第99話 ぜったいに、なにかがへんだ ◆――アイ
――ぜったいに、なにかがへんだ。
わたしはコロコロとえんぴつをころがしていた。
へやのなかにいるのは、きしのおりばーと、さくらのおばあちゃんのじじょ。
ふたりとも、ママがかえってくるのを、まっている。
ママはさっき、さくらのおばあちゃんによばれてでていったんだけど、そのおかおは、なんだかとってもかなしそうだった。
でも、しょうがないよね。
だってパパ、なんでかしらないけど、いつもりりあんおねえちゃんといっしょにいるんだもん。
りりあんおねえちゃんはだいすきだし、パパはやさしいけど、それでもぜったいにへん。
だってママのあんなかなしいおかお、みたことないよ。
パパはあさごはんも、ねんねも、いっしょにしてくれなくなったし……!
むかむかして、わたしはピンッとえんぴつをゆびではじいた。
それからとなりにいるしょこらに、ないしょばなしをする。
「ねえしょこら……。アイ、どうしたらいいとおもう?」
しょこらはちらっとめをあけて、わたしにこしょこしょいった。
「そうねえ。あたいが思うに、あのリリアンって女をぶっ飛ばすのはどぉ? おちびがやりづらいなら、あたいが代わりにボコボコにしてこようか?」
わたしはびっくりした。しょこらって、いがいとだいたん!
「それはだめだよ! りりあんおねえちゃんがかわいそう!」
「ふぅん? じゃあ、あんたのパパを一発、パーンってしようか? そうすれば、目が覚めるかも。……あ、でもあたいがやったら、頭ごとふっとんじゃうからだめね……」
わたしはしょこらにぐいっとちかづいた。
「ぱーんってやったら、パパ、もどるの?」
「うん、まあ、多分? ……本当はよくない気もしなくもないけど、まあいっか、適当なこと言っても。だってあたい、猫だし」
「わかった! じゃあアイが、パパのことぱーんってするね!」
そうときまったら、こうどうだ!
「おりばー! アイ、いまからぱぱのところにいくね!」
「へっ!? 急にどうしたんですアイ様。エデリーン様は待たなくていいのですか?」
「うん! だって、ママがかえってくるまえに、パパのことぱーんってしたいんだもん! そしたらパパがもとにもどって、きっとかえってきたママもにっこりするよ!」
「へ……? パパをぱーん……? なんのことですか?」
わたしは、ぴょんといすからとびおりた。
「しょこら!」
「なーお」
そのこえは、わたしにだけはこうきこえる。
『はいなぁ。任せてちょうだい。おちびのパパの所まで連れていけばいいんでしょ? 楽勝楽勝』
すぐにしょこらはたたたーってはしったから、わたしもおいていかれないようについていく。
「あっアイ様おまちください!」
*
とびでたおそとは、もうそらがあかくなっていた。
アイ、しっているよ。もうすこししたらおひさまはねんねして、かわりにおつきさまがでてくるんだよね? いそがなきゃ!
いっしょうけんめい、しょこらのうしろをおいかけたら、みたことのないばしょにいた。
ガラスでできたたてものに、たくさんのおはな。
おくのながーいいすに、パパとりりあんおねえちゃんがすわっていたの。
でもパパは、うっとりしためで、りりあんおねえちゃんをみている。
……なんとなくわたしは、ムッとした。
パパが、ママにうっとりしためや、やさしいかおをするのはだいすき。
りりあんおねえちゃんに、やさしいかおをするのもすき。
でも……ママじゃないひとに、うっとりしためをするのは、なんかいや!!!
「パパ!!!」
わたしがさけぶと、パパはこっちをみた。
「アイか。こんなところまでどうしたんだい。おいで」
すぐにパパのてがのびてきて、わたしをだっこしてくれる。
でも、わたしはおこっている。
すぐにパパを、パーンってしないと!
……でも、パーンって、どうするの?
わたしがよこにいるしょこらをみたら、しょこらはすぐにおしえてくれた。
「なーお」
『とりあえずおててでぶっ叩けばいいのよ』
おてて! わかった!
「パパ……」
「ん? 何だい?」
わたしはすうっといきをすった。
それからりょうてをぱーにして、ちからいっぱいパパのかおにむかって、ふったの。
「ママを、かなしませちゃだめえええーーー!!!」
ばちぃいいいいん!
ってすごいおとがして、わたしのてもじんじんした。
……あれ? おててでぶつって、これでいいの?
わたしのまえでは、わたしのりょうてにかおをはさまれたパパが、すごくびっくりしたかおをしている。
そのとき、ぴろんっておとがした。
あ、これ、“すきる”だ。
『スキル、対象浄化を習得』
……でもむずかしくてよめない。こんど、ママによんでもらおっと。
そうおもってたら、パパぐくるしそうにおでこをおさえた。
「私は、一体……!? なぜ君が隣にいるんだ、リリアン!」
パパがすっごくあせっている。
となりにいるりりあんおねえちゃんも、すっごくあせっていた。
「なんで解けたの!? こうなったらもう一度よ。『ユーリ様、私はエデリーンよ』」
「それは何の冗談だ!? くっ、なんだこの記憶は……! なぜ私は君と……!?」
「そんな……まさか効かないの……⁉」
わたしがぽかん……ってみてたら、ハッとしたパパが言った。
「エデリーンは! エデリーンはどこにいる!?」
「ママなら、さくらのおばあちゃんのところだよ」
「わかった。ならすぐに行こう。リリアン、君にも――いや、お前にも来てもらう。オリバー、連行しろ」
「はっ!」
そのときの、りりあんおねえちゃんは、すごくげんきがなかった。
おりばーがおねえちゃんのてにひもをむすんだんだけど、そのときもずーっと、しずかなまんま。
おねえちゃん、どうしたんだろ……?
***
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