこっちの台詞。こんなことをされたら、誰だって狂暴になるわよ」
第一これぐらいで怯んでいる時間なんてないのよ。
だって私はあの子の母親。
アイは今頃、いなくなった私を探して泣いているかもしれない。
そっちの方が、よっぽど心配なのよ!
「……これは、猿ぐつわを噛ませた方がよさそうだね?」
言うなり、マクシミリアンはしゅるっと自分のスカーフをほどいて、私の口にぐいっと突っ込んだ。
「うう!」
だったら、血が出るまで頭突きしてやるわ!
「ははっ! 今度は頭突きする気だと、顔に描いてあるよ。だが残念ながら、そこからじゃ君は届かないはずだ」
マクシミリアンが笑いながら、私の足に触れた。
ぞわっとして蹴り上げようとしたけれど、その前にグッと足に体重をかけられ、うまく動かせない。
~~~っこの! 汚い手で触らないで……! ……っ! ユーリ様……!!!
私は心の中で彼の名を叫んだ。
わかっている。彼は今頃、リリアンと一緒にいるはずだって。
……それでもこんな時に顔が出てくるのは、やっぱりユーリ様だけなのよ……!
スカーフを嚙みながら、私がぎゅっと目をつぶった、その時だった。
ドゴォンッ!!! という破壊音とともに、部屋の壁が吹っ飛んだのは。
***
\皆様前回は素敵なパーン!をありがとうございました!/
せっかくなので、ここでもっかいやっておきましょうね!
そーれっ
「マクシミリアンめ!!!( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン」
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